28日、日本病院団体協議会（日病協）は第243回代表者会議後に記者会見を開き、今後の診療報酬改定に向けた取り組みや、電子処方箋に関連する新たな課題について報告しました。登壇したのは、議長の仲井培雄氏（地域包括ケア推進病棟協会会長）と、副会長の望月泉氏（全国自治体病院協会副会長）です。

今回の会見では、2026年度の診療報酬改定を見据えた要望書の提出方針に加え、電子処方箋に必要なリモート署名サービス「HPKIセカンド」の有償化通知が突然行われたことへの懸念が示されました。あわせて、役員人事の交代についても発表されました。

2026年度診療報酬改定に向けた要望書を提出へ

日病協では、次回の診療報酬改定に向けて「要望書第一弾（総論）」をまとめ、2025年4月中に厚生労働大臣に提出する予定としています。仲井議長は、「物価高騰や人員配置、DX（デジタルトランスフォーメーション）対応など、病院現場が直面している課題を正面から取り上げていく必要がある」と述べました。

また、総論に続き、分野別の具体的な要望書（アプローチ別）は今後、段階的に提出される予定とのことです。

電子処方箋の基盤「HPKIセカンド」突然の有償化に現場が混乱

会見では、電子処方箋の発行に必要なリモート署名サービス「HPKIセカンド」が、これまでの無償提供から突如として有償化されたことへの問題提起もなされました。

HPKI（Healthcare Public Key Infrastructure）カードは本来、ICチップ付きカードによって医療従事者の本人認証を行う仕組みですが、ICチップ不足の影響を受け、代替手段としてHPKIセカンドが導入されていました。このHPKIセカンドは、ICカードを用いずスマートフォンなどのデバイスで署名認証を行える仕組みです。

このサービスについて、2025年2月頃に一部医療機関に対し、メディス（※1）から有償化を通知するメールが送付されました。しかし、その情報は制度整備中の医療機関には共有されておらず、現場では「突然の追加コスト」「情報提供の不十分さ」などへの不満が高まっています。

【注釈】

※1：メディス（MEDIS）…一般財団法人 医療情報システム開発センター。電子処方箋の実施体制整備やHPKI認証基盤の運営を担う機関。病院・診療所・薬局ごとの費用は以下の通りです。

仲井議長は「このような認証基盤の費用は、本来であれば国が制度として補助すべきものです。突然の通知で、予定外の支出が生じることは大きな問題であり、今後もこうした事例が続くようであれば正式に国への要望書を提出する方向で調整したい」と述べました。

また、会見に出席していた多くの記者からも、今回の有償化に関する情報がまったく共有されていなかったという声が上がり、国による情報発信や広報体制の不備も指摘されました。

薬局支援や災害対策にも言及、「制度の丁寧な設計を」

会見では、薬局支援や災害医療体制に関しても、「まだ制度設計の議論が十分になされていない」との懸念が表明されました。仲井氏は「特に災害時の医療体制や薬局への支援については、国による補助とあわせて、もっと丁寧で明確な制度設計が求められます」と語りました。

新体制に移行──茂木従紀氏が新議長に就任

この日をもって、日病協の役員体制が新たに切り替わりました。2年間、議長および副議長を務めた仲井氏は任期を終え、今後は茂木従紀氏（前副議長）が新たな議長に就任します。あわせて、副議長には猪口雄二氏（日本病院会副会長）が就任しました。

茂木新議長は「引き続き、病院団体の代表として実直に現場の声を届けてまいります。記者会見でも、皆さまのご質問に丁寧にお応えしていきたい」と意欲を語りました。

病院経営者に求められる備えと情報感度

今回の会見では、診療報酬改定への備えと同時に、医療現場が直面する新たなコスト構造や不透明な情報提供への懸念が浮き彫りとなりました。特にHPKIセカンドの有償化は、今後電子化対応を進めようとする中小規模の病院や診療所にとって、大きなインパクトを与えるものです。

制度変更の波に的確に対応するためには、日々の情報収集と団体からの発信を見逃さない体制づくりが経営者・管理者に求められます。国の政策動向と医療機関の実情との間にあるギャップを埋めるためにも、今後の要望書提出や国の動きを注視していく必要がありそうです。

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