患者さんのために馬券を買いに行って上げたい!
―― 会社を始めてどれくらいになりますか?
岩下先生 26歳の時に“金沢QOL支援事業所”という事業所を作りました。そのあとすぐに法人化し、5年ほど経ちます。
―― 会社をやる前は何を?
岩下先生 作業療法士として、最初は精神科病院で働いていました。精神科病院でいろいろ経験し、当時は「もう一度大学で研究し、その後臨床でスキルアップしたい」と思っていました。金沢に帰ってきて、金沢大学に社会人編入し、二年間研究しつつ回復期リハビリ病院や地域の介護施設での臨床という形で過ごしました。
―― そもそも作業療法士になったきっかけは?
岩下先生 私は生まれた時から「心室中核欠損症」という心臓の奇形がありました。小児喘息もあり、物心ついた頃から体が弱かったんです。そんなこともあり昔から病院や医療に触れることが多くありました。
学校での成績はいいとはいえず、5教科は全然ダメでした。
しかし、5教科ではない音楽や美術、図工、家庭など“答えのないクリエイティブ”なものは結構得意でした。
母親が看護師だったのでその影響や、幼少期に医療機関にお世話になった医療現場に憧れがあったこともあり、最初は看護師になろうと思っていました。
しかし、母親に相談したところ「看護師もいいけど男性だから大変なこともある。あんたが得意なことを活かせるのは作業療法士なんかがいいんじゃないか」と勧められました。
母親が「うちの病院にも作業療法士でめちゃくちゃイケメンで仕事のできる新人がいるんだよ(笑)」という話があり、、、実はなんとそれが今当社の役員を担っている藤島との出会いでもあります。その母親の助言や、藤島の情報が私にとっての作業療法士になるきっかけでした。
ほとんどの授業で寝てしまうという怠慢な学生生活
―― なぜ藤田保健衛生大学に行こうと思ったんですか?
岩下先生 それ自体に、深い意味はないんです。その当時バンドも大好きだったので、名古屋独特の音楽文化に触れる目的もあり、名古屋にしました。あと、当時は専門学校だったので3年で卒業できれば早く社会人になれるな~と。
―― 学生の時はどんな学生生活を送られたのですか?
岩下先生 とにかく、ほとんどの授業で寝てしまうという怠慢な学生生活でした。今仕事をしていて本当に思うのがのちのち気づくのですが、自分は即座のアウトプットのないインプットはとっても嫌いなようです。(笑)
今は臨床や経営などを介して、アウトプットできる環境があり、自分の成長につながる気がしていますが、学校の座学というのはどうしても頭でイメージができず、モチベーションがあがらなかったんです。
当然、成績も下の中くらい、実習でもトラブルがありました。当時、実習生として最初に担当した脳卒中の患者さんなんですが、とても優しくていい方だったんです。実習生だから仕方ないかもしれませんが、そんな方に対してなにもできていない状況が、すごく申し訳ない気持ちでした。
ある日、その患者さんに「たくちゃん、今度日本ダービーがあるんや。馬券を買ってきてくれんか?」とお願いをされました。
私も何を思ったのか「何か貢献したい!」という一心で、担当のスーパーバイザーに「馬券を買いに行っていいですか?」と、率直に聞いてしまったのです。とても厳しく叱られ、成績が悪かったことも相まって、実習はなんと不合格になりました。(笑)
聞き方に問題があったとは思いますが、今でも納得できない部分はありますけどね。
仮にもし、今自社のスタッフや、ウチの法人に実習に来る学生が「患者さんのために馬券を買いに行って上げたい!」と言ってきたら、「面白い!」といって、許可するかどうかはともかく、その純粋な思いは大切に尊重し、育てたいと思いますね。
―― 学生時代の経験から教育に興味を持たれたのですか?
岩下先生 興味があるかないかでいうとあるほうだと思います。僕の思いとしては育てるというより、その人の個性や強みを見つけ、その能力を伸ばしてあげるような能力開発に興味があります。ドラゴンボールでいうところのナメック星の最長老みたいな役割がしたいです。
リハビリテーションでも同じことが言えます。機能障害があると「よくしてあげなくてはいけない」と、マイナスな部分ととらえられることがあります。しかし脳卒中片麻痺の人が、機能障害があるからと言って何もできないわけではなく、必ずその人自身の「個性」や「強み」があります。
その強みをどんどん強化することができれば、マイナスな部分もそれに引っ張られて成長していくものだと私は思っています。そういう教育や支援にはとても興味があります。
―― 作業療法士の専門性をそこに感じますね。しかし、作業療法士の中でも理学療法士と同じようなことをしている人が中にはいます。なぜそうなるのだと思いますか?
岩下先生 そうですねぇ・・・。セラピストの仕事を、PT/OT/STで3つ円を書くと結構専門領域は重なっていると思うんです。ですから、理学療法士寄りのところに専門性をもっている作業療法士は、そのようになるのだと思います。
ただ、PT/OT/ST関わらず、今後活躍できるセラピスト像としては、【よりクリエイティブでより精神的なところにかかわることができるセラピスト】だと確信しています。
―― 会社はどのような事業をやられているのですか?
岩下先生 訪問看護ステーションなどの在宅系サービスとリハビリ型のデイサービス。
あとは以前インタビューしていただいた藤島が担っている障がい者就労支援事業ですね。それぞれが『リハス』の名前でやっています。就労支援の方では、デザイン事業、ものづくり、清掃事業、飲食、農業等、様々なことに取り組んでいます。
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岩下 琢也 先生
作業療法士 相談支援員
福祉住環境コーディネーター2級
株式会社クリエイターズ 代表取締役
プレジャーフーズ株式会社 代表取締役
藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校卒
金沢大学医学部保健学科作業療法専攻卒