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作業療法における感覚処理評価の重要性|自閉症スペクトラム障害とADHDの診断への貢献

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出典:Australian Occupational Therapy Journal, 2025年 (Marozza, A., Hay, K., & Frakking, T.)

本記事のポイント

◯SHORT Sensory Profile 2を用いたASDとADHDの感覚処理特性の比較研究
◯ASD児童は「回避」と「探索」の感覚処理特性が高い傾向
◯作業療法士による感覚処理評価が診断精度向上に貢献
◯改変尺度を用いることでDSM-5診断基準との関連付けが可能に

はじめに

感覚処理の評価は、自閉症スペクトラム障害(ASD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断プロセスにおいて重要な役割を担っています。オーストラリアのCaboolture病院で実施された研究では、SHORT Sensory Profile 2(SHORT SP2)の結果を用いて、ASDとADHDの診断における感覚処理の違いを比較し、診断基準の識別能力を評価しました。この記事では、Marozza氏らの研究を基に、作業療法における感覚処理評価の臨床的意義について解説します。

研究背景

オーストラリアのASDおよびADHD診断ガイドラインでは、感覚処理の評価が推奨されています。感覚処理の特性(探索、回避、敏感、鈍感)は、ASDとADHDで異なるとされ、SHORT SP2は感覚処理のスクリーニングツールとして広く活用されています。しかし、診断基準(DSM-5)との関連付けが課題となっていました。

研究方法

本研究は、オーストラリアのCaboolture病院における小児診断外来での後ろ向きコホート研究で、6〜13歳の児童92名を対象としています。SHORT SP2のオリジナル4領域(Seeking、Avoiding、Sensitivity、Registration)のスコア分析と、DSM-5診断基準に関連する改変尺度(4項目)の作成が行われました:

1.Inattention(不注意)
2.Hyperactivity-Impulsivity(多動-衝動性)
3.Social Communication and Interaction(社会的コミュニケーション・相互作用)
4.Repetitive and Restricted Behaviors(反復行動・限定的関心)

研究結果

対象者の内訳

◯ADHD診断:49%(38名)
◯ASD診断:26%(20名)
◯診断なし:25%(20名)

感覚処理の特性

ASD児童はSensory Seeking(探索)およびAvoiding(回避)のスコアが高い傾向が見られました。一方、ADHD児童はSensory Seekingの傾向が強いものの、Avoidingは低い傾向にありました。

内部整合性の分析

改変尺度のCronbach's alphaが高い結果を示しました(例:不注意 0.84、社会的コミュニケーションと相互作用 0.86)

改変尺度 Cronbach's alpha
不注意 0.84
社会的コミュニケーションと相互作用 0.86
反復行動・限定的関心 0.76
多動-衝動性 0.73

 

ROC分析(診断の識別能力)

◯ADHD vs ASDの識別能力:AUC = 0.82(良好)
◯ASD vs 診断なし:AUC = 0.81(良好)
◯ADHD vs 診断なし:AUC = 0.59(不十分)

作業療法における意義

1. 診断支援の役割

作業療法士は、感覚処理評価を通じて診断プロセスに重要な貢献をしています。本研究で示された改変尺度を用いることで、DSM-5の診断基準との関連をより明確に示すことができます。特に、ASDの診断には、反復行動(Repetitive Behaviors)と社会的コミュニケーション(Social Communication)が重要な指標となります。

2. 多職種チームでの協働

感覚処理の評価結果を小児科医や心理士と共有することで、診断の質を向上させることができます。SHORT SP2の改変尺度は、チーム内での共通理解を促進し、効率的な情報共有を可能にします。

3. 個別の介入計画への活用

感覚処理の違いが日常生活に与える影響を分析することで、個別の介入プランを作成することができます。特に、ASD児童における「回避」と「探索」の傾向、ADHD児童における「探索」の傾向を理解することは、適切な環境調整や支援策の立案に役立ちます。

 

研究の限界点と今後の課題

限界点

1.小規模サンプル(N=92)であり、一般化にはさらなる研究が必要です。
2.レトロスペクティブ研究のため、診断基準の記録にバイアスの可能性があります。
3.SHORT SP2の評価は親の報告に依存しており、主観的な影響が考えられます。

 

今後の課題

改変尺度の標準化や、作業療法士が診断支援においてより効果的に活用できるガイドラインの開発が求められます。また、感覚処理評価の結果を診断基準と関連付ける方法についての更なる研究も必要です。

まとめ

感覚処理評価は、ASDおよびADHDの診断プロセスにおいて重要な役割を担っています。本研究で示された改変尺度は、診断の識別能力が良好であり、特にASDとADHDの識別に有用であることが示されました。作業療法士は、感覚処理評価を通じて児童の行動特性を理解し、診断支援や個別の介入計画に貢献することができます。

今後、多職種チーム内での作業療法士の役割を明確にし、感覚処理評価の標準化された方法を確立することが重要です。これにより、ASDおよびADHDの診断精度向上と、効果的な支援策の立案に貢献することができるでしょう。


参考文献: Marozza, A., Hay, K., & Frakking, T. (2025). Use of sensory processing information in the diagnosis of autism spectrum disorder and attention deficit hyperactivity disorder in children at an Australian community hospital. Australian Occupational Therapy Journal.

作業療法における感覚処理評価の重要性|自閉症スペクトラム障害とADHDの診断への貢献

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