慢性手術後疼痛の症例報告~理学療法士がアプローチすべき領域は?~

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必ずしも慢性疼痛=有酸素運動+認知行動療法ではないので、術後症例をを通じて理学療法アプローチを考えてみましょう

週の真ん中水曜日の江原です。慢性手術後疼痛について書いています。リハビリテーション領域では、TKA術後の遷延痛に関連する認知情動面が注目されていますが、ペインクリニックではもう少し症例が幅広い、心疾患など開胸術後乳房切除術下肢切断術鼠径ヘルニア手術後に発症した慢性手術後疼痛患者がいらっしゃいます。多くが安静や投薬治療で効果が見られずに紹介受診された方で神経ブロック治療が中心になりますが、理学療法を処方をされることもあります。

慢性手術後疼痛患者にどのような評価をし、慢性手術後疼痛のどの部分にアプローチを検討していくかを、理学療法評価とアプローチが効果的だったモデル症例を用いて考えたいと思います。

慢性手術後疼痛症例

・50歳代 男性  右利き BMI:23.4
・主訴:右胸部の術後創部痛 右胸部のしびれ・右前腕のしびれ 右手が震える
・経過:3年前に右肺の腫瘍に対して内視鏡下にて摘出した。5か月後に前胸部の痛みとしびれが出現した。その後改善せず経過している。
・所見:胸部レントゲン上異常なし。
・既往:右肋骨骨折(複数回) 発症後より体重8㎏減少
・スクリーニングテスト:Pain DETECT19点
・社会的情報:無職(発症を機に退職 元は土建業) 家族 独身 生活保護を受けている
・治療:NSAIDs、星状神経節ブロック、リハビリ処方→運動療法

ここまでの主観的評価の整理と仮説

各項目から気になる点を抜粋します。

・レッドフラッグ(50歳以上で体重減少)の鑑別
・手術創部の安静時痛・自発痛の有無を確認する 
・スクリーニングテストを行う
・しびれは頚椎由来・胸郭出口症候群・絞扼性障害が考えられるため適応する整形外科的テストを行う
・罹患期間から慢性化が疑われるため認知情動面の評価を行う
・身体機能評価とADL評価を行い機能と痛み(侵害受容性疼痛)の関係を評価する

客観的評価を行うため理学療法評価を行います。

理学療法初期評価

・全体像 不安げな表情 仕事ができず生活保護になったことをとても心配している 睡眠障害など随伴症状なし
・痛み 創部の自発痛あり圧痛はない NRS5/10
    右上肢運動時に右胸骨付近に運動時痛あり 
    右肩水平屈曲時に右肩鎖関節に運動時痛あり 同部位に圧痛もあり 
    右胸部全体と前腕尺側に安静時しびれあり
・しびれ 右胸部全体と右前腕に安静時しびれがある
・視診:右肩甲骨挙上・内転位
・触診:創部や疼痛部位に軽度アロディニアあり
・ROM-T:肩関節屈曲130°/150° 肩関節外転90°/140° 肩関節外旋60°/60° 内旋70°/70° 水平屈曲100°/130° 水平伸展-20°/10
・MMT:三角筋5/5 上腕二頭筋5/5 棘下筋5/5 橈側手根屈筋4/5 長母指屈筋5/5
・握力:28.4/36.1kg
・整形外科的テスト:Wright test+/+  Roos test+/- 右肘部管Tinel sign+
・Quick Dash ADL36.3 仕事:無 趣味:無 PCS27(反すう15 無力感6 拡大視6) PainDETECT19  CSI32

 主観的評価と理学療法評価から本症例にどんなアプローチをするべきか考えていきましょう。

慢性手術後疼痛の症例報告~理学療法士がアプローチすべき領域は?~

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