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伸張反射とは|筋紡錘への刺激はなぜ随意運動の邪魔をしないのか?

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本当は難しい脊髄反射

画像:adobestockより改変

1.はじめに

 生理学の教科書を開いて脊髄反射について調べると、すでに機能のほとんどが解明された比較的単純な神経回路という印象を持たれる方が多いと思います。確かに、高次脳機能などと比べれば脊髄反射は機能解明が相対的に進んでいる領域かもしれません。

 

しかし、動物を対象に10年ほど伸張反射や介在ニューロンの一つであるレンショウ細胞の研究をしていた私の個人的な印象では、脊髄の機能も、まだまだ一部しか明らかになっていないと感じています。

 

その一方で、脊髄反射は様々な理学療法の治療理論の一部としても用いられているという側面もあるため、教科書だけでは知ることのできない脊髄反射の奥深さについて周知することはとても重要なことだと考えていました。

 

今回、脊髄反射についてコラムを書く機会を頂きまして、5年ほど前から糖尿病による脊髄内神経回路の変化に研究テーマを乗り換えた私が適任か分かりませんが、前述した問題意識から挑戦してみることにしました。

 

また、動物実験の人間であるため、ヒトを対象とした実験に詳しい方や、現役の脊髄研究者で、「いやいや、それは情報が古いよ。」とか、「間違えたことを書き連ねるな!」ということがありましたら、ぜひ、教えてください。

 

2. バビンスキー反射と屈曲反射

 バビンスキー反射(extensor plantar reflex)を例に考えてみましょう。バビンスキー反射は脊髄反射(皮膚反射)の一種で、成人では錐体路障害が生じた時のみに観察されるため、病的反射とされています(図1a)。

 

バビンスキー反射を知らない方はほとんどいないでしょうが、健常成人の足底に全く同じ皮膚刺激を与えた際に生じる反射は足指の屈曲反射(flexor plantar reflex)であることはほとんど知られていません(図1b)。

図1. extensor plantar reflexとflexor plantar reflex

 

 図1に示した二つの反射を見比べると健常者の反射と錐体路障害患者の反射のパターンがほぼ正反対であることに気づきます。

 

一般的に上位中枢神経は脊髄の反射弓に対して抑制的に働き、病的反射の出現は上位中枢による抑制性の制御からの解放現象であると考えらえていますが、そうであるならば健常者がバビンスキー反射と異なるパターンの反射を出すはずはありません

 

しかし、健常者の反射パターンがバビンスキー反射のパターンと異なるという事実は、脊髄反射がある感覚刺激(感覚入力)に対して定められた紋切り型の運動を出力するという単純な神経回路ではないということを示しています。

 

3.  伸張反射について考えてみましょう


理学療法士や作業療法士にとって最も有名な脊髄反射は、恐らく「伸張反射」と呼ばれる脊髄反射ではないでしょうか?

 

評価や治療理論に度々出てくる脊髄反射です。伸張反射は骨格筋内に存在する筋紡錘の一次終末が起源となって生じる脊髄反射です。図1を見ながら、その反射弓を追ってみましょう。

図1. 伸張反射弓

 

骨格筋が伸張されると、筋紡錘に一次終末を作るIa群求心性線維が興奮し、上行したインパルスは後根を通って脊髄に至り、主に筋紡錘が存在する筋を支配する運動ニューロンを単シナプス性に興奮させ、筋が収縮します。

 

この一連の過程を伸張反射と呼びます。

 

4. 相動性伸張反射と緊張性伸張反射


伸張反射をもう少し詳しく観察すると、「伸張反射は伸張の速度に反応する相動性伸張反射」「筋の長さに反応する緊張性伸張反射」の2つの反射から構成されていることがわかります。

 

まるで、バンズとハンバーグをまとめてハンバーガーと呼ぶように、相動性伸張反射と緊張性伸張反射をまとめて伸張反射と呼んでいるというわけです。ちなみに相動性伸張反射の亢進は痙性、緊張性伸張反射の亢進は固縮と呼ばれています。

 

検査でいうと、打腱器によって生じる伸張反射は相動性、他動的に伸張する方法では主に緊張性伸張反射が優位に出現すると考えられます。

 

時々、実習中の学生さんから「腱反射は亢進しているのに、他動的な筋伸張では抵抗感がないんです(涙)」と、相談されることがありますが、前述した理由によって矛盾はありません。

 

図2. 痙性筋と固縮筋の表面筋電図
相動性伸張反射と緊張性伸張反射の亢進が明瞭に観察できる

 

5. 伸張反射は随意運動の邪魔をしないのか?


ところで、私たちが運動を行う際、必ずどこかの筋が伸ばされるわけですから、運動をするたびに伸張反射が生じていては関節運動を行うことができません。

 

これを防いでいるのが伸張反射の感度や利得(要するに反射の起こりやすさ)を調節するためのシステムです。

 

伸張反射の調節はγ運動ニューロンの活動による筋紡錘の感度を調節とIa群求心性線維の神経終末に対するシナプス前抑制によって行われています。例えば、随意運動中には皮質脊髄路による伸張反射弓に対するシナプス前抑制が働くことなどが知られています。

 

確かに、ある静的姿勢を維持しようとする時には伸張反射は強く出現した方が有利ですが、動作中は邪魔にならない程度に弱められていた方が良いですね。

 

このように伸張反射弓は上位中枢の制御を受け、反射弓の活動が強くなったり、弱くなったりしているわけです。伸張反射のように単純な反射であっても、時と場合によって常に変化しているんですね。

図3. 伸張反射弓のシナプス前抑制

 

6. 筋によるIa単シナプス結合パターンの違い


Ia群求心性線維は同名筋とその共同筋を支配する運動ニューロンに興奮性のシナプスを形成しますが、共同筋へのIa単シナプス結合パターンは、その由来となる筋によって、かなり異なることが知られています(図4)。

 

図4. Ia群求心性線維の投射の空間パターン(ネコ)
矢印の太さは各筋を支配する運動ニューロンへの投射量を示す。

 

例えば、ネコから得られたデータでは、内側腓腹筋由来のIa群求心性線維は共同筋の運動ニューロンに対してほとんど結合しません。一方、ヒラメ筋のそれは同名筋に加えて内・外側腓腹筋の運動ニューロンにも豊富な結合を持ちます。

 

伸張反射は促通手技への応用が可能と考えられていますが、そういった観点に立てば、前者は同名筋の促通、後者は共同筋も含めた促通が期待できるということになります。

 

もちろん、ネコとヒトが同じIa単シナプス結合パターンを持つ保証はありませんし、覚醒下のヒトにおいて促通と呼べるほどの伸張反射が生じるのかもわかりません。

 

筋紡錘への刺激を目的とする各種手技が本当に筋紡錘を刺激しているのかわからない部分もあります。

 

しかし、セラピストによって促通技術に相当な差があることは疑いようのない事実ですから、その背景には、刺激を与えた筋によるIa単シナプス結合パターンの違いなどが影響しているのかもしれませんね。

 

7. 教科書に出てくる脊髄反射弓をどう取り扱うべきか?

 

 教科書に記載されている脊髄反射弓の回路図は1930年頃から1980年代にネコを中心とした動物実験のデータに基づくものです。いずれも、大変正確なデータで価値のあるものです。しかし、注意が必要な点もあります。

 

というのも、この時代の実験がほとんど中脳で脳を離断した除脳動物や脊髄を離断した脊髄動物、麻酔下にある動物を対象に行われているのです。先ほどのバビンスキー反射の例からもわかるように、除脳条件や麻酔下で観察された脊髄反射が覚醒下のヒトにおいても同じように生じ、機能しているのかは分かりません

 

この他にも問題があります。それは、教科書に載っている反射弓のほとんどは腓腹筋やヒラメ筋など、動物の後肢の足関節周辺の筋を支配する神経回路の図なのです。ですから、教科書に掲載されている脊髄反射弓が全ての骨格筋に存在する保証は全くありません。

 

伸張反射を題材に極端な例を挙げれば、横隔膜や外肛門括約筋にはほとんど筋紡錘が存在しないため、これらの部位では下肢と同じように伸張反射が生じるのか疑わしいですし、外眼筋では筋紡錘のような構造は認められるものの伸張反射は生じないことが知られています。

 

以上のように、教科書に掲載されている脊髄反射はある意味で正しいのですが、実際の私たちの運動(ヒト、覚醒下)を説明できるほどデータは溜まっていないというのが本当のところです。

 

脊髄反射は各種治療理論にも取り入れられていますが、今後の基礎研究の結果次第でその解釈は大きく変わるのかもしれません。

 

村松憲先生インタビュー

【目次】

第一回:ヴェサリウスという変態…いや天才解剖学者になりたくて

第二回:「糖尿病はγ運動ニューロンが抜け落ちる」論文への猛批判

第三回:研究は、今あるPTの形からはみ出しているから価値がある 

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