2025年の春闘が本格化する中、医療・介護従事者の労働組合が賃上げや労働環境の改善を求め、全国各地でストライキや街頭活動を行いました。
政府や病院側は「経営が厳しい」として賃上げに慎重な姿勢を崩さない一方、現場からは「このままでは医療・介護の提供が持続できない」という切実な声が上がっています。
賃上げ要求にゼロ回答、労働組合側は反発
今年の春闘では、大手企業が過去最高水準の賃上げを実現する動きが広がっています。しかし、医療・介護業界では国立病院機構や民間病院の多くが、「財政難」を理由に労働組合の賃上げ要求を拒否。
岡山県の医療労働組合連合会によると、賃上げが認められた施設でも月額数百円程度の微増にとどまり、ほぼ現状維持に近い状況です。また、一部の病院では寒冷地手当の廃止が検討されており、実質的な賃下げになりかねないため、労働組合側は強く反発しています。
全国各地でストライキを実施
こうした状況を受け、全国の医療機関でストライキが実施されました。
長野県:8つの労働組合がストライキを決行
岡山県:11の病院や福祉施設で約200人が参加
東京都:国立病院機構の東京医療センターなど全国120支部で短時間ストが実施
徳島県:県内の医療・介護従事者がストライキを決行し、記者会見で「賃上げなしでは地域医療を維持できない」と訴え
福岡県:国立病院機構九州医療センターで医療従事者約15人が横断幕を掲げ、賃上げを求める
宮崎県:県内3つの国立病院の職員がストライキや署名活動を実施し、待遇改善を訴え
特に国立病院機構の職員は、他の公的病院と比較して給与水準が低く抑えられていることが問題視されており、「このままでは離職が増え、地域医療が崩壊する」と強い危機感を示しています。
街頭活動やデモ行進も活発に
ストライキと並行し、各地でデモや街頭活動も行われました。
長野市・岡山駅前・宮崎市:横断幕やプラカードを掲げ、医療・介護従事者の待遇改善を訴え
福岡市:国立病院機構の医療従事者が集まり、賃上げと増員を求める
徳島県庁前:労働組合が記者会見を開き、地域医療を守るための賃上げの必要性を訴え
「賃金を上げてもらわないと、奨学金の返済だけでなく生活するのも大変」「低賃金と過酷な労働環境では人が辞めてしまい、地域医療が守れない」といった声が次々と上がり、現場の厳しい実情が浮き彫りになりました。
病院側の見解と政府の対応
病院側は「経営が厳しく、すぐに大幅な賃上げに応じるのは難しい」との立場を維持。国立病院機構も「コロナ禍の影響で受診控えが続き、医療資材の高騰もあり、経営が圧迫されている」と説明しています。
一方、労働組合側は「賃金が上がらなければ人手不足がさらに深刻化し、医療の質が低下する」と主張。政府に財政支援や政策面での対応を求めていますが、具体的な支援策はまだ示されていません。
賃金水準の現状と他業種との比較
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の経験5年相当の時給は、所定内給与ベースで1,611円、一時金を含めると1,945円とされています。
職種 | ①1-4年 | ②5-9年 | ①と②の平均 |
---|---|---|---|
医師 | 3,522円 | 4,668円 | 4,095円 |
歯科医師 | 3,183円 | 3,857円 | 3,520円 |
薬剤師 | 2,102円 | 2,185円 | 2,144円 |
看護師 | 1,707円 | 1,820円 | 1,763円 |
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士 | 1,540円 | 1,681円 | 1,611円 |
介護職員 | 1,397円 | 1,472円 | 1,434円 |
出所:厚生労働省「2023年賃金構造基本統計調査」
注:職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)、男女計、企業規模計(10人以上)を「賃金構造基本 統計調査 」所定内実労働時間数全国平均の直近3年間の平均(165時間)を前提に計算
春闘の展望と今後の課題
今年の春闘を主導する連合は、「底上げ・底支え・格差是正」をスローガンに掲げ、すべての労働者の賃上げを求めています。具体的には、
◯賃上げ分3%以上
◯定期昇給を含めた賃上げ率5%以上
を目標にしており、労働組合はこれを基準に交渉を進めています。しかし、医療・介護業界では「この基準の達成は厳しい」との見方が強く、今後も交渉の難航が予想されます。政府や経営側の協力がなければ、医療・介護従事者の待遇改善は進みにくいのが現実です。
参考
・https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/index2025.html#kakunin