石破茂総理は23日夜の記者会見で、「人手不足、あるいは物価高、そういうようなことに直面しておられる医療・介護・保育・福祉、そのような公定価格を引き上げます」と明言しました。医療従事者の処遇改善に向けた具体的な政策として、政府トップが公の場で断言したのは異例のことです。
賃上げ政策の柱として位置づけ
この発言は、石破総理が掲げる経済政策「『今日』の悩みを取り除く」の中核として示されました。総理は今年の賃上げが「2年連続で5パーセントを上回る増加となり、33年ぶりの高水準であった昨年を更に上回る見込み」と評価する一方、医療・介護分野の特殊事情に配慮した対応の必要性を強調しました。
約50年ぶりとなる教職調整額の引き上げも実現したことに触れ、「実質賃金が1パーセント程度上昇し続けていくことが当然となる社会を実現する」との目標を掲げています。
公定価格制度の制約を政府が認識
医療・介護・保育・福祉分野では、診療報酬や介護報酬といった公定価格により、サービスの対価が国によって決められています。一般企業のように市場原理に基づく価格設定ができないため、人件費の上昇や物価高に柔軟に対応することが困難な構造的問題を抱えています。
石破総理が会見で「人手不足」と「物価高」を明確に課題として挙げたことは、政府がこうした現場の実情を把握していることを示すものです。特に物価高については、材料費や光熱費の上昇が医療機関や介護施設の経営を圧迫している現状への認識を表しています。
消費税減税は「無責任」と一蹴
野党が主張する消費税減税については、石破総理は明確に否定しました。
「消費税は医療・年金・介護などの社会保障を支える大切な財源です。安定財源なしに減税する、医療・年金・介護の財源である消費税を安定財源なしに減税するというような無責任なことはできません」
この発言は、公定価格引き上げの財源として社会保障制度の安定性を重視する姿勢を鮮明にしたものです。消費税減税では「高所得の方が優遇されることになる」とも指摘し、所得の低い層により配慮した政策を優先する考えを示しました。
現場からは期待と慎重論が混在
医療・介護現場では、これまでも度々「処遇改善」が叫ばれてきましたが、実際の効果は限定的でした。ある介護施設職員は「月3000円程度の増額では生活は変わらない。今回は本当に期待していいのか」と慎重な見方を示しています。
一方で、全国で約1000万人が働く医療・介護・福祉分野での処遇改善は、地域経済への波及効果も期待されます。特に地方では、病院や介護施設が主要な雇用先となっているケースも多く、賃上げの効果は地域全体に及ぶ可能性があります。
具体的内容は参院選後に
石破総理は会見で「参議院選挙の公約等について、参議院選後に具体化し、着実に実施に移していきたい」と述べ、具体的な引き上げ幅や実施時期については明言を避けました。
公定価格の改定は通常、中央社会保険医療協議会(中医協)での議論を経て決定されるため、今後の政策プロセスが注目されます。特に次期診療報酬改定や介護報酬改定での反映が焦点となりそうです。
医療従事者にとっては、長年の課題であった処遇改善に向けた政府の明確な意思表示として評価できる一方、具体的な制度設計と確実な実行が求められています。