医療12職種の養成・確保へ厚労省が新検討会を始動──PT・OT・ST協会会長が「出口対策」「リカレント」「遠隔学習」を提言

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厚生労働省は2026年5月7日、「第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」を開催しました。医師・歯科医師・薬剤師を除く医療関係12職種を対象に、18歳人口の減少と養成校の定員割れが進む中で、養成・確保策を職種横断的に議論する場です。リハビリ専門3団体(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)の協会会長がそろって構成員となり、社会人参入策、遠隔学習、出口対策などの論点を提示しました。

本検討会の問題意識は、単なる養成校支援にとどまりません。背景には、新たな地域医療構想(2040年)への対応、生産年齢人口の減少、高齢者救急・在宅需要の増大、医療DXの進展といった大きな潮流があります。「人が足りなくなる前提で、医療提供体制をどう組み替えるか」という大きな再設計の一部として、人材の養成・確保が論じられる構図です。

検討会の位置づけ──新・地域医療構想と連動

本検討会は、社会保障審議会医療部会の取りまとめ「医療機関の業務効率化・職場環境改善の推進に関する方向性について」を受けて設置されたものです。医師・歯科医師・薬剤師についてはそれぞれ別の検討会で議論が進められており、本検討会の対象は看護職員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、救急救命士、義肢装具士、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師、歯科衛生士、歯科技工士の12職種です。今回は医療関係職種全体の議論というより、養成校の定員割れなど共通課題を抱える職種群を中心に対象化されています。

座長は國土典宏氏(国立健康危機管理研究機構理事長)、座長代理は野口晴子氏(早稲田大学政治経済学術院教授)。構成員は職能団体代表、地方自治体(福島県)、有識者などで構成され、文部科学省がオブザーバー参加しています。今後は月1回程度のペースで議論し、本年冬頃にとりまとめて医療部会に報告する予定です。

背景データ──18歳人口100万人割れと養成校の定員割れ

厚労省が示した資料3「医療関係職種を取り巻く現状について」では、18歳人口は2026年度以降に大学進学者が減少局面に入り、約10年後には100万人を切ると予測されています。2021年と2040年を比較すると、18歳人口が40%超減少する県が20以上、50%超減少する県も複数あります。

養成校の定員充足率も多くの職種で低下傾向にあり、今後の地域医療提供体制を支える人材確保の前提が揺らいでいる状況です。日本労働組合総連合会の平山春樹氏は、2024年度の月収換算で全産業平均が38.6万円であるのに対し、看護職員・医師・歯科医師・薬剤師等を除いた医療関係職種は34.1万円と低水準にあるデータを引き、賃金水準や労働環境への不安が職業選択にも影響しているとの見方を示しました。

処遇改善は、複数の構成員から重要課題として指摘が相次ぎました。一方で厚労省事務局は、処遇改善のあり方は主として診療報酬・介護分野の専門委員会等で議論されるべき事項との整理を示しました。資料4でも、ワークライフバランスや給与条件の改善は「引き続き課題」として認識されており、背景要因として位置づけつつ、主戦場は別の会議体に振り分ける整理になっています。

PT協会・斉藤秀之会長──「出口の議論なくして養成だけ支えても就職しない」

日本理学療法士協会の斉藤秀之会長は、複数回にわたって発言し、本検討会の論点設計に強い問題意識を示しました。

第一に、本検討会で扱う職種は社会保障制度上、公的保険のなかで不可欠な職種であることを社会に強く打ち出すべきだとの見方を示しました。「エッセンシャルワーカー」と同列ではなく、高度な専門性を担う職種群として位置づけたうえで、各職能団体が個別にアピールするとポジショントークになりかねないため、医師会や行政と連携して医療職全体への参入を促す「うねり」をつくる必要があると述べました。

第二に、過疎地域における出口の議論を強調しました。養成校を作って支援しても、卒業生が当該地域に就職しなければ地域医療の確保にはつながらない実態に触れ、「過疎地域の医療をどうするか」という出口論を伴わなければ、養成段階の議論は効率を欠くとの認識を示しました。国民への医療サービス提供水準をどこまで維持するのかという議論にも踏み込むべきだとの提起もありました。

第三に、職能団体への加入率が低下している現状を指摘。専門職が他産業へ流出している問題があまり議論されていないとして、検討会の論点に加えるよう求めました。さらに別の発言では、東京都心部と過疎地域では同じレギュレーションでの運用が難しくなっているとして、規制緩和の視点を論点に加えるよう提案しました。

OT協会・山本伸一会長──「社会人入学とリカレント教育に力を」

日本作業療法士協会の山本伸一会長は、養成体制の整備について、産業界から医療への人材移動、中高年の学び直し、女性の再就業の3点が今後の鍵になるとの見方を示しました。

山本氏の説明によると、作業療法士の今年度入学者は4,000人を超え、そのうち4〜5%が社会人入学者であるとのこと。社会人経験者は生活者の視点が強くコミュニケーション能力も高いため、地域活動や家族支援において強みがあるとし、リカレント教育の整備が中長期的な確保策として重要との立場を示しました。なお、資料3における作業療法士の養成施設入学定員は7,648人で、定員充足率は66.5%です。

具体的な好事例としては、山梨県の「リハビリテーション1日体験」事業を紹介。山本氏によると、20年にわたって継続されており、これまでに約2,500名が体験し、そのおよそ4分の1がリハ職に進学しているとのこと。こうした参入導線を全国レベルで行政が支援する仕組みづくりを要望しました。

ST協会・内山量史会長──「12県で養成校なし、遠隔学習の場を」

日本言語聴覚士協会の内山量史会長は、言語聴覚士の養成課程の多様性と地域偏在の深刻さを訴えました。

言語聴覚士は1997年(平成9年)に国家資格化された比較的新しい職種で、3年制専門学校、4年制大学、夜学、大学院修士、有資格者向け1年課程など、多彩な養成コースが存在します。資料3における言語聴覚士養成施設の定員充足率は72.9%にとどまります。内山氏の発言によると、全国12県には言語聴覚士の養成課程がなく地域偏在が著しいほか、学生数も平成期に比べて減少傾向にあり、求人活動にも苦労しているとの現場感が共有されました。

こうした状況を踏まえ、資料に示された「遠隔地における学習の場の設置」は非常に魅力的な取組だと評価。あわせて、せっかく言語聴覚士になっても他職業へ転職する傾向が強まっているとして、小学校段階のキャリア教育や出前授業に医療従事者が関わる枠組みづくりを提起しました。

「ポジショントークやめよう」──全日病・神野会長の警鐘

全日本病院協会の神野正博会長は、議論の冒頭で「ポジショントークはやめよう」と全構成員に呼びかけました。各職種の利害から離れ、養成・確保という共通課題で建設的な議論を行う必要があるとの立場です。

そのうえで論点に追加すべき事項として、初等・中等教育段階での医療の魅力発信と、離職防止の議論を提案しました。神野氏は地元の例として、町内の看護学校・救急救命士養成校・PT/OT養成校がいずれも定員割れで存続の危機にあるとし、地方都市の養成校の持続可能性を制度として支える仕組みづくりを強く求めました。具体的には、定員が半減しても教員数や運営コストは変わらない構造的問題を挙げ、サテライト化や遠隔授業の制度設計を提案しました。

同様の問題意識は、日本義肢装具士協会の東江由起夫会長からも示されました。義肢装具士の養成校は全国10校と少なく、北海道では大学・専門学校の養成校が相次いで募集停止となり、養成が極めて困難な状況に陥っているとの危機感が共有されました。

看護協会・歯科医師会・地方自治体からの論点

日本看護協会の中野夕香里専務理事は、医師・歯科医師・薬剤師も検討対象に含めるべきだと提案。看護領域でも全体数より偏在が課題になっているとし、潜在化した有資格者の復職支援として、知識・技術の更新の仕組みと柔軟な働き方を許容する職場づくりが効果的だとの見方を示しました。

日本歯科医師会の寺島多実子常務理事は、歯科衛生士の離職問題と歯科技工士の養成校・入学者の不足が深刻化している実態を共有しました。配置基準が定められていないため自治体からの不足が見えにくいという構造的な課題があるとし、養成校支援と社会的認知の向上を訴えました。

日本視能訓練士協会の丸林彩子副会長は、視能訓練士の養成校が全国27校で県によっては養成校がなく、職種としての社会的認知度の低さが課題だと指摘。各団体の認定資格が公的な処遇に反映されれば離職防止に資するとの提案を行いました。

日本救急救命士会の喜熨斗智也会長は、救急救命士養成所の指導要領で授業方法が「対面授業によるもの」と定められており、遠隔授業に規制がかかっている現状を説明。柔軟な対応への見直しを求めました。救急救命士の半数以上が公務員(消防機関)であることから、兼業規制の柔軟化により地域のスポーツイベント救護等への参加を可能にし、質を確保する道筋も提案されました。

福島県保健福祉部の風間雄一郎次長は、地方行政の立場から、地域の養成校が地域医療の担い手育成に欠かせない存在であると強調。県の医療計画を所掌する立場から、需要側と供給側の理解が必ずしも一致していない実情に触れ、国全体としての将来ビジョンを明確に示したうえで地方が実情に応じて施策を選択できる「ベースパッケージ」の整備を求めました。

資料の取り扱いをめぐる注文──臨床検査技師・臨床工学技士から

日本臨床衛生検査技師会の横地常広代表理事会長は、資料3の養成課程データに含まれる「科目承認校」(臨床検査技師等に関する法律施行令第18条第3項に基づく大学等)の扱いに注意を促しました。これらを含めた数字は実際の入学定員と国家試験受験者数で大きく乖離するため、議論のミスリードにつながりかねないとして、慎重な資料整備を要望しました。同様の懸念は、日本臨床工学技士会の青木郁香専務理事からも示されました。

青木氏は、臨床工学技士の養成課程が3〜4年の標準コースに加え、科目保有者向けの1年・2年コースなど多様化していることに言及。1年課程では基礎科目が一部免除される一方、残りの単位を1年で履修するため、入学後数か月で病院実習を迎える学生もおり、指導側にも相応の負担が生じると述べ、多職種への安易な拡大には慎重な議論を求めました。

大学振興・連携の視点──文科省関連の臨時委員から

共愛学園前橋国際大学学長で、中央教育審議会大学分科会・地域大学振興有識者会議座長を務める大森昭生氏(臨時委員)は、文部科学省側の動きを共有しました。大学等連携推進法人の枠組みでは、連携開設科目を卒業要件上30単位まで他大学科目への置き換えが可能であり、複数の学部等での基幹教員算入の上限を4分の1までとする運用とあわせ、地域内での科目・教員の融通を進める仕組みが整いつつあると説明。さらに2026年1月に施行された「地域アクセス確保特例制度」では、地域アクセス確保に資する大学等として認定を受けた場合、単位互換や遠隔授業に関する一部規制について特例が適用される可能性があるとされています。

大森氏は、これから立ち上がる地域プラットフォームは医療従事者専用ではなく地域の高等教育アクセス全体を担保するための仕組みであるため、医療従事者養成大学もその枠組みに参加する形で持続性を確保する道筋がありうると提示しました。あわせて、資料3の養成施設データを国公立・私立、4年制・短期大学に分けて把握する必要があるとも指摘しました。

主な論点(資料4)──4本柱で議論

資料4で示された主な論点は次の4点です。

①養成体制の整備:若者・社会人等の「なり手」確保策と、中長期的な「なり手」減少にも対応できる持続的な養成体制の整備、多様な人材が参入しやすい養成課程・養成環境

②養成から現場へのつなぎ支援:養成校・職場の各段階で資質の向上を図りつつ、職場・地域へのスムーズな定着に結びつく方策

③働く環境の整備:長い職業人生を通じ、意欲・能力等に応じて継続的にキャリア・スキルの向上が図れたり、ライフコースに応じて働き続けられる環境

④地域における推進体制の整備:各地域で医療関係職種の需給状況や養成・確保にかかる課題を把握・共有し、必要な取組を計画的に進めることができる枠組み

これらの論点には、PT斉藤会長が提起した「出口対策」「規制緩和」「他産業流出」、OT山本会長の「リカレント教育・社会人入学」、ST内山会長の「遠隔学習・キャリア教育」がそれぞれ交差します。各団体の論点が今後の議論で正式に位置づけられるかが注目点です。

今後のスケジュール

検討会は今後、月1回程度のペースで論点ごとに議論を深め、適宜医療部会に報告したうえで、本年冬頃のとりまとめを目指します。職種別・地域別・年齢別の需給データの整備が複数の構成員から要望されており、次回以降の事務局資料の充実が論点把握の前提になります。

リハ職種の養成現場・職能団体・地域医療の三層に関わる論点が一気に俎上に載った第1回でした。PT・OT・ST協会会長の提言が論点として正式に組み込まれるかが、第2回以降の最初の試金石となります。

出典:厚生労働省「第1回 医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」(令和8年5月7日)配布資料・議事内容

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