2025年3月12日、日本医師会、日本慢性期医療協会、全国自治体病院協議会、四病院団体協議会が合同で記者会見を開き、2024年度の診療報酬改定後における病院経営の実態について、最新の緊急調査結果を公表した。
本調査では、全国の病院が物価高騰と人件費上昇の影響を強く受け、経営が深刻な悪化をたどっている実態が明らかになった。会見では、各病院団体の代表者が現在の医療環境の危機を訴え、診療報酬の見直しや社会保障予算の抜本的な改革を求めた。
※ 前回の関連レポートはこちら → 診療報酬改定が病院経営に与える影響
病院経営の危機的状況
記者会見の冒頭、日本医師会の松本吉郎会長は、「診療報酬の仕組みが物価上昇や人件費高騰に適応できておらず、このままでは地域医療が崩壊しかねない」と強い危機感を示した。
また、全国自治体病院協議会の野村幸宏副会長も、「公立病院では国の人事院勧告による賃上げ圧力が経営をさらに圧迫している」と述べ、公立・公的病院も厳しい財務状況に直面していることを強調した。
調査結果が示す病院経営の深刻な実態
日本医療法人協会の太田副会長が、緊急調査の結果を発表しました。今回の調査には全国1,816の病院が参加し、以下のような深刻な実態が明らかになりました。
1. 赤字病院の増加
◯病院全体の収益(企業利益)が赤字の割合:69.0%
◯本業の収益(経常利益)が赤字の割合:61.2%
◯昨年度の調査と比べ、赤字病院の割合がさらに増加
2. 診療報酬改定の影響
◯診療報酬改定後、病床利用率はわずかに上昇(+1ポイント)
◯しかし、経常利益率は-3.3%に悪化
◯医療収益の増加は1.9% だったが、経費の増加は2.6% となり、収益改善を上回るコスト増が経営を圧迫
3. 債務状況の悪化
◯WAM(福祉医療機構)のデータによると、全国の病院の42%が借入金を返済できない状態に陥っている
◯債務償還年数(借入金返済にかかる期間)が30年以上の病院が約半数にのぼり、「破綻懸念先」に分類される病院が増加
病院団体が政府に求める対応策
この厳しい現状を受け、会見では病院団体が以下の3つのポイントを政府に強く要望した。
1. 診療報酬の適正な改定
◯物価・賃金上昇を適切に反映した診療報酬の仕組みを構築
◯現行の「工程価格」制度では病院がコスト増を価格転嫁できず、持続的な経営が難しい
2. 社会保障予算の財政フレームの見直し
◯高齢化の進展に伴い、社会保障費の増加は不可避
◯予算の伸びを高齢化率に応じた形で確保し、医療機関への支援を拡充
3. 医療従事者の処遇改善
◯医療従事者の賃金は、他産業と比較して低水準であり、人材の流出が加速
◯人材確保のために、診療報酬を引き上げ、財政支援を強化することが必要
政府が対応しなければ、地域医療崩壊の危機
全国自治体病院協議会の野村副会長は、「このままでは病院が維持できなくなり、ある日突然、地域に必要な医療機関が消えてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らした。
また、医療従事者の給与が十分に確保されないことで、若い世代が医療現場を離れ、慢性的な人手不足がさらに悪化することも懸念される。
病院経営の悪化は、医療の質の低下やサービスの縮小につながり、最終的には患者に大きな影響を及ぼす。医療界全体が一致団結し、政府に対して強く訴えていく姿勢が求められる。