2040年には認知症・軽度認知障害(MCI)の高齢者が1200万人に達し、高齢者の3人に1人、国民の1割を占める見通しであることが、第121回社会保障審議会介護保険部会で改めて示されました。うち4人に1人は独居となる予測で、地域包括ケアシステム全体を認知症対応型に転換する必要性が議論されました。
深刻な課題として、認知症の医学的診断を受けていない高齢者の多さが指摘されました。桜美林大学の阿部委員は「認知症高齢者日常生活自立度2以上と判定された在宅要介護者のうち、医学的診断を受けているのは約3割。施設入所者でも『詳細不明の認知症』が最も多い」と現状を報告しました。
この状況は、認知症の人のニーズに応じた質の高い医療・ケアの提供を困難にしています。阿部委員は「医学的診断がなければ、その人に適した支援の組み立てができない。医療介護連携の推進で、認知症疾患の診断体制確保は極めて重要」と強調しました。
制度面では、地域支援事業内での縦割りが課題となっています。「介護予防・日常生活支援総合事業と認知症総合支援事業が分断され、認知症の人の日常生活支援が十分に機能していない」(阿部委員)状況です。
認知症の人と家族の会の和田委員は、より深刻な問題を指摘しました。「要支援1と認定された認知症の方の生活を総合事業の枠組みだけで支えることは物理的に不可能。総合事業の報酬が低く、サービス提供事業者が減っている」として、制度設計の根本的見直しを求めました。
和田委員はまた「介護の社会化を目指して介護保険ができたが、介護が家族に戻る事態が生じている。家族という組織も以前ほどしっかりしておらず、規模も小さくなっている」と家族介護の限界を訴えました。
一方、認知症基本法の施行を受け、国の基本計画が策定され、今後各自治体で推進計画の策定が進みます。阿部委員は「地域包括ケアシステムを認知機能低下高齢者に対するサービス提供の標準とし、身近な場での意思決定支援と権利擁護を含む日常生活支援の仕組みが必要」と提言しました。
認知症サポーターは1500万人に達しましたが、活用面での課題も指摘されています。今後は本人・家族の参画を得ながら、共生社会実現に向けた実効性ある施策展開が求められています。
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