株式会社LIXIL(以下 LIXIL)は、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科 准教授・博士(工学)藤田浩司と共同で「住宅内温熱環境と居住者の健康に関する研究」の論文を、この度発表しました。
窓をはじめとした開口部の断熱性能を高め、住宅の高性能化を推進することは、CO2排出量や光熱費削減に繋がるほか、ヒートショックなど循環器疾患(脳梗塞・くも膜下出血・心筋症等)発症リスクの低減、アレルギー症状の緩和など健康面にも影響を及ぼします。
今回発表した研究論文では、窓断熱改修による医療費削減額と暖冷房費削減額への効果を検証することを目的とし、調査・研究を実施した結果をまとめました。
以上の結果から、医療費削減という新たな効果を示すことで、窓断熱改修が促進され、省エネかつ健康な暮らしの進展が期待できると考えています。
【近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科 准教授・博士(工学)藤田浩司のコメント】
「住宅はそこに暮らす人を守るものでなければなりません。しかし、断熱性能の悪い住宅では冬の寒さによって人の健康が守られていないことがわかっています。
今回の研究によって、住宅の断熱性能を高めて冬でも暖かく暮らせるようにした場合の健康効果を、医療費というわかりやすい値で示すことができました。今後、少しでも多くの方に住宅の断熱性能の大切さを理解していただき、そこに暮らす人を守ることができる住宅が増えることを願っています。」
LIXILは、今後も窓・ドアブランドTOSTEMを通じて、住宅の高性能化を推進し、人々の暮らし、ひいては社会全体が豊かで快適になるよう貢献していきます。
【住まいの高性能化の必要性】
2050年カーボンニュートラルの達成に向けて、住宅を含む家庭部門のCO2削減目標は66%(2013年度比)と他の部門に比べて最も高い数値が設定(環境省)され、住宅の高性能化による省エネルギー化は重要な施策の一つと位置付けられています。住まいの中でも、特に窓や玄関ドアなど開口部からの熱の流出は冬の暖房時は約6割と大きく、開口部を高性能化することで、CO2削減に大きく貢献できます。しかしながら、現在の省エネ基準に満たない住宅は、日本の家の約90%にも及び、既存住宅の高性能化の推進が喫緊の課題です。
※ 出典:(-社)日本建材・住宅設備産業協会省エネルギー建材普及促進センター「省エネ建材で、快適な家、健康な家」
※ 出典:社会資本整備審議会 建築分科会資料(2021年国土交通省)
加えて、断熱性能の低い住宅に住むと、暖冷房のエネルギーの無駄が多いだけでなく、暑さ寒さによる快適性の低下や室内温度による健康への影響などリスクがあるため注意が必要です。
【住まいに潜む健康への影響】
また、これから冬を迎えるにあたり、心配になるのがヒートショックです。ヒートショックとは、暖かい部屋と寒い部屋との温度差で血圧が乱高下し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす危険のことです。
このヒートショックは、実は室内において危険が潜んでおり、ヒートショックが一要因となり入浴中に亡くなられる方は年間約19,000人もいると推計され、交通事故死亡者数の約4倍にのぼります。
ヒートショックのリスクを軽減するためには、浴室や脱衣所、廊下やトイレなど寒い空間をしっかり「断熱」して、リビングなどの暖かい部屋との温度差を少なくすることが大切です。
また、断熱性能の低い住宅では結露が発生しやすい環境となります。断熱性能を高めることで結露を軽減し、アレルギー症状の原因となるカビやダニの発生を低減することができます。
※ 出典:平成29年1月25日 消費者庁ニュースリリース「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故にご注意ください!」、警察庁「平成25年中の交通事故死者数について」
※ 出典:岩前篤「住宅断熱性の健康改善効果に関する大規模アンケート調査」、日本建築学会環境工学本委員会熱環境運営委員会「第43回熱シンポジウムp.87-90 2013.10」
【LIXIL・近畿大学「住宅内温熱環境と居住者の健康に関する研究」】
LIXILと近畿大学は、約2万4千人を対象とした転居前後の健康変化に関する調査結果を用い、住宅内温度が一要因になる10疾患(心疾患・脳血管疾患・高血圧・糖尿病・気管支喘息・アトピー性皮膚炎・肺炎・関節炎・アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎)について、住宅内温度と医療費の関係をグラフ化し、住宅内温度から医療費を推定する式を作成しました。
上記の住宅内温度には、住宅内の温度差が一要因となる心疾患と脳血管疾患においては非暖房室の浴室やトイレなどの住宅内最低温度、その他の8疾患においては居間や寝室などの滞在室の平均温度を用いて、医療費の期待値※を推定しました。一例として、心疾患とアレルギー性鼻炎の住宅内温度と医療費の関係グラフ、及び推定式を図1と図2に示します。
※ 期待値とは、確率変数がとる値を、確率によって重みづけした平均値です。ある人が医療費10万円の病気Aにかかる確率が1/10、医療費1万円の病気Bにかかる確率が3/10の場合、病気AとBの医療費の期待値は「(10万円×1/10)+(1万円×3/10)=1.3万円」で1.3万円となります。よって、今回算出した医療費の期待値は、必ず推定した医療費が発生する訳でなく、確率と重みづけが考慮された値となっています。
図1. 心疾患(左)、図2. アレルギー性鼻炎(右)
上記10疾患の推定式を用い、窓を断熱改修した際の住宅内温度シミュレーション結果から、医療費と暖冷房費を算出しました。シミュレーション条件を表1に示します。また、医療費は年齢ごとに異なる為、一例として50歳夫婦と18歳と15歳の子供が居住している家族を想定し、窓改修前後における20年間、30年間の医療費・暖冷房費と削減額を図3に示します。
表1. シミュレーション条件
図3. 窓改修前後の医療費・暖冷房費と削減額
※ 一例であり、種々の条件によりシミュレーション結果は異なります。
上記算出結果より、窓改修の暖冷房費削減効果は約73万円/世帯・30年、医療費削減効果は約25万円/世帯・30年となり、合計98万円/世帯・30年の経済的効果となりました。これまで、窓改修の経済的効果を暖冷房費だけで謳ってきましたが、医療費(期待値)を含めることで、約1.34倍の経済的効果が見込まれる結果となりました。これらの活動から、医療費削減という新たな効果を示す事で、窓断熱改修が促進され、省エネかつ健康な暮らしの進展が期待できると考えています。
詳細▶︎https://newscast.jp/news/3883216
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。