29日、日本病院会、全国自治体病院協議会、全国国民健康保険診療施設協議会の3団体は、「病院総合医」の育成を目的とした共同研修事業の開始を発表しました。急速な高齢化により、多様な疾患に対応できる“総合力”を持った医師の重要性が高まるなか、地域医療を支える中核人材の育成を目指す新たな取り組みです。
総合診療医の育成に向けて3団体が連携
会見の冒頭、日本病院会の相澤孝夫会長は「85歳以上の高齢者が増え続ける現代において、多様な症病に総合的に対応できる病院総合医の役割はますます重要になっています」と述べました。そのうえで、「総合医が地域病院で活躍することにより、休日・夜間を含む日常診療の強化、医師の地域偏在の是正、多職種との連携によるチーム医療の推進など、多くの課題解決が期待されます」と語りました。
5つの理念と4つの到達目標──“治し、支える”医師を育成
本研修は、以下の5つの理念に基づいて設計されています。
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1.多様な病態に対応できる総合的な診療能力を備えた医師の育成
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2.社会性・人間性・倫理観を備え、包括的診療を実践できる医師の育成
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3.多職種とのチーム医療を推進できる医師の育成
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4.「かかりつけ医機能」を発揮し、治し支える医療を提供できる医師の育成
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5.地域住民とともに地域包括ケアシステム構築に貢献できる医師の育成
また、臨床能力、社会性、人間性、倫理観という4つの到達目標が設定されており、医療技術だけでなく人間性や協調性を重視した人材育成を目指しています。
臨床現場重視のOJT研修、会員施設に勤務予定であれば参加可能
研修は「病院総合医3団体共同認定」の名称で実施され、実際の診療業務を通じたOJT(On the Job Training)形式を基本としています。研修施設は3団体の会員施設に限られますが、会員施設に勤務予定であれば、非会員の医師も参加することができます。
研修期間は原則2年間で、進捗状況によって柔軟な対応が可能です。研修修了後の認定資格は5年ごとの更新制となっており、継続的な学びが求められます。
費用については、会員施設に所属する医師は登録料・参加料が3万円(税別)、更新料が2万円(税別)です。非会員(ただし会員施設に勤務予定の医師)はそれぞれ10万円、5万円に設定されています。
初年度は100名を目標、既存認定医は「暫定認定」に
初年度は100名の研修者受け入れを目標に掲げており、今後は参加状況を見ながら制度の運用を拡大していく方針です。対象となる医師は「臨床経験6年以上」の中堅層とされ、一定の実務経験を持つことが条件となっています。
なお、従来の日本病院会による「病院総合医認定制度」については、今回の新制度に「発展的に改正」する形で引き継がれると説明されました。すでに旧制度で認定を受けている医師については、新制度における「暫定認定」を予定しており、今後施設要件や研修者要件などの詳細は、公示の際に明らかにされる予定です。
総合診療専門医制度との違い──キャリア後半の医師にも門戸
また、総合診療に関する既存制度とのすみ分けについても質問がありました。日本専門医機構が運営する「総合診療専門医制度」は、初期研修を終えた若手医師を対象にしていますが、今回の新制度は、これまで特定の診療科で活動してきた中堅~ベテラン医師が、地域医療における総合診療へとキャリアを転換する機会を提供するものです。
3団体は、「専門医制度と競合するものではなく、補完関係にある」とし、地域の医療ニーズに応じて柔軟な人材活用が可能となる制度設計を目指しています。
認定医の評価制度にも期待、診療報酬の加算などを要望へ
現時点で、病院総合医認定に対する診療報酬や施設基準における優遇措置は存在しませんが、3団体は今後、国に対して認定制度の意義を訴え、報酬面での評価などを働きかけていくとしています。
「病院が『かかりつけ医機能』を担うには、総合診療能力の高い医師が必要不可欠であり、それを支える制度が国によって評価されるべきだ」と会見では強調されました。
まとめ:地域医療を支える“総合力”のある医師育成が始動
本制度は、高齢化社会における地域包括ケアや医師の偏在といった日本の医療が抱える課題に対し、新たな人材育成の道を示すものです。従来の専門医制度ではカバーしきれなかった中堅層の活用、地域医療に根差した実践的な教育内容、そして国による評価制度への期待が重なり、注目度の高い取り組みとなっています。
今後、詳細な制度設計と運用開始に向けた公示を経て、全国の病院現場でどのように定着していくかが注目されます。