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392校中16校に示された改善事項|リハ職養成大学の今を読む

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リハビリテーション専門職の需要が高まる医療現場に対し、その人材を育成する大学教育の現場では深刻な課題に直面している——。文部科学省が2025年3月に発表した「令和6年度 設置計画履行状況等調査」の結果は、PT・OT・ST養成課程における「定員割れ」と「教員確保の困難さ」という構造的問題を浮き彫りにしました。

調査対象となった全国392校のうち158校に対して何らかの指摘が行われ、そのうち約10%にあたる16校がリハ関連学科を有する大学(リハ関連学科のみの大学推計約300校とすると約5%)でした。これは単なる一時的な現象ではなく、少子化や大学進学動向の変化、医療業界の構造変化など複合的な要因が絡む問題です。

この調査結果は、リハビリテーション教育に携わる関係者だけでなく、将来の医療を支える専門職を目指す学生や、その教育の質に関心を持つすべての人にとって重要な意味を持っています。本レポートでは、調査結果から見えてくる現状と課題を考えます。

設置計画履行状況調査とは?

この調査は、大学や学部の設置時に文部科学省に提出された「設置計画」が、実際にどれだけ履行されているかを確認するものです。目的は、教育水準の維持・向上および大学の主体的な改善・充実を支援することにあります。

今回の調査では以下のような結果が示されました。

対象校:392校
指摘あり:158校(40.3%)
法令違反:1校
 ・是正事項:35校
 ・改善事項:143校 ※一部重複あり

設置計画履行状況調査における用語の定義

この調査では、以下の区分に基づいて指摘が行われています。それぞれの重大性を理解することで、調査結果の意味をより深く把握できます。

区分 定義
附帯事項 認可を受けた者が設置計画を履行するに当たって遵守すべき事項及び充実することが望まれる事項
指摘事項
(法令違反)
設置計画履行状況等調査の結果、法令に抵触すると認められる事項があり、認可を受けた者又は届出を行った者に対して、必要な措置をとることを求める事項
指摘事項
(是正)
設置計画履行状況等調査の結果、設置計画の履行状況が不適当な事項があり、認可を受けた者又は届出を行った者に対して、是正を求める事項
指摘事項
(改善)
設置計画履行状況等調査の結果、充実や改善が望まれる事項があり、認可を受けた者又は届出を行った者に対してこれを通知する事項

※出典:文部科学省「令和6年度 設置計画履行状況等調査の結果について」

リハ関連学科の指摘傾向

リハ関連学科を有する複数の大学においては、以下のような共通傾向が見られました。

1. 収容定員充足率の低さ

多くの大学で、定員に対して入学者数が大きく下回る状況が続いています。中には定員の半数以下(0.38〜0.47倍)の入学者数となっているケースも見られ、文部科学省からは「教育内容の充実を通じた定員未充足の改善」が求められました。その反対に、収容定員を超過している大学等など、収容定員が適切に管理されておらず、結果として教育にふさわしい環境が確保されているか危惧されています。この問題はリハビリ系学科に限らず全国的な課題です。

2. 教員組織の維持と教員数の不足

教員数についても、多くの学科で当初の設置計画を維持できていない状況が見受けられました。特に教授などの基幹教員の高齢化や退職後の補充が十分に行われていないケースでは、教育の質の低下が懸念されており、「定年規程の適切な運用」や「教員組織の将来構想の策定」などが求められています。

このような背景には、大学全体で教員の確保が困難になっているという構造的な課題も影響していると考えられます。

指摘を受けたリハビリテーション関連学科(一覧)

以下は、文部科学省の調査結果をもとに作成した、リハ関連学科に関する指摘事項の一覧です。すべて「教育の質の向上」や「体制整備」を目的とした助言的な内容であり、各大学が今後より良い教育環境を構築するための出発点として捉えるべきものです。

大学名 学部・学科 指摘の主な内容(要約)
仙台青葉学院大学 理学療法・作業療法学専攻 教員構成の将来構想と適切な運用の必要性(改善)
群馬パース大学 理学・作業・言語学科 教員組織の運用見直しと将来計画の整備(改善)
帝京平成大学 リハビリテーション学科 教員数確保に向けた採用計画の履行(改善)
健康科学大学 理学・作業療法学コース 教育内容の充実を通じた定員充足の改善(改善)
名古屋女子大学 理学・作業療法学科 定員充足率の是正および教育内容の見直し(是正・改善)
愛知医療学院大学 理学・作業療法学専攻 教員構成の適正化と長期計画の策定(改善)
京都光華女子大学 福祉リハビリテーション学科 教育内容の充実による定員改善(改善)
森ノ宮医療大学 理学・作業療法学科 適正な入学者選抜の実施(改善)
大和大学 総合リハビリテーション学科 改善に向けた運営体制の見直し(改善)
広島国際大学(大学院) リハビリテーション学専攻 教員体制と定年規程の運用に関する整備(改善)
びわこリハビリテーション専門職大学 言語聴覚療法学科 定員充足に向けた教育内容の強化(改善)
令和健康科学大学 理学・作業療法学科 定員未充足の改善に向けた教育体制整備(改善)
岐阜保健大学 作業療法学科 教員構成と定員充足に関する対策の強化(是正・改善)
岡山医療専門職大学 作業療法学科 教員組織の安定化と改善策の再検討(是正)
熊本保健科学大学 リハビリテーション学科 定員超過の是正に向けた取組み(改善)
和歌山リハビリテーション専門職大学 理学・作業療法学専攻 教員体制と研究環境整備、定員改善など多面的な課題に対応(改善)

公的調査は「教育の質向上」のためにある

文部科学省の調査は、大学の名誉を損なうことが目的ではなく、むしろより良い教育環境の整備と社会的信頼の確保を目指すものです。指摘を受けた大学も、すでに改善に向けて前向きに取り組んでいるものと思われます。各大学は「社会に対する『約束』」として設置計画を確実に履行することが求められており、今後も改善状況について継続的な調査が行われる見込みです。

また、リハビリテーション分野は高齢化社会における医療・福祉の中核であり、質の高い人材育成が強く求められています。大学教育の整備は、今後のPT・OT・STのキャリアにも直結する重要なテーマです。

▶︎令和6年度 設置計画履行状況等調査 

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