目次
- はじめに
- 成人特発性側湾症の病態と課題
- 感覚運動トレーニング(SoMT)の理論的背景
- コア・ストレングス・トレーニング(CST)の発展
- 複合療法の可能
- 評価指標の多面的アプローチ
- 臨床現場での実践ポイント
- 今後の展望と課題
- まとめ
- 参考文献
はじめに
理学療法士として長年側湾症患者と向き合ってきた中で、成人期に移行した特発性側湾症(Adult Idiopathic Scoliosis:AdIS)の治療における課題は決して単純ではないことを痛感しています。成人特発性側湾症患者は、治療を受けていない患者と比較して腰痛の有病率が著しく高く、生活の質に深刻な影響を与えているという現実に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。
本稿では、最新の研究エビデンスを踏まえながら、感覚運動トレーニング(SoMT)とコア・ストレングス・トレーニング(CST)を組み合わせた革新的なアプローチについて、臨床現場での実践を念頭に置いて解説したいと思います。
成人特発性側湾症の病態と課題
痛みの複雑性と姿勢制御の関係
成人期の側湾症では、思春期とは異なる複雑な問題が生じます。姿勢制御能力の障害が脊椎の変形進行と疼痛発症に密接に関連しており、単純な筋力不足以上の問題が潜んでいることが明らかになってきています。
臨床では、患者から「なぜ痛みが続くのか分からない」という声をよく聞きます。これは、脊椎の構造的変化だけでなく、感覚統合や運動制御の複雑な相互作用が背景にあるためです。Bagheriら(2018)¹²の研究では、思春期特発性側湾症患者において前庭系と体性感覚系レベルでの重心動揺信号のエネルギー率が健常者より有意に高いことが報告されており、感覚情報処理の変化が姿勢制御に影響を与えていることが示されています。
さらに、Wangら(2019)¹⁶は、側湾症患者では静的立位時の皮質動態において、感覚運動情報処理に関連する脳活動パターンに変化が認められることを報告しています。このような神経科学的知見は、側湾症治療における感覚運動統合アプローチの重要性を裏付けています。
従来の治療法の限界
これまで側湾症の保存的治療といえば、装具療法が主流でした。しかし近年、理学療法的側湾症特異的運動(PSSE)の有効性を示すエビデンスが蓄積されてきています。Maruyamaら(2022)⁵は、装具療法が従来の治療の主軸であったが、PSSEが特発性思春期側湾症の効果的な管理を可能にするという証拠が増えていると報告しています。
成人期では装具の適応が限定的であることから、運動療法の重要性がより高まっています。Negriniら(2018)⁴のSOSORTガイドラインでは、成長期終了後の成人側湾症においても、適切な運動療法が症状管理と機能改善に有効であることが示されています。
ただし、Weissら(2012)⁹が指摘するように、理学療法は特発性側湯症患者に有益な効果をもたらす可能性があるものの、成長期においては単独治療としての限界もあります。成人期においては、この制約が軽減されるため、運動療法が中心的な役割を果たすことになります。
感覚運動トレーニング(SoMT)の理論的背景
Jandaアプローチからの発展
感覚運動トレーニングは、1970年にウラジミール・ヤンダ博士によって開発された革新的なアプローチです。Pageら(2006)³⁰によると、