世界トップの質を誇る周産期医療の穴を埋める【産婦人科オンライン代表|産婦人科医 重見 大介先生】

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 今、医療の舞台はオフラインからオンラインへ。オンラインから地方の隅々へ、医療サービスを提供できるように、整備がはじまっている。その一つのサービスとして“産婦人科オンライン”が注目を集めている。

 

 日本の周産期医療は、世界トップの質を誇る中、2015~16年の調査(国立成育医療研究センター研究班)では、102人の妊産婦が自殺していたことがわかった。驚くべきことに、この数字は、妊産婦死亡原因のトップなのだ。

 

 医療進歩によって、マクロで救える命が増えたことに異を唱えるものはいないだろう。しかし、妊産婦一人一人の中にある不安、悩み、恐怖に対してミクロの整備は不十分だったと言える。

 

産婦人科オンラインは、それに対してネットを活用した相談窓口を設置。普段から馴染みのあるスマホにより、アクセスへのハードルを下げ、企業、行政を巻き込むことによって、費用面における受診格差を減らし、妊産婦の問題に真正面から立ち向かっている。

 

妊産婦以外にも、日本の未熟な性教育や産婦人科医・助産師の働き方改革にも産婦人科オンラインは寄与していたことが今回の取材で明らかとなった。

 

今回、日本の“命”そのものを救うオンラインサービス“産婦人科オンライン”の代表である重見大介医師にお話を伺った。

 

イマイ
本日は私個人、念願でした重見先生へのインタビューということで、お時間いただきありがとうございます。

 

重見先生
こちらこそ、ありがとうございます。

 

イマイ
早速ですが、先生が運営されています産婦人科オンラインをはじめた目的を教えてください。

 

重見先生
目的は「産前産後の切れ目ないケアの実現」ということで、主に出産後、退院してからの悩みを相談できる場として、このサービスを立ち上げました。産後約5日で退院し、1ヶ月健診まで、医師とのコンタクトはほぼありません。特に一番目のお子さんを出産された方にとっては、不安ばかりの日々で、産後うつのリスクが高い期間でもあります。この時期、うつにならないためにはどうすればいいのか、ここに対して産婦人科オンラインが貢献できたらと思っています。

 

イマイ
確かに、1ヶ月健診までの期間、親や旦那さん以外に相談することはできませんよね。まして、そのような悩みを産婦人科医に相談していいものか、わからないですし。

 

重見先生
そうなんです。その点、フランス含め北欧では、かかりつけ産婦人科医という仕組みが浸透しています。かかりつけ産婦人科医の紹介は、親などの近親者からされることが一般的になっているようです。これは“広い意味での性教育”が親から子へ受け継がれているということです。

 

イマイ
海外に目を向けるとすでに、相談するための体制は整えられているのですね。実際、オンラインサービスをはじめてみて、対面とは違ったメリットはどのようなところにありましたか?

 

重見先生
そうですね。学生の子が「彼氏と避妊せずにSEXしちゃったんですけど大丈夫ですか?」といった、緊急性が高いか自身でも分からず不安の大きな相談はオンラインならではだと思います。

 

イマイ
確かにそうですね。
重見先生
このようなケースで、妊娠検査薬をどのタイミングで何回行えばいいのか、そもそも正しい避妊の知識など、本来知っておくべき性教育の一部もオンラインで行なっています。

 

イマイ
でも、このオンライン相談を受けられるのは、このサービスを導入している企業に所属する女性だけしか相談できないんですよね?

 

重見先生
そうですね。あとは、何かのサービスに附帯して使えたり、最近では私立の学校が導入してくれています。

 

イマイ
学校でも取り組みが始まっているのですね。一つ気になる点として、産前産後の問題に関していうと、旦那さんの理解も重要で、奥さんだけの相談では不十分なんじゃないかと思います。不妊の半分は、男性が原因と言われていますし。

 

重見先生
すごく重要な指摘ですね。実はその点に関していうと、オンライン相談の方が有利に働いてる点があります。

 

イマイ
と言いますと?

 

重見先生
産婦人科オンラインは平日の18時から22時に行われるため、相談中の会話を、旦那さんも近くで聞いていることができる時間帯です。ある意味では、自宅が診察室になります。

 

イマイ
自宅が診察室って、なんかいいですね。

 

重見先生
チャットでの相談もできるのですが「チャットの内容をそのまま旦那に送れるのでありがたい」という声もあります。

 

イマイ
会話のきっかけにもなりますね。旦那さんもわからないことだらけでしょうし。ちなみに、産婦人科オンラインは、女性のみ使用可能なのですか?

 

重見先生
女性に限ってはいませんが、やはりほぼ女性からですね。ただ、導入企業の男性社員の奥さんも使用できます。男性の方は、子どもの相談で小児科オンラインという姉妹サービスを利用される場合があります。

 

イマイ
確かにお子さんの相談ってかなり需要ありそうですもんね。

 

Not 18禁

イマイ
すいません。話は少し戻りまして、先ほど“広い意味での性教育”が必要との言葉が気になりました。この点について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。

 

重見先生
性教育となると=SEXと捉えられますが、「広い意味での性教育」つまり、包括的性教育は「自分の人生をより良く送るための性の扱い」ということで、国際的には5歳からのスタートが推奨されています。

 

イマイ
5歳⁉︎それは家庭内、家庭外どちらの教育も必要だと思いますが、実際誰が教えるべきなのでしょうか?

 

重見先生
やはり教育という点では、学校教育はポイントになると思います。ただ、日本を眺めてみると、学校の先生も教えてあげたいけど、教えられないジレンマがあるようです。

 

イマイ
と言いますと?

 

重見先生
保護者の目が気になるそうです。

 

イマイ
というのは、セクハラ発言ということですか?

 

重見先生
いや、そういうわけではなく。ある意味で性教育は、家庭でのパンドラの箱となり、その箱を教師がなぜ開けるのか?という点でクレームに繋がることがあるそうです。

 

イマイ
難しい問題ですね。

 

重見先生
その部分に対して、我々のサービスが、学校に導入されることで、学生たちが無料で使えるという仕組みもでき始めています。

 

イマイ
学校がお金を払ってくれると。

 

重見先生
そうです。相談内容も、学校に公開する必要もなく、学生個人が自由に使っていいということで、導入がはじまりました。

 

イマイ
相談事はやはり第三者的立場の人がポイントなんですね。さらに、学生年代の知見が蓄積されて、なお良しですね。

 

重見先生
そうなんです。今はその知見蓄積の基盤を作っている最中ですね。

 

産婦人科医も救う産婦人科オンライン

イマイ
個人的に気になる部分がもう一つありまして、余計なお世話ですが、産婦人科医が減っている中で、このサービスを支える人員確保は問題にならないのかな?と思っています。

 

重見先生
その点もよくご指摘いただきますが、産婦人科医についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 

イマイ
そうですね。人数も少ない中で、激務をこなす医師。というイメージでしょうか。

 

重見先生
もちろん現場でバリバリ働いている先生もいます。それと同時に、産婦人科医だけど、結婚して出産して、なかなか忙しい職場に戻れない医師もいるんです。

 

イマイ
確かにそうですね。激務の現場に、子育てしながらの医師が戻るのはキツイですよね。

 

重見先生
そうなんです。それによって優秀な産婦人科医が現場に戻りにくい現状がある中で、オンラインであれば自宅にいながら仕事ができます。

 

イマイ
そういうサービスすごい好きです。三方良しですね。

 

重見先生
そうですね。オンラインならではの雇用の産み方もあり、医師・助産師の働き方改革の一助にオンライン相談があればと思っています。

 

周産期うつのリスク因子

イマイ
あと、気になる話題として、最初にもお話が出ましたうつに関してです。産後うつは7人に1人、妊娠中うつは14人に1人程度いると先生のツイッターで拝見しました。

 

 

重見先生
そうですね。それに伴って妊娠中から産後1年間の自殺者も予想以上に多いのが現実です。

 

イマイ
どういった方が、うつになりやすいのですか?

 

重見先生
リスク因子として、当然元々うつを持っている人は高いのですが、その他、パートナーとの関係性が悪い、妊娠中から強い不安感を継続して持っている、などの場合にはリスクが高まります。

 

イマイ
つまり、それを相談する場所があまりないと。健診でも限界ありますしね。

 

重見先生
そういうことです。オンラインの相談では、妊娠中に生モノを食べてしまい、それが子供に影響ないかをずっと悩んで不安に思っている方もいました。

 

イマイ
流石にそのようなことを、いちいち健診時に医師に聞いていいのかわからないですよね。

 

重見先生
そうですね。ある意味では、オンラインだからこそ、相談できることも多いかと思いますし、簡単にアクセスできるというのは患者さんにも医師にもメリットが大きいです。

 

イマイ
先生は、このオンライン相談をはじめて実際の対面診察も聞く内容や対応の仕方等変わった部分はありますか?

 

重見先生
そうですね。この経験もそうですし、公衆衛生の大学院に通いはじめて、患者さんへの対応の仕方は変わったかもしれないですね。その患者さんの背景をより深く考えて対応するようになったと思います。

 

妊婦へのリハはリスクがあるのか?

イマイ
公衆衛生といえば、先生の論文をいくつか拝見させていただいて、その中でも個人的に嬉しかったのが、「切迫早産で長期入院中の妊婦に対するリハビリテーション介入の有用性」この論文です。

 

重見先生
おっ読んでいただいたんですね。

 

イマイ
はい。いくつか読ませていただいたのですが、急にリハ関連の論文を出されていたので、なぜかなと思いまして。

 

重見先生
そうですよね。理学療法士の方にお会いすると、このような研究報告は珍しいと言われます。

 

イマイ
はい。あまり聞いたことがないかと思います。

 

重見先生
実は理学療法士として活躍している一色先生が、高校の頃からの友人でして、彼のFacebookでウィメンズヘルス理学療法というものを見る機会がありました。気になって自分でも調べてみたんですけど、妊娠中の理学療法は海外ではよく研究されている一方で、そういえば日本では全然みないぞと。

 

イマイ
そうですね。分科会もここ最近できたばかりですから。

 

重見先生
私自身も、産科診療をしていて普段は意識をしないくらい、産婦人科医の中でも妊婦への理学療法は認知されていません。

 

イマイ
そこで研究してみようかと。

 

重見先生
そうですね。おそらく、理学療法士が産婦人科医に直談判しても「本当に安全なのか?」という点で門前払いの可能性もありますし。だからこそ、はじめに安全性に関する研究をしました。

 

イマイ
日本では研究されていない部分ですよね。

 

重見先生
そうですね。海外ではたくさんあるので、日本のものを出さないといけません。ちょうど今の環境として、ビッグデータも扱えるので、今日本でこの研究をできるのは自分しかいないんじゃないかと思い、3ヶ月くらいで書き上げました。

 

イマイ
大変興味深く読めました。

 

重見先生
ありがとうございます。そもそも、介入群が0.25%しかいなかったという部分も問題ですよね。少なくとも、妊娠中、リハを行うことで緊急帝王切開や切迫早産の頻度は上がっていませんでした。

 

イマイ
ウィメンズヘルス分野への理学療法士の進出は、分科会を中心に進めている最中だと思います。まだ保険等の問題はありますが、産婦人科医から見て理学療法士にやってほしいこと、要望はありますか?

 

重見先生
まず一番の問題点として、お互いの仕事のことを、ほとんど知らないですよね。

 

イマイ
そうですね。確かに。

 

重見先生
そういうところからはじめないと、ちょっと難しいですよね。産婦人科医も助産師も理学療法士も集まる場所を作っていくことですね。

 

イマイ
いいですね。やりましょう。でも理学療法士が、担える部分として、尿失禁などに対する理学療法はイメージできますが、それ以外のイメージが正直わきません。

 

重見先生
私としては、周産期うつに対して、理学療法士の役割はすごく大きいのではないかと期待しているところです。

 

イマイ
なんと!

 

重見先生
需要は大きいと思っています。産後の身体的な健康やスタイル維持等、医師に相談する内容ではないけど、専門家には相談したい。という需要は一定層あって、それを担うのが理学療法士だと思っています。

 

イマイ
それこそ、先ほどお話しいただいた、出産された産婦人科医の再雇用と同じで、産後の理学療法士にとっても非常に良い場になると思います。

 

重見先生
そうですね。そうなってもらえるよう、将来的には準備を進めたいと思っています。

 

イマイ
いざ、理学療法士が相談に加わるとして、医師、助産師、理学療法士の業務範囲を棲み分けることが同時に重要だと思いますが、この辺りの棲み分けはどのようになると思いますか?

 

重見先生
現在、相談者が相談したい内容を選択すると、医師に相談すべきか助産師に相談すべきか、リコメンデーション機能があります。

 

イマイ
それは便利ですね。

 

重見先生
その中に、理学療法士が入ってくるわけですけど、そのリコメンデーションが確実というわけではありません。なので、現在は医師への相談内容も助産師への相談内容も、クラウドカルテで共有しています。

 

イマイ
クラウドカルテに「次回医師の予約を」などと申し送りを書いて共有すればいんですね。

 

重見先生
そうです。オンライン上で常にコミュニケーションが取れるので、よりお互いの業務内容がわかります。

 

イマイ
実は、オフラインの医療よりも、オンライン医療の方がチームアプローチが進んでいるのかもしれないですね。

 

重見先生
そうですよね。幸い、我々のチームは、医師だからと偉そうにするようなメンバーは一人もいないので、是非一緒にやれたらいいなと思っています。

 

イマイ
その際には是非協力させていただきます!次回は“性”についてもう少しお伺いさせてください!

 

重見先生
ぜひ、お話ししましょう!

 

産婦人科オンラインはキッズデザイン協議会会長賞を受賞されました

<審査評>
「妊産婦の孤立と産後うつや周産期医療体制の地域格差拡大は、妊娠中・産後の女性を取り巻く社会的課題である。夜間でも相談可能な専門家による質の高い情報提供の仕組み、企業や健康保険組合、自治体との提携で利用者の費用負担を軽減したビジネスモデルが素晴らしい。地方で産婦人科が減少する状況のなか、本サービスの拡充は少子化対策に有効である。」

産婦人科医|重見 大介先生のプロフィール

経歴:

2010年 日本医科大学 卒業

2010-2012年 日本赤十字社医療センターで初期臨床研修(産婦人科プログラム)

2012-2017年 日本医科大学付属病院 産婦人科学教室 ーNICU(新生児集中治療室)、麻酔科を含め関連病院で産婦人科医として勤務

2018年3月 東京大学大学院公共健康医学専攻(SPH) 卒業

2018年4月〜 東京大学大学院博士課程(医学部医学系研究科 臨床疫学・経済学教室)進学(在籍中)

資格:

2012年 NCPR(新生児蘇生法)専門(A)コース修了認定

2015年 産婦人科専門医取得、NCPRインストラクター(Jコース)修了認定、検診マンモグラフィ読影認定(千葉県)

2018年3月 公衆衛生学修士取得

遠隔健康医療医療相談サービス

「産婦人科オンライン(http://obstetrics.jp/)」

「産婦人科オンラインジャーナル(https://journal.obstetrics.jp/)」

「小児科オンライン(https://syounika.jp/)」

「小児科オンラインジャーナル(https://journal.syounika.jp/)」

 

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