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日本の高齢者において嚥下機能が低下すると睡眠の質も低下することが判明 ~睡眠の質改善への新たなアプローチ~

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本研究成果のポイント

・日本の 60 歳以上の地域在住高齢者を対象とした横断研究の結果、嚥下機能が低下すると睡眠の質も低下することが明らかとなりました。

・嚥下機能を維持することで、睡眠の質の低下やそれに伴うさまざまな機能低下を防止し、全身の健康を維持するための新たなアプローチにつながると考えられます。

概要

広島大学大学院医系科学研究科の濵陽子大学院生、内藤真理子教授、津賀一弘教授、名古屋大学大学院医学系研究科の若井建志教授らによる研究グループは、日本多施設共同コ-ホート研究の静岡地区および大幸研究のデータを用いた横断研究により、60 歳以上の男女において嚥下障害リスクと睡眠の質の低下が関連することを明らかにしました。

本研究成果は、「Heliyon」に令和6年 5 月 31 日付でオンライン掲載されました。

・論文タイトル

Association between dysphagia risk and sleep quality in community-dwellingolder adults : A cross-sectional study

・著者

Yohko Hama1,*, Sachiko Yamada2, Rumi Nishimura2, Mitsuyoshi Yoshida3,Kazuhiro Tsuga1, Emi Morita4,5, Yudai Tamada6,7, Yasufumi Kato6, YokoKubo6, Rieko Okada6, Mako Nagayoshi6, Takashi Tamura6, Asahi Hishida6,Kenji Wakai6 and Mariko Naito2

1. Department of Advanced Prosthodontics, Hiroshima University Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan

2. Department of Oral Epidemiology, Hiroshima University Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima, Japan

3. Department of Dentistry and Oral-Maxillofacial Surgery, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan

4. International Institute for Integrative Sleep Medicine, University of Tsukuba,Japan

5. Forestry and Forest Products Research Institute, Forest Research and Management Organization, Japan

6. Department of Preventive Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan

7. Department of International and Community Oral Health, Tohoku University Graduate School of Dentistry, Sendai, Miyagi, Japan

*Corresponding author 

 ・掲載雑誌

Heliyon (Springer Nature Group)(Q1)

・DOI 番号

10.1016/j.heliyon.2024.e32028

背景

60 歳以上になると睡眠を維持することが困難になる傾向があると報告されています。睡眠維持困難は身体的要因と強く関連しており、誤嚥による咳なども原因の一つとして報告されています。年齢とともに嚥下機能が低下すると、睡眠中の嚥下制御はますます困難になり、睡眠の維持に影響を及ぼすことが予想されます。睡眠の維持が困難になると睡眠の質にも影響しますが、高齢者では夜中に何度も目が覚めるなどで睡眠の質が低下し、十分に心身の休養がとれておらず日中に眠気や倦怠感を感じていることに気づきにくいことが報告されています。睡眠の質の客観的評価には、1泊入院して頭や体にシールを貼り付けて睡眠中の脳派などを測定する睡眠ポリグラフ検査や、手首に小型センターを約2週間装着して睡眠のリズムを測定するアクチグラフなどの特殊な機械を使用した検査が必要です。嚥下機能の低下は 30 秒間に 3 回以上唾を飲み込むことができるかを測る反復唾液嚥下テストや少量の水を飲んでむせなどがないかをみる改定水飲みテストなどの簡単なスクリーニング手法で評価することができます。

睡眠の質に対する嚥下機能の影響を調査することは、嚥下機能の低下が睡眠に及ぼす潜在的な影響について、貴重な洞察が得られる可能性があります。

研究成果の内容

・本研究のデータは日本多施設共同コホート研究(J-MICC study)の一部である静岡研究と大幸研究の 2012 年 2 月から 2015 年 3 月までに実施された第 2 回調査の 60 歳以上の参加者 3,058 人から、自記式アンケートにより調査しました。

・嚥下障害リスクは地域在住高齢者誤嚥リスク評価指標 (DRACE)※1、睡眠の質は日本語版ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI-J)※2を使用して評価しました。睡眠に関しては、睡眠の質の他に、睡眠時間、満足度、規則性に関する情報を取得しました。

・参加者 3,058 人(男性 1,633 人、女性 1,425 人、平均年齢 66.5±4.2 歳)のうち、28.0%が嚥下障害リスクを有し、19.1%に睡眠の質の低下がみられました。

・対象者の背景の差を調整後、嚥下障害と睡眠の関連を解析したところ、男性では、嚥下障害のリスクがあると、睡眠の質が悪いこと(オッズ比 1.98、95%信頼区間 1.38-2.83)、睡眠不満足(同 1.69、1.29-2.20)、不規則な睡眠(同 1.88、1.20-2.94)と有意に関連していることが明らかとなりました。女性では、嚥下障害のリスクは睡眠の質が悪いこと(同 1.39、1.00-1.92)、睡眠持続時間が 6 時間未満(同 1.47、1.02-2.14)と有意に関連していた一方で、睡眠不満足、不規則な睡眠との関連は有意ではありませんでした(図1)。

図1嚥下障害リスクに基づく睡眠の質、睡眠時間、睡眠満足度、睡眠規則性との関係

・嚥下障害のリスクと PSQI-J 各項目の点数(0 点または 1~3 点)との関連を検討したところ、男女とも、嚥下障害のリスクは睡眠の質、入眠時間、睡眠困難、日中覚醒困難と有意に関連していました。特に、日中覚醒困難については、男性(同 2.10、1.62-2.71)、女性(同 2.04、1.40-2.46)ともに関連が強くみられました(図2)。

図2 嚥下障害リスクに基づく PSQI-J 各項目との関係

高齢者は、昼寝で睡眠を補うことによって、睡眠の質の低下を意識していない場合もあると思われます。嚥下機能の低下による食事や水分摂取時のむせなどは本人にとっても周囲の人々にとっても容易に観察できる症状であり、また運動などにより改善・維持できる可能性があります。したがって嚥下機能を維持することは、睡眠の質や健康を維持する動機になると考えられます。

今後の展開

本研究の結果、地域に暮らす自立高齢者における嚥下障害のリスクは睡眠の質と関連していました。高齢者の睡眠の質の低下は、認知機能の低下だけでなく健康状態の悪化、身体能力の低下、フレイルなどと関連することが報告されています。嚥下機能の維持に焦点を当てた、運動・口腔保健指導・栄養指導などの健康指導は、睡眠の質の改善にも寄与する可能性があります。しかし、睡眠維持困難の要因となり得る胃食道逆流症やドライマウスについては評価していないため、さらなる研究が必要です。

用語解説

※1 地域在住高齢者誤嚥リスク評価指標 (DRACE)

地域に暮らす高齢者の潜在的な嚥下関連の問題を特定するために日本で開発された評価票で、嚥下障害リスクを 12 項目で評価します。

※2 日本語版ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI-J)

主観的な睡眠の質や睡眠障害の症状を評価するために開発され、計 18 項目からなり、主観的睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、睡眠薬の使用、日中の眠気の7 つの要素を含みます。各要素は 0~3 点で評価され、合計スコアが 6 点以上の場合は、睡眠の質が低いことを示します。

詳細︎▶︎https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/85304

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

日本の高齢者において嚥下機能が低下すると睡眠の質も低下することが判明 ~睡眠の質改善への新たなアプローチ~

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