理学療法士だったから映画監督になれた
POSTインタビュアー:今、映画監督をやられていますが、何か療法士や目指している学生さんに対して伝えたいことはありますか?
榊原さん:映画監督としてだと、医療というのは病院という環境で患者さんが入院してよくなるという意味で非常に物語としては描かれやすい。患者さんと医療者の関係って映像化しやすかったりしますね。
でも思うんですけど、医者はそこまで関わる時間はないし、看護師もまとまって関われる時間が多いわじゃない。ただセラピストは40分、60分とか固まった時間をその人に関わり続けれるわけじゃないですか。
だから本当にコミュニケーションをする時間が多いわけですよね。コミュニケーションをする中で、その人の本質を見出していくわけですよ。これは映画監督になって気づいた部分が多いです。
インタビュアー:なるほど。
榊原さん:それで、意外に思うかもしれませんが僕はPTの経験があったからこそ映画監督に抜擢されたと思うんです。他の業種から転身してもたぶん抜擢されていなかったんじゃないですかね。
POSTインタビュアー:どういうことですか?
榊原さん:ある時、映画も撮ったことがない、右も左もわからない僕に今の会社のプロデューサーが「お前は映画をとる才能があるから」って言われたんです。
それで、なぜ何のキャリアもない自分が監督に抜擢してもらえたのかプロデューサーに聞いた事があります。そのとき「人や社会を見る視点が独特、かつ鋭くて深いから」ということを言ってもらいました。
これはPT時代におよそ200人ちかくの患者さんと接してきたと思うんですが、病気以前にまずその人の事を理解しようと真剣に向き合ってきた事で培われたものだと思います。
患者さんとしっかりと向き合って、本気でその人のことを考えて、リハビリをしていた。その経験があったからこそ、人の本質を捉える技術というか視点が身についたと思うんです。そういう意味ではPTをやっていた自分だからこそ抜擢されたのかなって思っています。
映画監督も人物を描く事を求められますから、結局は「人相手」の仕事なんだと思います。
インタビュアー:なるほど、さっきのバイトの話じゃないですけど人との関わりが大事だと。
榊原さん:そうですね。
POSTインタビュアー:あと最近、他の業種で働くセラピストも少しずつ増えてきていますね。パナソニックとかコンサルティング会社とか。とうかこれから働き方が多様化すると思うんですよね。
榊原さん:そうなんですね。知らなかったですが、そういうのは全然ありだと思います。先ほどもいいましたが、患者さんと向き合って、人とコミュニケーションをとる中で得たものは本当に大きいと思います。外にでてそれは感じますね。
だから、そういった他の業種にチャレンジするセラピストが増えても、勝負できると思いますね。
インタビュアー:なるほど。今監督として新しくやられていることはあるんですか?
榊原さん:はい。先ほども言いましたが、人生の価値観を大きく変えてくれたPT時代の体験、これは常に映画のテーマにしたいと思っていて現在脚本を書き始めています。
しばらくは技術を磨くことに専念し、然るべきタイミングでそれを映画化することが今の僕の目標のひとつです。
POSTインタビュアー:それ、是非みたいですね。
病院をやめて気付いたこと
榊原さん:僕は療法士じゃないので、偉そうなことは言えないですが、今って健康寿命が伸びてますよね。でも、それでイコールして幸福度があがっているかと言えばそうじゃない。リハビリテーション含め医療職は障害を負ってからがスタートするのが普通ですよね。
インタビュアー:今は予防も少しずつ言われはじめていますね。
榊原さん:そうなんですね。でもやっぱり医療ってみるとどうしても閉鎖的な気がするんですよね。待ちの姿勢みたいな。でもリハビリテーションの考え方って別に身体機能がどうとか、ADLがどうとか、そんなことで終わるようなものじゃないと思うんですよ。
POSTインタビュアー:つまり、どういうことですか?
榊原さん:さっき、幸福度が上がっていないって言いましたけど、なんで健康寿命がのびているのに幸福度があがってないのかって話です。これって結局その人が今の生活に楽しさを見いだせていなかったり、満足していないってことだと思うんですね。
僕は、リハビリテーションの思想はこういったギャップを埋めるだけのポテンシャルがあると思います。健康な人を変える。変化していく社会を適切な方向へ導く。
これもリハビリテーションだと思うんですよ。ただ、こういった視点は外にでてはじめて気づいたんですけどね。病院にいたときはそんなことは感じませんでしたね。
今の収入
POSTインタビュアー:今、監督もやってるということですけどぶっちゃけ給与は増えました?僕のイメージですと浮き沈みが激しいというか収入よさそうですね?
榊原さん:そうですね。いま、ようやく病院勤務時代よりいいかなってとこですね。
インタビュアー:僕の会社はインセンティブ制度導入しているのですが、インセンティブはあるんですか?
榊原さん:はい、ありますね。それがPTとは大きな違いかもしれませんね。PTは確かに安定しているし、診療報酬に守られているという点ではすごくいいと思います。
でもどれだけやっても皆同じみたいなとこがあるから、さっき言ったようなやらない人もでてきちゃうと思います。今は映像ディレクターとしていろんな業種の方と関わらせてもらっているのですが、特にIT関係の方はすごいですよ。
「なんでこんないいとこ住んでるの?」って思うとこに住んでますからね。もちろんそういった方は物凄く努力をされていますし、本気でやっている人はその分バックもちゃんとある。
映像も仕事の内容によりますがTVCMとか映画も凄い金額が動いています。まあ映像製作は本当にそれだけコストがかかるんですけど…そういう大きくお金が動くというのは病院時代には経験してこなかった部分ですね。
POSTインタビュアー:じゃあやっぱり結構もらってますよね?
榊原さん:いやいや(笑)でもそれまではやばかったですからね。ほんとに。
インタビュアー:というと?
榊原さん:2年位前までは生活保護レベルでしたよ。
POSTインタビュアー:詳しく教えて下さい。
榊原さん:上京してきて最初は風呂トイレ付5万のとこに住んでましたね。想像できますか?東京の都心で5万って結構やばいですよ。隙間風ビュンビュン入ってきますし、車が通ると家が揺れますから。
PT時代の2年間働いていた間に200万貯めたんです。もちろんバイクや車も売ったお金ですけど。それで、こっちきて専門学校にいったんですけど、その間に200万はなくなりました。
で、めちゃくちゃ忙しくて一年で3日とかしか休みなかったんですよ。実家から仕送りでそうめんを送ってもらっていたんですけど、1年半くらいは冗談抜き、2-3時間睡眠で、そうめんばっかり食べてました。
それで3回栄養失調になっちゃって。1回は撮影中に倒れて、レッドブルと肉を食べて回復しました(笑)。
インタビュアー:ちょうど今もレッドブル飲まれてますけど、もはや戦友ですね(笑)
榊原さん:いや、ほんとそんな感じですね。ただ、どんなにお金がなくて、食べ物がなくても例えば月に1万円も浮けば全額PCや映像関係の機器を買って投資をしていましたね。それぐらい必死でしたね。
インタビュアー:すごい覚悟ですね。やっぱり好きなことだから続けられた感じですか?
榊原さん:んー。そんなこともその時は感じなかったですね。好きとかはあんま関係なかった。やっぱり、PTの仕事を辞めて、映画をやりたいと思って東京にでてきて、2年間こっちにいたのもあってもう後に引けなかったんですよ。
やすやすと地元に帰りたくなかったんです。でも、地元友達のフェイスブックとかで「結婚しました!」「子ども生まれました!」ってのを見るとめちゃくちゃ羨ましいですけどね。僕は今はそうじゃないって言い聞かせていますね。(笑)
【目次】
第一回:映画監督になった理学療法士
第二回:映画製作を考えたきっかけ
【栞-shiori-】公式HPオープン!主演:三浦貴大(理学療法士役)監督:榊原有佑(元理学療法士)
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栞 -shiori-
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元理学療法士の榊原監督による、理学療法士のリアルな葛藤を描いた異色作、映画「栞」クランクアップ
具体的なストーリーや主要キャストのコメントをこちらからご覧いただけます。
榊原有佑先生経歴
2005年 あいち福祉医療専門学校 理学療法学科 入学(3年間)
2008年 三重大学医学部附属病院 理学療法士として入職(2年間勤務)
2010年 上京し映像学校で映像の基礎を学ぶ(1年)
2011年 映像制作会社に勤務(1年)
2012年 同期と映像制作会社を起業(1年)
2013年 映画監督としてデビューする
【平穏な日々、奇蹟の陽:予告編】
2014年 (現在:数本の映画企画の脚本執筆中)
<所属・役職・受賞歴>,br>
株式会社アドウェイズ・ピクチャーズ所属
映画監督・CMディレクター
2013年「平穏な日々、奇蹟の陽」(主演:有村架純)で映画監督デビュー
同作品がアジア最大の国際映画祭「ShortShrotFilmFestival & Asia」に入賞。ベストアクトレスアワード受賞。