第六回:心身の揺らぎを忘れたとき、人間はロボット・AIにとって変わられる。【森岡 周先生 | 理学療法士|畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授】

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― 今後、人工知能(以下、AI)や医療ロボットが臨床に導入され、人間と変わる日が来ると思われますか?

 

森岡先生 私はAIに対して楽観的に見ています。AIのように例えば、記憶や処理する能力に関して、人間に勝ち目はありません。

 

だから、近い将来、一部の仕事はAIにとって変わったり、AIと共存しながら仕事が展開されていくでしょうね。ですが、それだけでは人間と同じになるとは思っていません。

 

なぜなら、ロボットやAIには“身体”がないからです。動きのための関節といった狭義の身体は作れても、今の所、内臓を作ることはできませんし、排泄もできません。

 

心臓から伝わるドキドキ感、胃から伝わるキリキリ感や、何ともいえない空腹感は、生物でなければ持つことは現状できません。身体はとても神秘的で尊いものです。

 

ゆえに、人間のような内臓をもった身体がつくられれば、完全にとって変わるときがくるかもしれませんね。

 

しばらくは人間と共存していくと思いますが、人間自体が倫理を逸脱したパンドラの箱を先に開けてしまうかもしれません。というわけで、AI技術の発展と同等の倫理学の成熟、ならびに早期の国際ガイドラインの策定も必要だと思っています。

 

最近の研究では、身体は人と人との間で同調することがわかっています。例えば、脳波リズムやからだの動きの同調のみならず、心拍まで同調することも。

 

おそらく、相手とフィーリングがあうと感じるのも、この身体同調の影響のように思えます。コンサートホールでの拍手も知らないうちに同期しますよね。

 

身体には揺らぎがあり、自分の身体の揺らぎが他者に伝搬していくプロセスが、感情を共有するプロセスになったり、人が人に影響を与え、互いに学習したりする手続きになるものと思っています。

 

実は、この辺りの身体性のモデルを利用し、ロボット同士で互いしかわからない言語を獲得できるか、今盛んに研究されています。

 

今後、高次な感情を育て合う点を軽視する人間社会となれば、人間よりもミスの少ないロボットが重宝されるでしょうね。身体性に伴う感情や揺らぎこそ、人が捨ててはならないものだと思っています。

 

インターネット(以下、ネット)を検索し、そこから得られるのは視覚や言語情報でしかありません。

 

なんとなく、“ここ(胸を叩きながら)”に訴えかけるような情報ではないのです。つまり、内臓の感覚である内受容性の感覚が十分に作動しないわけです。

 

例えば、教員や友人が同じ空間にいて、身体を介した会話を通して、鼓動を感じ、互いの感情を関係させながら、学生たちは学び吸収していくのだと思っています。

 

私たちのように、リハビリテーションを仕事とする職種こそ、心のゆらぎを大切にすべきだと思っています。そもそも、理由は明確でなかったとしても、自分自身の心が動いたからこそ、選んだ職種だと思います。

 

心のゆらぎを忘れてしまったとき、あるいは必要と感じない風潮になったとき、AIやロボットに仕事を完全に奪われるのではないかと思っています。

 

感情豊かであれ

 

森岡先生 例えば、理学療法士、作業療法士が脳卒中の患者さんに対して、「〇〇療法や〇〇テクニックを使って機能的によくなった」というよりも重要なことがあります。

 

それは、私たちが患者さんに関わることで、患者さんだけでなく私たちも「幸せになれたのか」「心を動かすことができたのか」ということです。その一つの要素に機能の回復というものがあると思っています。

 

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が普段から感情豊かでなければ、患者さんの感情を引き出すことはできません。

 

学校の教員が夢を持ち、それに向かって今なお前向きに取り組んでいたり、それについて楽しそうに語っていないと、学生の心が動かないのも同じです。

 

一方で、不安の感情は自己を成長させるための大事なものでありつつも、私たちの業界は、将来が不安という「不必要な」ネガティブな情報だけが一人歩きし、それに伴い、破局的思考を加速させているきらいもあります。

 

不安の感情は、ある種、諸刃の剣なんです。

 

私から、若い方へのメッセージとして受け取っていただきたいことが「自分が何をやりたいか」よりも「相手が自分に何を求めているのか」ということに耳を傾けてほしいということです。

 

「こういうことがしたいです」「こういう仕事がしたいです」と言い続ければ、結局はそういう仕事ができなければ、無力を感じたり、あるいは辞め、仕事を転々とする始末になります。

 

主観的な生き方ではなく、メタ認知を活かした客観的な視点を合わせもつことで、今いる業界以外でも、必要とされる人になれます。

 

研究でも同じであり、研究成果を通じて社会的インパクトのある貢献が必要です。自分自身がやりたい研究だけではなく、社会が求めている研究にフォーカスする必要があると思います。

 

 

【目次】

第一回:不真面目な高校生活から一転、今の礎を築く養成校時代

第二回:自らアポを取り、パリ留学へ

第三回:熱傷にはじまり、腎不全、バイオメカニクス、そして脳研究へ

第四回:畿央大学前学長の生き様に憧れ、大学教員の道へ

第五回:共に楽しむことこそ、教育の原点

第六回:心身の揺らぎを忘れたとき、人間はロボット・AIにとって変わられる。

第七回:異業種、異世代、異性とのコミュニケーションが脳を育てる

最終回:生きる

 

森岡 周 先生 プロフィール

1992年 高知医療学院理学療法学科卒業

1992年 近森リハビリテーション病院 理学療法士

1997年 佛教大学社会学部卒業

1997年 Centre Hospitalier Sainte Anne (Paris, France) 留学

2001年 高知大学大学院教育学研究科 修了 修士(教育学)

2004年 高知医科大学大学院医学系研究科神経科学専攻 修了(特例早期修了) 博士(医学)

2007年 畿央大学大学院健康科学研究科 主任・教授

2013年 畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター センター長

2014年 首都大学東京人間健康科学研究科 客員教授

 

畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター HP: http://www.kio.ac.jp/nrc/

森岡 周先生SNS

Facebook:https://www.facebook.com/shu.morioka

Twitter https://twitter.com/ShuMorioka

 

<2017年3月現在の論文・著書>

英文原著73編(査読付)、和文原著100編(査読付)、総説72編(査読無)

著書(単著・編著)15冊、(分担)20冊

http://researchmap.jp/read0201563

 

(撮影地、撮影協力:畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター内)

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