【ポイント】
○スポーツや運動または日常の動作を実施するにあたり、日頃から運動機能を正確に評価し、その状態を確認することは、適切な運動を実行する上で重要です。
○本研究代表者(室伏広治)は、特別な道具を使用しない、誰でも手軽に行うことができる、運動機能に対するセルフ・スクリーニングテスト、KOJI AWARENESSTM※1を考案しました。
○本研究では、 KOJI AWARENESSTM セルフ・スクリーニングテストを、世界的に普及しているfunctional movement screen(FMS)と比較し、同等のスクリーニング能力があることが明らかになりました。
○KOJI AWARENESSTM セルフ・スクリーニングテストは、専門家の力を借りずに、各部位ごとに問題のある箇所を自らが認識できる方法であることから、広く普及される可能性があります。また、スポーツや運動や日常動作の問題に本人自らの気づきを与え、ケガ予防やパフォーマンス向上に役立つ可能性があります。
東京医科歯科大学 スポーツサイエンス機構の室伏広治特命教授、柳下和慶教授、獨協医科大学の片桐洋樹講師、早稲田大学 スポーツ科学学術院の金岡恒治教授らの研究グループは、KOJI AWARENESSTM セルフ・スクリーニングテストを FMS と比較し同等のスクリーニング能力があることを解明しました。この研究成果は、Plos One に 2022 年 12 月 30 日に掲載されました。
【研究の背景】
運動を実施するにあたり、自分自身の筋骨格系の状態や問題点を把握し、日頃のトレーニングに活かしてゆくことは、怪我を防止する上で重要です。しかしながら、トレーナーや理学療法士の専門家に、いつでも相談できる環境が全ての人にあるわけではないことから、スポーツや運動する現場において、自分の身体を自ら確認できる方法を確立することは、安全・安心に運動を行う上で大切である。研究代表者である室伏広治特命教授は、現役時代に取り組んできたセルフ・コンディショニングの知見を結集し、特別な道本件配布先:文部科学記者会、科学記者会、本町記者会2具を使用せずに、簡易的に誰でも筋骨格系の状態をスクリーニングする方法、KOJI AWARENESSTM を発案しました。過去の研究では、KOJI AWARENESSTM 総合得点と、トレーニング中の痛みの間に負の相関関係があることが確認されています。しかしながら、道具を使用せずに簡易的に評価する KOJIAWARENESSTM セルフ・スクリーニングテスト の、有資格者による道具を用いたスクリーニングテストと検討した妥当性は明らかにできていませんでした。
今回、KOJI AWARENESSTMの総合点と道具により第三者が評価する代表的なスクリーニング方法である、functional movement screen(FMS)の総合点との関連を分析し、KOJI AWARENESSTMの総合点の基準関連妥当性を明らかにすることを目的としました。
【研究成果の概要】
研究グループは、健常成人 57 名(女性 29 名,男性 28 名)を対象に、KOJI AWARENESSTM セルフ・スクリーニングテストの総合点(50 点満点)と、対象者の運動機能を評価する世界的スタンダードな方法であるFMS の総合点(21 点満点)との関連を分析し、KOJI AWARENESSTMのスクリーニング・テストとしての妥当性を検証しました。 FMS 評価では、施行資格を有する NATA アスレティックトレーナーが測定し、 KOJIAWARENESSTM の測定では、前述のトレーナーがモニタリングする中、被験者が自らチェックし採点しました。
その結果、KOJI AWARENESSTM スクリーニング・テストは、 FMS と有意に正の相関を示しました(表1,図1)。更に、性別、年齢、Body mass index、スポーツのレベルを考慮しても有意な正相関関係にあることがわかりました(図2)。よって,KOJI AWARENESSTMは、 FMS と同等に、スクリーニング・テストとして妥当であることがわかりました。
表 1. KOJI AWARENESSTM と functional movement screen(FMS)の相関係数と偏相関係数
図1.KOJI AWARENESSTM の総合点(50 点満点)と、functional movement screen(FMS)の総合点(21 点満点)との関連
図2.性別、年齢、BMI、スポーツレベルを制御変数とした KOJI AWARENESSTM の総合点と、functional movement screen(FMS)の総合点の偏相関係数
【研究成果の意義】
KOJI AWARENESSTM は、特別な道具を必要とせずに、誰もが簡易的に運動機能をスクリーニングできる妥当な方法であることが示されました。そのため、スポーツの現場において、怪我を予防する観点からも、安心安全なスポーツ実施に結びつく可能性がある。子供の体力低下が懸念されている中、 KOJIAWARENESSTM の11項目から運動機能の問題点を抽出し、個別に運動機能を改善・強化することは、成長期の安心・安全なスポーツ実施に重要な役割を果たす可能性もあります。また、子供たちのスポーツ活動において、強豪校とそうでない学校とで選手のサポート体制に格差も見られる。 KOJI AWARENESSTMの普及は、そのような格差を埋める可能性があります。
成人においても、健康診断等で異常なしと判断されたとしても、運動器障害に関連する要因は検知されません。更に、高齢者のサルコペニア、ロコモティブシンドローム等の運動器障害に対して、身体を個別の部位ごとに測定できる方法は未だに確立されていません。そのため、腰痛や肩こり、違和感といった運動機能の低下を的確かつ簡便に評価できるツールとして KOJI AWARENESSTM は有用であり、対象者に運動機能低下の気づきを与える可能性を有しています。以上のことから、KOJI AWARENESSTMを活用することは運動機能の問題を抽出し、将来的な医療・介護の軽減の一助となる可能性があります。
【用語解説】
※1KOJI AWARENESSTM:道具を使用せず、筋骨格系の機能をスクリーニングする方法。
【論文情報】
掲載誌:Plos One
論文タイトル:Validity of the KOJI AWARENESS self-screening test for body movement and comparisonwith functional movement screening
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0277167
詳細▶︎https://www.tmd.ac.jp/press-release/20230113-1/
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。 、専門家の指導を受けるなど十分に配慮するようにしてください。