パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)の運動症状は疾患早期から認め,運動症状に対して抗PD薬や理学療法などのリハビリテーションを早期から継続して行うことが重要であることは広く認識されていますが,長期間の理学療法の効果に関するエビデンスは明らかにされていませんでした.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田 洋平 准教授(健康科学部理学療法学科,大学院健康科学研究科併任)は,日本全国の研究者と共同でシステマティックレビュー,メタアナリシスを行うことにより,疾患早期から中期のPD患者に対する長期間(6か月以上)の理学療法は,運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスを初めて示しました.この研究成果は,Journal of Parkinson’s Disease(Effectiveness of Long-Term Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis)に掲載されています.
研究概要
パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)は,様々な運動症状や非運動症状を認める緩徐進行性神経変性疾患です.疾患の経過とともに,それらは徐々に進行し日常生活動作の障害が認められるようになります.抗PD薬による治療はそれらの症状を軽減しますが,疾患の進行とともにその内服量は徐々に増加します.抗PD薬の内服量の増加は,症状の日内変動や不随意運動などの副作用のリスクの増加につながります.一方,薬物療法とともに理学療法などのリハビリテーションを継続して長期間行うことが重要であることは広く認識されています.長期間の理学療法を継続して実施することにより,抗PD薬の内服量を過度に増加させることなく,運動症状の増悪を軽減できることが望ましいと考えられます.
これまで,PD患者に対する理学療法の運動症状や日常生活動作を改善する短期効果に関するエビデンスは示されておりましたが,長期間の理学療法の運動症状や抗PD薬内服量に対する効果に関するエビデンスは検証されておりませんでした.そこで,畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの岡田 洋平 准教授(同 健康科学部理学療法学科,大学院健康科学研究科併任)は,日本全国の研究者と共同で, PD患者に対する長期間の理学療法の効果に関するシステマティックレビュー,メタアナリシスを行い,長期間の理学療法は抗PD薬の薬効状態が悪い状態(オフ期)の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスを初めて示しました.
本研究のポイント
- ・パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)患者に対する長期間の理学療法の効果に関するシステマティックレビュー,メタアナリシスを実施した.
- ・疾患早期から中期のPD患者に対して,長期間(6か月以上)の理学療法を行うことにより,運動症状が改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスが初めて示された.
研究内容
2020年8月までに出版されたPD患者に対する理学療法の効果に関するランダム化比較対照試験(Randomized controlled trial: RCT)を複数のデータベース(Pubmed,Cochrane Central, PEDro, CINAHL)を用いて検索しました.特定された2940件の研究を対象にペアで厳密にスクリーニングした結果,疾患早期から中期(ヤール分類1-3)のPD患者を対象に,6か月以上の理学療法を行い,運動症状,日常生活動作,抗PD薬内服量に対する効果について検証しているRCTが10件同定されました(図1).今回のシスティックレビューでは,抗PD薬の薬効状態による運動症状に対する効果の差異について検証するため,評価時の薬効状態が明確なRCTのみを対象としました.
図1.PRISMA声明に基づくシステマティックレビューの過程 © 2021 Yohei Okada
4つのデータベースの検索と,Narrative reviewなど他の情報源から抽出したものを合わせた2940件の研究を対象に,タイトル・抄録,全文にてスクリーニングした結果,10件のRCTが解析の対象となった.
薬効状態の良好なオン期,不良なオフ期の運動症状,日常生活動作,抗PD薬内服量に関する結果を抽出し,メタアナリシスを行いました.その結果,長期間の理学療法はオフ期の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることが明らかになりました(図2).
図2.理学療法の効果(vs 介入なし/コントロール介入)に関するメタアナリシスの結果
長期間の理学療法が,介入なし/コントロール介入と比較して,オフ期の運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることが示された.
研究グループは,PD患者は薬物療法を継続していると,薬の効果が持続せず薬を飲んでいてもオフ期に運動症状の増悪を認めることが多いため,長期間の理学療法によりオフ期の運動症状が改善することのエビデンスが明らかになったことは,PD患者にとって意義深いと考察しています.また,長期間の薬物療法に伴い,抗PD薬の内服量が増加すると,PD患者が症状の日内変動や不随意運動などの副作用が出現・増悪するリスクが高くなり,社会にとっても医療費増大につながる可能性が考えられます。したがって,長期間の理学療法により抗PD内服量が減少することは,抗PD薬内服量増加に伴う副作用の発生リスクや医療費増大の抑制に寄与する可能性があり,PD患者やその家族にとってだけでなく,社会にとっての意義が大きいとも言及しています.
本研究の臨床的意義および今後の展開
本研究により,PD患者に対する長期間の理学療法が運動症状を改善し,抗PD薬内服量を減少する効果があることのエビデンスが初めて示されました.本研究成果は,PD患者が疾患早期から理学療法を継続して行う動機づけにつながり,抗PD薬内服量増加に伴う副作用出現や増悪のリスクの低下,医療費増大の抑制にも寄与することが期待されます.本研究では,介入方法による長期理学療法の効果の差異についても検討したが,研究数が少なくエビデンスの質としては十分でなかったため,今後有効な介入方法についても再度検証する予定です.また,PD患者に対するより長期間の理学療法の効果や運動療法以外の理学療法介入の効果についても研究する予定です.
論文情報
Yohei Okada, Hiroyuki Ohtsuka, Noriyuki Kamata, Satoshi Yamamoto, Makoto Sawada, Junji Nakamura, Masayuki Okamoto, Masaru Narita, Yasutaka Nikaido, Hideyuki Urakami, Tsubasa Kawasaki, Shu Morioka, Koji Shomoto , Nobutaka Hattori
Journal of Parkinson’s Disease, 2021
関連ページ
本研究のPROSPERO登録
https://www.crd.york.ac.uk/prospero/display_record.php?ID=CRD42020206939
詳細▶︎https://www.kio.ac.jp/nrc/press20210901
注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。