第121回社会保障審議会介護保険部会で6月2日、地方におけるリハビリテーション専門職不足の深刻化が明らかになりました。特に離島や中山間地域では理学療法士等の確保が困難となり、要介護者への適切なサービス提供や介護予防支援に支障をきたしている実態が報告されました。一方で、住民主体の支え合い活動も期待ほど広がっておらず、地域の介護予防体制に多重の課題が浮上しています。
離島・中山間地域でリハビリ専門職が枯渇
長崎県の新田参考人(福祉保健部長)は深刻な現状を報告しました。「少子高齢化や人材流出などの影響により、特に離島などの地域において理学療法士といったリハビリテーション職種による要介護者に対する介護サービスの提供が困難になりつつある現状があります」として、生活機能の低下が見られる高齢者への介護予防を含めた十分な支援が難しい状況にあると述べました。
この問題は介護予防・日常生活支援総合事業の運営にも大きな影響を与えています。厚労省の論点整理では、地域リハビリテーション体制や通いの場の取り組み、高齢者の保健事業との一体的実施など、介護予防関連施策との効果的な連携と医療専門職等の適切な関与のあり方が検討課題として位置づけられています。
住民主体サービスも低調、専門職頼みの構造
総合事業では、住民主体の支え合い活動が期待されたものの、普及が進んでいない実態も明らかになりました。従前相当サービスを実施する自治体が9割を超える一方、住民ボランティアによるサービスBは限定的にとどまっています。
民間介護事業推進委員会の山際委員は「当初はサービスBを大きく増やす計画だったが、なぜこうなったのか振り返りが必要。助け合い活動は縮小傾向にあり、民間事業者の力をどう活用するかの視点が必要」と指摘しました。
この状況下で、限られたリハビリテーション専門職への依存度がさらに高まる構造となっており、人材不足の地域では介護予防機能の維持が困難になっています。
医療介護連携でリハビリ機能強化も
一方で、制度面では連携強化に向けた取り組みも進んでいます。江澤委員は「令和6年度の同時改定では医療機関の退院時カンファレンスに在宅リハ、通所リハや訪問リハの医師またはリハビリ専門職が参加する仕組みも構築された」と報告し、この取り組みのさらなる推進を求めました。
また、栄養・口腔管理等にもつながるよう3職種連携の取り組みを踏まえた退院時カンファレンスの議論の充実も必要との指摘がありました。
財源制約も運営を圧迫
専門職不足に加え、財源面での課題も深刻化しています。地域支援事業には上限額が設定されており、高松市の石野参考人は「高齢者人口増加に物価・人件費高騰が重なり、地域のニーズに十分対応できない」と窮状を訴えました。
限られた財源の中で専門職を確保し、質の高い介護予防サービスを提供することの困難さが浮き彫りになっています。
地域包括支援センターの業務過多も課題
介護支援専門員協会の小林委員は、地域包括支援センターの業務過多を指摘しました。「高齢化の進展で役割がより重要になるが、予防プランの作成に追われ、地域づくりに積極的に関与できない状況」として、業務整理の必要性を強調しました。
地域のリハビリテーション体制をコーディネートする役割も期待される地域包括支援センターの機能強化も急務となっています。
成功事例に学ぶ地域づくりの重要性
厳しい状況の中でも、成功事例は存在します。奈良県生駒市では認知症の人を対象としたサービスCの取り組み、愛知県豊田市では産業振興と連携した地域づくりで成果を上げています。
これらの事例に共通するのは、限られた専門職を効果的に活用し、地域全体で支える仕組みを構築していることです。
2040年に向けた持続可能な体制構築が急務
2040年を見据え、現役世代の減少が避けられない中、専門職と住民が協働する持続可能な地域支援体制の構築が急務となっています。特にリハビリテーション専門職については、限られた人材を地域全体で共有し、効果的に活用する仕組みづくりが求められます。
厚労省は令和6年度に総合事業の要項改正を実施し、多様な主体の参入促進を図っていますが、専門職不足という根本的な課題への対応も併せて検討する必要があります。
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