体を真っ直ぐにするということ
― 先生は1年目の時と今を比べると、臨床能力は比較にならないほど成長されていると思いますが、どういうところに気をつけて臨床を重ねてこられましたか?
園部先生 1年目からそれこそ10年目まで、「何をみていたのか」というのは、正直自分でも言うことができません。というのも、やはり悩みながら試行錯誤していたので、「見ているもの」もずっと移り変わっていったんです。
例えば骨盤を中心に見たり、肩の下がりを中心に見たり、タイミングを中心に見たり、移り変わってきたんです。だから10年目までは、自分自身の臨床にたいした「軸」はなく、何を中心にみていたかというのは、言えないようなレベルだったと思います。
そういった意味では、自分の治療概念に本当の「軸」や「理念」が出来て、それを基盤とした動作分析ができるようになったのは、おそらくここ5、6年なんだと思います。私が最近思うのは、入谷先生がみていた診え方もこういうことじゃないかなと、今は感じています(入谷先生は天才的な感覚があったからはっきりは分かりませんが・・・)。
この動作分析の際の診え方こそが、ずっと私が講演で話してきた“倒立振り子理論に基づく診え方”なんです。要約すると、歩行や動作を倒立振り子運動として捉え、「体が真っ直ぐ足の真上に乗る」、そしてそこから「まっすぐに体幹が下っていく」、この2つを診るだけなんです。たった2つなんですがその本当の意味と診え方が分かるのには、ちょっと時間がかかります。でもこの倒立振り子運動が診られるようになってから私の臨床は画期的に変わりました。この診え方が動作を見るときに最も根本だと気づいたときから、その見方はずっとブレていません。ずっと変わらない。今でもそう。それが全ての評価の基盤になっているんです。
(参考:https://www.youtube.com/watch?v=XGItq1xMaPk)
― それはバスケも野球もサッカーもそうですか?
園部先生 そうなんです! だから、日本を代表するようなプロスポーツ選手を診るときも、高齢者を診るときも、同じ診え方なんです。たとえばプロスポーツ選手でも、倒立振り子の中で、まずは「体が真っ直ぐ足の真上になる」ところを探します。矢状面と前額面で体を真っ直ぐにして、そしてその真っ直ぐになった体幹を足の上に乗せることが出来れば、喜ばない人はいません。これができると、ふらついている高齢者もかなり安定するわけです。そして、その位置から「まっすぐに体幹が下っていく動き」をつくると、走行も、投げる打つ系の動作も、体重移動が加速するんです。
― 「真っ直ぐ」というのは、私たち理学療法士がアライメントをみて「真っ直ぐになった」というものを相手は、「真っ直ぐになった」と思わない場合も多くあると思います。それこそ「真っ直ぐは正しいアライメント」というのは、必ずしも良いという訳じゃないという意見もあると思います。それを先生が真っ直ぐっていうのはどうしてですか?
園部先生 真っ直ぐっていうのはね、倒立振り子でみると、体が真っ直ぐになるときに体がポンと跳ねるというか、タイミングがズレないんです。ポンと足の真上に乗ってくる感じです。
これがすごく大事で、足のド真ん中に真っ直ぐ乗るというのは全ての根本なんです。それが作れるか、作れないかっていうのはすごく大事です。
例えば、プロ野球選手で、ピッチャーだったらワインドアップをしたときに、プロでもみんな体がちょっとだけズレています。また本人がそういった感覚を持っていることも少なくありません。「ちょっと後ろにいっちゃう」とか「膝が内側に入っちゃう」とか。それをいつも、ワインドアップの中でアジャストしているんです。
だからワインドアップをしたときに、こういったズレや癖を調整して、体が真っ直ぐになると、ズドンと乗ってくるから、その位置から加速しやすくなるし、満足して貰えます。
今のそれは入谷式足底板なのか?
― それは入谷式足底板とは別に先生が考えていることですか?
園部先生 私のところに来る大半の患者には入谷式インソールを入れます。でもインソールで全てを解決することに私はこだわっていません。大事なことは目的を明確にすることです。そしてインソール、運動療法、テーピング、徒手療法など多角的な操作によって、その目的を達成するようにしています。それが私の目指している治療なんです。
― 徒手療法も先生はやるんですか?
園部先生 体が真っ直ぐになる方向を見つけるのは徒手療法を多く使います。最初に前額面と矢状面で体が真っ直ぐになるように徒手療法で調整して歩くと、ドスンと足の上に体が真っ直ぐに乗ってきます。そして必ず“逆”をやる。逆をやると、今度はズレるような感じが本人にも分かります。そうやって、体をまっすぐにして乗りやすい環境を作っていくわけです。さらに、体が足のド真ん中に乗りやすい環境を作った後に、今度は股関節伸展を使って自然に体が下っていける動きを作るという作業をしています。
それ以外はほとんどやってないないと言ってもよいと思います。各論的に、体をまっすぐにするために膝が曲がっているとか、そういうのは論外だから各論的に治療はしていきます。可動域制限の改善とか局所の機能をある程度整えたら、あとは倒立振り子がしっかり使える体にすると不思議と、足部疾患でも股関節でも膝でも腰でも楽になっていきます。こうした過程の重要性は毎日やっていて本当に実感できることなんです。
― 失礼な話ですが、”入谷式”足底板ではなく、”園部式”の足底板として広めていこうという気は無かったんですか?
園部先生 そういう事はよく言われますね。だいぶ独自になってきちゃっているから。でもやっぱり入谷式の基本があるからできることなんです。
私は凡人なので、入谷先生が作った基礎があってはじめて出来ていることだと思っています。いつの間にか、私なりの展開をしているので、独自の治療に見えるけど、治療の根本自体は入谷式の治療を行っていると私は思っています。
ボバースのインストラクターでもみんな治療は違うんですよ。
だから同じではないんだけど、根本としている治療概念というのは同じというところで、みんなボバースのインストラクターをやっているんじゃないかなと私は思っています。そして私なりの捉え方になるかもしれませんが、入谷式の治療概念を多くの療法士にしっかりと伝えていきたいと思っているんです!
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【目次】
第一回:師入谷誠との出会い
第二回:倒立振り子理論
第三回:運動と医学の出版社を設立
第四回:コンディション・ラボを開業
第五回:家族
園部先生のオススメ書籍
園部先生コメント>>一般書では、松下幸之助の道をひらくっていう本がすごく好きです。あとは斉藤一人、勝間和代、マイケル・ボルダック、デール・カーネギー、ナポレオンヒル、スティーブRコヴィーとか好きです。1番多い年は200冊ぐらい本を読んだんですよ。下記は私のお勧めの書籍集です。ぜひご覧ください。http://pt-sonobe.com/books
園部 俊晴先生プロフィール
・コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院)所長
・運動と医学の出版社 代表取締役社長
・臨床家のための運動器研究会代表
・身体運動学的アプローチ研究会会長代行
経歴
平成3年4月 関東労災病院リハビリテーション科勤務
平成18年6月 秩父宮スポーツ医科学賞奨励賞
平成22年10月 臨床家のための運動器研究会 代表理事
平成28年1月 身体運動学的アプローチ研究会(入谷式を発展させるための会) 会長代行
平成29年3月 26年間勤務した関東労災病院を退職
平成29年4月 コンディション・ラボ(インソールとからだコンディショニング専門院)を開業する。 同時に㈱運動と医学の出版社 代表取締役 社長に就任。足・膝・股関節など、整形外科領域の下肢障害の治療を専門としている。故、入谷誠の一番弟子。一般からスポーツ選手まで幅広く支持され、、多くの一流アスリートや著名人などの治療も多く手掛ける。身体の運動連鎖や歩行に関する研究および文献多数。著書多数。新聞、雑誌、テレビなどのメディアにも多く取り上げられる。また、運動連鎖を応用した治療概念は、専門家からの評価も高く全国各地で講演活動を行う。