目次
- 1. はじめに
- 2. 見逃されがちな女性の悩み:性交疼痛と性機能障害
- 3. 最新エビデンスが示す理学療法の可能性
- 4. 理学療法アプローチの多様性
- 5. 臨床応用への展望:理学療法士の役割
- 6. 職域拡大に向けた課題と展望
- 7. おわりに:女性の健康に貢献する理学療法の未来
- 8. 参考文献
はじめに
理学療法士として働く中で、私たちの職域は年々広がりを見せています。運動器疾患や脳血管障害、呼吸・循環器疾患など、従来の活躍の場に加え、近年では女性特有の健康課題へのアプローチも注目されるようになってきました。特に性交疼痛(dyspareunia)や女性性機能障害(Female Sexual Dysfunction: FSD)といった、これまであまり表に出てこなかった悩みに対しても、理学療法が貢献できる可能性が広がっています。私自身、この領域での臨床経験は限られていますが、最新の系統的レビューやメタアナリシスを紐解くことで、理学療法士がこの分野でどのように貢献できるのか、そのエビデンスと可能性について探ってみたいと思います。見逃されがちな女性の悩み:性交疼痛と性機能障害
「痛みを感じない性行為」は、多くの女性にとって当たり前のようで、実はそうではありません。米国の調査によれば、約43%の女性が何らかの性機能障害(FSD)を抱えており、性交疼痛の有病率も女性の16〜40%に上るとされています。興味深いことに、中年女性(45〜64歳)では14.8%と有病率が最も高く、若年女性(18〜44歳)の10.8%や高齢女性(65歳以上)の8.9%よりも高いことが報告されています。
性交疼痛は表在性(外陰部や膣入口部の痛み)と深部(子宮頸部、膀胱、下部骨盤の痛み)に分類されるほか、性生活開始時からの痛みを原発性、後から発症した痛みを続発性と区別します。その病因は構造的、炎症性、感染性、外傷性、ホルモン性、心理社会的要因など多岐にわたり、それぞれが複雑に絡み合って症状を形成しています。
最も驚いたのは、これほど多くの女性が抱える問題でありながら、適切な治療にたどり着ける方が少ないという現実です。「我慢するしかない」「年齢のせい」と片付けられてしまうケースも少なくないようです。しかし、最新の研究は、このような悩みに対しても効果的なアプローチが存在することを示しています。
最新エビデンスが示す理学療法の可能性
2023年にFernández‑Pérezらが発表した系統的レビューとメタアナリシスは、性交疼痛に対する理学療法の効果を包括的に検討した画期的な研究です。19件の研究を分析したこのレビューでは、理学療法が痛みの軽減と生活の質の向上に有意な効果をもたらすことが科学的に示されました。