ウェアラブルデバイスでふらつきを測定:日々の体調変化の見える化による医療・ヘルスケア

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北里大学医学部の藤岡正人教授(分子遺伝学、耳鼻咽喉科・頭頸部外科)、慶應義塾大学医学部の山野邉義晴(耳鼻咽喉科学、大学院医学研究科博士課程)らの研究グループは、加速度センサを内蔵したイヤホン型ウェアラブルデバイスで頭部運動を追跡するシステムを考案し、その基礎研究を行いました。

メニエール病や更年期障害、起立性低血圧など、変動するふらつきやめまいを引き起こす病気は多岐にわたりますが、その多くは日常生活で生じるものです。本成果では、今まで医療機関でしか検査できなかった平衡機能を病院外や自宅で計測することで、日々のふらつき症状の変化を定量的に評価できる可能性が示されました。この成果を活用することで、平衡機能障害(注1)を呈する疾患の診断や経過観察に役立つとともに、日常生活に隠れる“体調”の変動をユーザーが自ら理解する、いわゆる“ヘルスケア”領域において、本システムが幅広く役立つものと期待されます。

今後は、遠隔医療・診療やヘルスケア領域での社会実装を目指して臨床応用研究を行うと共に、変動性内耳障害(難聴・めまい)に対する臨床試験・治験でのめまい症状の評価に活用してまいります(この研究成果は、2022年10月11日に、Journal of Medical Systemsに掲載されました)。

研究の背景

平衡機能障害としてのめまいを訴える患者の数は年齢とともに増加し、65歳以上では人口1000人あたり男性では25.0人、女性では41.0人と比較的多く(平成28年厚生労働省国民生活基礎調査)、生涯有病率は30%と極めて頻度は高いといわれています。東京消防庁救急相談センターへの受診相談者の4.1%(第6位)がめまいであり、本来、医学的には急を要さないことも多いめまい症状に医療資源が多く割かれているのが現状です。

めまいのほとんどは内耳疾患が原因で、その症状はしばしば変動し反復します。診療においては患者のめまい症状の推移を正確に把握することが重要ですが、医療機関で計測できる各種検査(重心動揺検査(注2)など)は受診時における単発の検査のため、実際には日常生活での症状は主観的な患者の訴えに頼らざるを得ず、医療者側が客観的にめまい症状の程度や変動、その推移を評価することは困難でした【図1】。

一方で近年、眼鏡型や腕時計型をはじめとする、身体の一部に装着して心拍数や酸素飽和度などの生体データを取得する「ウェアラブルデバイス」が急速に普及しています。これらのデバイスは長時間継続して生体データを取得可能であり、たとえばApple社のApple Watchによる心電図アプリのように汎用性もあるため、世界中でデバイスを利用した医学研究が行われています。

そこで研究グループでは、病院外におけるめまい症状を経時的に追跡する客観的検査の確立を目的として、加速度センサなどを内蔵するイヤホン型ウェアラブルデバイスを装着し、頭部運動を追跡することで、医療機関における平衡機能検査を代替する方法を考案しました。この方法により、頻回に測定できない医療機関での検査に代わり、患者が悩むめまい症状の頻度や強さを客観的に評価することが可能と考えられます。

【図1】 変動するめまい症状を診療する医療現場での課題

研究内容と成果

本研究では、病院の外で平衡機能検査評価を幅広く行うために、手軽でかつ汎用性のあるウェアラブルデバイスとして、加速度センサを内蔵するイヤホン型デバイスを選びました。ゲームや立体音響などで汎用されるこのデバイスでは、“頭の揺れ”(頭部動揺)を測定することが可能ですが、一方で、頭部動揺が、本来の“からだの揺れ(体平衡動揺)”や、医療現場で測定する“足圧中心の揺れ(重心動揺)”を反映しているかについてはこれまで十分に検討されていませんでした。

そこで今回はまず、頭〜からだ〜足の運動を単純化した物理的モデルを用い、頭部運動を測定することが病院の平衡機能検査に相当し得るか検討しました。すなわち、三脚を人体に見立て、頭部に相当する部分をウェアラブルデバイスで、足部の重心の運動を医療機関で使用される重心動揺計で同時測定し、双方で計測される測定量の関係性を比較しました【図2】。

【図2】 研究方法(モデル構築)

※今回ウェアラブルデバイスには、フォスター電機株式会社製、RN002 TWを用いた。

解析の結果、ウェアラブルデバイスを用いて計測した頭部運動と重心動揺計で計測した足部の重心の運動について、正の相関性があることがわかりました【図3】。

【図3】 頭部動揺と重心動揺の相関

(*IMU Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)

本研究結果は、広く市販されているウェアラブルデバイスでも、適切な信号処理を加えることで、患者の平衡障害を経時的に測定し、変動するめまい症状の全貌を追跡することができ、ウェアラブルデバイスを用いた病院外における頭位動揺の測定が、医療機関で行う重心動揺検査の評価と同じように利用できる可能性を示しています。

今後の展開

本研究を進めることで、変動するめまいなどの内耳疾患の症状変動に対する理解が進むと考えられます。今後は、メニエール病や更年期障害、起立性低血圧などの変動性内耳障害患者における計測を検討し、将来的には病院外におけるめまい症状の記録から疾患の診断を行うことを目指します。

近年、臨床試験・治験におけるデータ取得を様々なデバイスを活用して自宅で行うことが急速に増えてきました(DCT: Decentralized Clinical Trial(注3))。研究チームでは、変動する難聴・めまい症状の治療法に関する臨床研究を進めてきましたが、本研究成果をこのような臨床試験における治療法の有効性評価に活用することで、患者の病状の経時的変化を追跡し、診断やヘルスケアのみならず治験にも役立てていく予定です。

論文情報

掲載誌: Journal of Medical Systems46(80),2022

論文名: Potential Usefulness of Tracking Head Movement via a Wearable Device for Equilibrium Function Testing at Home(ウェアラブルデバイスによる頭部動揺のトラッキングを用いた自宅平衡機能検査)

著者: 山野邉義晴、藤岡正人、大橋正尚、小澤宏之

DOI: 10.1007/s10916-022-01874-4

本研究はJSPS科研費JP22J12645/JP21H04839/JP20K20409、慶應義塾大学学事振興資金、および公益財団法人武田科学振興財団からの支援を受けて行われました。

用語解説

(注1) 平衡機能障害: 姿勢を調節する機能の障害であり、四肢や体幹に異常がないにもかかわらず起立や歩行に何らかの異常を来す状態のこと。

(注2) 重心動揺検査: めまいなどの平衡機能障害の状態を評価する方法のひとつとして、直立姿勢時に現れる身体の揺れを重心の揺れとして計測する検査。

(注3) DCT(Decentralized Clinical Trial): 臨床試験において、ウェアラブルデバイス等のIoT機器やオンライン診療等を活用し、被検者が投薬・診察・検査・評価・観察などを実施医療機関へ来院せずとも参加できる臨床試験の手法。

詳細▶︎https://www.kitasato.ac.jp/jp/news/20221116-03.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。

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ウェアラブルデバイスでふらつきを測定:日々の体調変化の見える化による医療・ヘルスケア
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