看多機利用前の55.3%が医療機関から──退院後の在宅拠点機能と加算簡素化が令和9年度改定の論点に

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社会保障審議会介護給付費分科会(分科会長:岩村正彦・東京大学名誉教授)は2026年5月25日、第257回会合を開催し、令和9年度介護報酬改定に向けて小規模多機能型居宅介護(小多機)、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)、認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)の3サービスを議題にしました。岩村分科会長は冒頭で「夏までをめどに各サービスの確保について議論する」方針を改めて確認。前回・第256回(2026年4月27日)で示された「令和9年度介護報酬改定に向けた今後の検討の進め方」を受け、本回からサービス別の本格議論に入った形です(関連:第256回分科会と老健の経営状況に関するPOST既報)。事務局が提示した論点は3サービスに共通して「加算の簡素化」を掲げ、グループホームでは認知症基本法および認知症施策推進基本計画を踏まえた「地域に開かれた拠点機能」の強化が問われました。PT・OT・STにとっても、機能訓練・生活機能向上連携・退院後の在宅移行といった接点が多いサービス群です。

議論された3サービスの規模と経営指標

厚生労働省老健局が示した各サービスの足元の状況は次のとおりです。

  • 小多機:請求事業所数は令和元年度以降ほぼ横ばいで直近3年連続減少。受給者数は令和3年をピークに減少傾向。平均要介護度2.4、要介護3〜5の利用者は42.9%、独居が約46%、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上が約37%。令和6年度決算の収支差率6.0%(金額ベース32.9万円)。
  • 看多機:請求事業所数・受給者数・費用額とも近年増加傾向。要介護3以上が約64%、平均要介護度3.2と他の多機能・居住系サービスより重度。市内に事業所がない市町村は1,265か所(全市町村の約7割)。令和6年度収支差率6.5%(同51.8万円)。サービス利用前の居場所は医療機関55.3%、自宅29.4%で、医療機関からの直接受け入れが半数を超えます。
  • 認知症グループホーム:事業所数14,233、受給者22.0万人。平均要介護度2.64、要介護3以上が約51%。令和6年度収支差率4.9%(同33.3万円)。第9期介護保険事業計画では令和8年度に23万人(令和5年度比9%増)の見込み量。

3サービスとも「介護離職ゼロ」に向けた基盤整備の対象で、第9期計画では小多機13万人(13%増)、グループホーム23万人(9%増)の見込みが置かれています。一方で人材確保や利用者確保が事業継続の課題として共通して挙がりました。

共通論点① 加算の簡素化と「処遇改善加算の基本報酬組み込み」

3サービスの論点には共通して「算定率が低い加算・高い加算をどう考えるか」が盛り込まれました。累次の改定で加算の種類と取得要件が複雑化しており、令和6年度改定の審議報告でも「報酬体系の簡素化を引き続き検討すべき」とされていた経緯があります。

健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、算定率の低い加算は理由を精査して必要性を検討し、算定率の高い加算は普及したものとして基本サービス費に組み込むなど整理すべきと主張。連合の平山春樹委員も、日常的に行っている基本的なサービスは基本報酬への評価とするなど、シンプルで持続可能な報酬体系への見直しを求めました。

慶應義塾大学大学院の堀田聰子委員は、加算の性格別の整理を提案。体制整備に関わる加算は基本報酬に組み込み、対象属性別の加算は維持、算定率が低いものは要件緩和か事務簡素化のいずれが有効かを検討すべきとの整理を示しました。さらに、処遇改善加算については17年間にわたり管理コストをかけ続けてきた経緯を踏まえ、基本報酬への組み込みを検討すべき加算ではないかと言及。福岡国際医療福祉大学学長の松田晋哉委員も、将来的にAIを活用した請求事務を見据えると、加算間の解釈の難しさを解消する制度設計が必要との視点を加えました。

小多機 ── 「中重度の受け皿」と利用実態のギャップ

小多機の論点としては、(1)サービス提供体制の確保策、(2)中重度になっても在宅生活継続を支える役割と評価、(3)加算の整理、の3点が示されました。

事業所が減少傾向に転じている要因として、人材確保(78.5%)、経営・収支面(60.7%)、利用者確保(56.3%)が事業継続の阻害要因に挙がっています(令和7年度老人保健健康増進等事業、n=135)。日本介護支援専門員協会の濵田和則委員は、利用者数が時期により変動するため夜勤・宿直の固定費負担が経営を圧迫していると指摘し、サテライト型の基準緩和策の検討を提案しました。

一方、論点に「更なる普及が求められる」と書かれている一方で平均要介護度が2.4にとどまる現状を踏まえ、「中重度の受け皿」という役割との合致度に疑問を呈する意見も出ました。委員からは、経済財政諮問会議で民間議員から提案された介護事業所の多機能化・大括り化の方向性に触れつつ、個別サービス類型ごとの議論ではなく地域全体での持続性確保へ視点を移すべきとの問題提起がありました。全国老人保健施設協会の東憲太郎会長も、平成18年度の創設経緯を振り返り、周辺の老健施設や関連サービスの状況を含めて事業所減少の原因を分析する必要があると指摘。地域に既存の社会資源があれば、すでに小多機・看多機の機能を一部代替している可能性があるとの見方を示しました。

日本慢性期医療協会の田中志子委員は、隣接自治体からの利用が広がり「地域密着から広域密着」になっていると指摘。看多機を含めて指導管理を都道府県に移すことや、老健に大規模多機能としての包括払いを導入する方向性も提案しました。

看多機 ── 退院後の在宅移行支援と医療機関連携

看多機の論点は、(1)安定的なサービス提供のための方策、(2)加算の整理、の2点に絞られました。サービス利用前の居場所は医療機関55.3%、自宅29.4%。利用終了者の転帰では医療施設への入院と死亡(看取り)が増加し、看取りは自宅平均0.8人に対して看多機1.2人と、自宅より看多機での看取りが多くなっています。

日本看護協会の委員からは、退院直後やターミナル期での柔軟な対応に対する評価の充実、緊急ショートステイの報酬設定の見直し、機械浴に対応できない事業所が外部の訪問入浴介護サービスを利用する場合の評価などが要望されました。あわせて、共生型サービスの指定対象に訪問介護を含めることや、市町村内に事業所がない地域での区域外利用に関する事務負担軽減も提起されました。同委員は、看多機で訪問介護員の有資格者を配置している事業者が70.9%、サービス提供責任者の資格保有者を配置している事業者が56.6%にのぼるとする同協会の調査結果を紹介しています。

基礎自治体の立場からも、介護保険外の居住系サービスや医療に特化した有料老人ホーム、提携する訪問看護事業所等の増加で看多機の新規参入が難しくなっている現状への懸念が示されました。地域密着型サービスの広域利用については、地域区分の適正化と具体的な手続き事例の情報共有を求める意見も出ています。

グループホーム ── 医療連携の義務化と認知症基本法対応

グループホームの論点は3点。(1)医療ニーズ対応の強化と介護人材の有効活用、(2)認知症基本法を踏まえた地域に開かれた拠点機能、(3)加算の整理です。

令和6年度改定で努力義務化された協力医療機関の2要件はおおむね確保されつつあるものの、未確保の事業所のうち半数以上は対応に未着手という状況です。健保連の伊藤委員は、施設系と同様に協力医療機関との連携を「努力義務ではなく義務化する方向で検討を進める」よう求めました。

夜勤体制については、令和3年度改定で導入された3ユニット2人夜勤の緩和を巡って評価が分かれました。NPO法人高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は、夜勤可能職員の不足や管理者の穴埋めなど現場の調査結果(夜勤シフト調整に苦慮35.7%等)を踏まえ、3人以上の手厚い配置に評価を加えるべきと主張。一方、日慢協の田中委員は、ICTや体位変換支援ベッドの普及で夜間ケアの効率化が進んでいる実態を踏まえ、ICT等の条件を満たせば複数階でも3ユニット2人夜勤を認める運用について緊急に調査するよう要望しました。

公益社団法人認知症の人と家族の会からの参考人は、認知症基本法および認知症施策推進基本計画を踏まえた最初の改定議論として、本人・家族の声の反映が十分ではないと指摘。グループホームには施設サービスのような居住費・食費の補足給付がなく、低所得者の利用が困難であることを問題提起し、市町村独自の利用者負担軽減制度を実施している自治体数のデータ提示を事務局に求めました。事務局は現時点で手元にデータがないとして、提示可能性も含めて検討するとしました。

全老健の東委員は、グループホームの収支差率4.9%についても、財政審資料で示された約7%との乖離を念頭に、社会福祉法人や医療法人の中で地代・エネルギーコスト・材料費が合算計上されている可能性を指摘。単独型と併設型を分けた経営実態の精査を求めました。

「地域密着型」の制度設計そのものへの問いかけ

複数の委員から、地域密着型サービスの枠組み自体を見直すべきとの意見が出された点も特徴的でした。田中志子委員は、地域密着型サービスの制定から20年が経過し、人口減少と介護人材不足が深刻化する中で、地域密着から広域管理への舵取りも大胆に検討する必要があるとの認識を示し、近隣自治体をまたぐ運用が想定される看多機については指導管理を都道府県に移す案も提示しました。

福岡国際医療福祉大学の松田委員は、利用者の状態像・家族構成・地域のサービス提供体制を整理した上で「サービス選択の合理性・説明性」を分析する必要があるとし、要介護度別データに偏重した現行の議論枠組みに見直しを促しました。

堀田委員も、個別のケアマネジメントの継続と地域の事業所リソースのマネジメントという二つの観点から、バックオフィス機能の集約とサービス再編を検討する必要性に言及しました。

リハ職への影響と今後の注目点

今回の議題はPT・OT・STが直接配置されるサービスではないものの、機能訓練・生活機能向上連携・退院後の在宅移行を通じて関与する場面が複数あります。

第一に、小多機は介護報酬上、訪問看護費・訪問リハビリテーション費・居宅療養管理指導費・福祉用具貸与費に限って併用算定が可能とされていますが、その算定状況のデータは今回示されませんでした。委員からは、これらの併用サービスが区分支給限度基準額の範囲内で実際にどの程度利用されているのか、リハビリテーションを必要とする要介護利用者に必要なサービスが届いているのかを検討課題として挙げる質問が出され、事務局は次回以降に向けたデータ提示を検討する考えを示しました。在宅領域で訪問リハに従事するPT・OT・STにとって、小多機利用者への関与実態が議論の俎上に乗る可能性があります。

第二に、看多機は利用前の居場所が医療機関55.3%と高く、退院後の在宅移行を支える地域拠点としての性格が一層明確になりました。回復期リハや急性期病棟から在宅へつなぐ際の紹介ルートとして、看多機の整備状況やキャパシティを把握しておく必要性が増します。

第三に、グループホームでは生活機能向上連携加算(外部のPT・OT・ST等との連携を評価)や栄養管理体制加算など、外部リハ職や多職種連携の評価項目が複数設定されています。今回の論点で「地域に開かれた拠点」「医療連携の強化」が掲げられたことを踏まえると、外部リハ職との連携加算の在り方も次回以降の議論で取り上げられる可能性があります。日本介護福祉士会の及川ゆりこ会長は、サービス提供体制強化加算で介護福祉士の配置が強化されている一方、本体報酬では専門性が十分に評価されていない構造を指摘。本体報酬において介護福祉士の専門性を適切に評価する報酬体系への見直しを求めました。

第四に、共通論点として浮上した処遇改善加算の基本報酬組み込み議論は、介護分野で働くPT・OT・ST(機能訓練指導員等)の処遇にも波及する可能性があります。基本報酬への組み込みが実現すれば、加算取得要件に縛られず処遇改善が制度化される一方、新規事業所や算定要件を満たせなかった事業所への影響など、設計上の論点は残ります。

分科会は夏までに各サービスの確保策の議論を進める方針で、地域密着型サービスの議論は次回以降も継続される見込みです。第10期介護保険事業計画(令和9〜11年度)と令和9年度介護報酬改定の議論は、本格化のフェーズに入りました。

1) 厚生労働省老健局「資料1 小規模多機能型居宅介護」(第257回社会保障審議会介護給付費分科会)2026年5月25日.
2) 厚生労働省老健局「資料2 看護小規模多機能型居宅介護」(同上)2026年5月25日.
3) 厚生労働省老健局「資料3 認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)」(同上)2026年5月25日.
4) 厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会(第257回)議事次第」2026年5月25日. 
5) POST編集部「老健の廃業が年間31施設に倍増、『今後250施設が閉鎖の可能性』」(第256回介護給付費分科会報告). 

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