特集Ⅱ:認知症を理解するー全3回ー第2章:認知症をもつ人を理解する手がかりとは.

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“認知症”これまで様々な場面で、問題とされてきた。その多くは、問題行動をピックアップされ、あたかもその人自身を否定してしまいかねない情報にまでなる。全3回を通して、認知症をもつその人の、その先にある“こころ”について考えていく。

 

~パーソン・センタード・ケアとの出会い~

「HDS-R:5点」=「拘束帯」=「安全」=「職員本位」

この考えを変えたいという思いで悩む毎日でした。そんな中、ある認知症ケアの考え方に出会いました。

 

 パーソン・センタード・ケアとは:

認知症をもつ人を一人の“人”として尊重し、その人の視点や立場に立って理解してケアを行う認知症ケアの考え方の一つです。提唱者は、イギリスの心理学者(故)トム・キットウッド教授。この考えが生まれた背景には、1980年代のイギリスの認知症ケアの考えが、「効率を重視した流れ作業」、つまりは「職員本位」が主流になっていたからです。その考えを見直し、その人の「個性」や「人生の歩み」に焦点をあてたケアを行う必要があるはずだとし、「パーソン・センタード・ケア」が生まれ、瞬く間に全世界の認知症ケアの考えに影響を与えました。

 

 認知症が進行してくると、言葉で自分の思いを伝えることや自分だけの力では心理的ニーズを満たすことが苦手になります。

 

そのため、周囲の支援者(家族や専門職など)にできることは、「認知症をもつ人の気持ちになること」これが誰にでもできる認知症ケアの第一歩だと考えます。自分の発した言葉が、もし自分に返ってきた場合、どのように感じるのか。

 

そうすると自然と関わり方が変わってくるはずです。

 

 パーソン・センタード・ケアでは、認知症をもつ人を理解する手がかりとして、5つの要素があります。①脳の障害、②健康状態、③生活歴、④性格、⑤その人を取り囲む社会心理(詳細は補足参照)。第1章の患者さんは、ベッドから動こうとしていました。

 

ということは、「動きたい」との思いがあり、行動に表れていたのです。何か「目的」があったかもしれません。例えば、5つの要素をもって考えてみると、「頻尿でトイレに向かおうとしていた(②健康状態)」、「床頭台の服を整理しようとしていた(③生活歴:主婦一筋、④性格:几帳面)」などの理由が考えられます。

 

支援者は、「なぜ?ベッドから動こうとしたのか?何をしようとしていたのか?」このような疑問を常にもつことが、認知症をもつ人の思いを知るきっかけに繋がります。

 

【補足】

 ○認知症をもつ人を理解する手がかり

 

 

①脳の障害

・認知症をもつ人の行動に最も影響を及ぼす要素

 例:記憶障害、見当識障害、遂行機能障害etc.

 

②健康状態

 例:感覚機能(視力、聴力)、便秘、脱水、栄養失調、痛み、感染症、薬の副作用etc.

 

③生活歴

・今までどのような人生を歩んできたかによって、物事の考え方や捉え方が違う。

 そのため、行動と体験を結びつけて考える。

・過去の生活と現在の生活でズレがあると、認知症の症状として出現しやすい

 例:生い立ち、職業、習慣やこだわり、好きな・嫌いなこと、人生の転機etc.

 

④性格

・元々の性格に合わない方法でケアを行うと、不安や混乱を引き起こし、認知症の症状の

 悪化、進行を助長してしまう恐れがある。

 例:社交的と人付き合いが苦手、気が長いと気が短い、頼りたいと世話になりたくない

 

⑤その人を取り囲む社会心理(環境)

・認知症になっても、感情やプライドは豊かに残っており、周囲の人が自分をどのように

 思っているかを敏感に感じ取っている。

・支援者が「認知症になると何も分からなくなる」という考えをもっていると、子ども扱

 いしたり、のけ者にしたり、うそやごまかしをするなどがみられるようになる。

 このような関わりが続くと、認知症をもつ人は自分らしく生きることを諦め、

 閉じ込もってしまう。

 

【目次】

第1章:認知症をもつ人のこころとは?

第2章:認知症をもつ人を理解する手がかりとは

最終章:認知症をもつ人のこころの中には、閉じ込めている思いがある

 

執筆者紹介

○学歴

 2011年:藤田保健衛生大学 医療科学部 リハビリテーション学科

      作業療法専攻 卒業

 2014年:藤田保健衛生大学大学院 保健学研究科 リハビリテーション学領域

      作業療法科学分野 卒業

 

○職歴

 2011年:医療法人松徳会 花の丘病院 リハビリテーション科 作業療法士

 2016年:有限会社ホワイト介護 長太の寄合所「くじら」 作業療法士・管理者

 現在、長太の寄合所「くじら」というデイサービスで勤務。月に一度、認知症をもつ人と家族の支援及び、地域における横の繋がりを構築することを目的に「D-カフェ・健康測定会」を開催中。また、認知症多職種協働勉強会、認知症予防教室(回想法教室)認知症サポーター養成講座を定期的に実施している。

 

○資格

 作業療法士

 認知症ケア専門士

 DCM基礎ユーザー

 認知症ケア指導管理士

 

○所属団体

 公益社団法人 認知症の人と家族の会 若年性認知症の人と家族のつどい 世話人

 日本作業療法士協会 認知症作業療法推進委員(三重県担当)

 

○論文掲載

 1)佐野佑樹,澤俊二,杉浦徹・他:回復期リハビリテーション病棟における

   認知症の評価−認知尺度と行動観察尺度を併用して用いる有用性−.理学

   療法科学,2015,30(6):955-959.

特集Ⅱ:認知症を理解するー全3回ー第2章:認知症をもつ人を理解する手がかりとは.

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