第2回:「セラピストのための臨床解剖学」 膝関節編 Vol. 2 〜外側広筋斜頭という言葉を聞いたことはありますか?〜

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第1回は前十字靱帯と後十字靱帯の整形外科的テストの疑問を臨床解剖学の視点で発信させていただきました。
第2回は外側広筋斜頭について書かせていただきます。臨床の中で内側広筋斜頭は注目されることが多いのに対して、なぜ外側広筋斜頭は注目されないのか疑問を感じていたため、今回は外側広筋斜頭について発信したいと思います。

外側広筋斜頭に注目

 膝蓋大腿関節症や膝蓋骨脱臼の患者さんを担当した際に、内側広筋(特に内側広筋斜頭)を注意深く評価するのではないだろうか。しかし相反する外側広筋についてはあまり注目されておらず、外側広筋の解剖学的情報は不足している。

セラピストが行う筋の評価や治療は、主動作筋と拮抗筋を評価するのが基本である。それなのに大腿四頭筋に対しては内側広筋斜頭を評価・治療をするのに対して、外側広筋斜頭は評価・治療の対象としてあがってこないのはどうしてなのだろうと日々の臨床の中で疑問を持っていた。膝蓋大腿関節症や膝蓋骨脱臼の病因を理解するためには、外側広筋の形態解剖学※1や機能解剖学※2の理解は必須である。そのため今回は外側広筋を中心に述べたい。

 まず注目されやすい内側広筋は長頭と斜頭の二頭からなることは過去のPOST様の記事でも拝見される。国内の学術誌で調査すると内側広筋斜頭の情報は日本語でもヒットする。それに対して外側広筋はどうだろうか。実は外側広筋も長頭と斜頭の二頭で構成されているが、外側広筋斜頭は国内の学術誌で調査しても日本語ではヒットしない。(現在までのところ国際的な学術誌の中で留まっている印象がある)それだけまだ情報が不足していることがうかがえる。

※1:組織の構造や形状を学ぶ解剖学    ※2:組織がどのように動くかを学ぶ解剖学

 

外側広筋斜頭の歴史

外側広筋斜頭という言葉が始めて世に出てきたのは今から31年前の1987年にHalisey1が書いた論文である。内容は外側広筋の外側下部の筋束が膝蓋骨の長軸に対して斜めに停止することを発見し、その領域を外側広筋斜頭と呼んだのが始まりである。(ちなみに内側広筋斜頭をはじめて報告した論文は、今から50年前の1968年のLiebと Perryである)2)。歴史から考察しても外側広筋斜頭の方が発見されてから新しく、外側広筋の情報が不足している原因の一つかもしれない。

 

外側広筋斜頭の形態解剖学

 外側広筋の長頭と斜頭の形態解剖学について述べる。解剖学的に頭をつける条件として起始が異なる場合に頭がつけられる。要するに長頭と斜頭は起始が異なるということである。長頭は大腿骨粗線外側唇と大転子である。それに対して斜頭の起始は大腿外側筋間中隔※3と腸脛靱帯と述べられる。(腸脛靱帯から起始する確率は70%である(Backer:2010)3)(図1.2)私も大学院で外側広筋の解剖をした際に外側広筋斜頭を初めて肉眼で観察した。その際に感じたのは、明瞭に観察できる外側広筋斜頭の存在を、なぜ肉眼解剖の歴史は古いにも関わらず、取り上げられたのはたったの31年前からなのだろうと疑問を抱いたのを覚えている

※3:筋間中隔とは拮抗する筋同士の間にある筋膜で、ここでは外側広筋(膝関節伸展筋)と大腿二頭筋(膝関節屈曲筋)の間に入る筋膜のことで、外側大腿筋間中隔という(図1.2)。

外側広筋斜頭の機能解剖学と臨床的研究

外側広筋斜頭の働きについて述べる。外側広筋斜頭の停止は膝蓋骨上外側縁に付着する。そのため膝蓋骨を上外側へ引く作用を持っている。よって膝蓋骨に関係のある疾患で取り上げられ、具体的には膝蓋大腿関節症や膝蓋骨外側脱臼などがある。それらの疾患の患者さんを担当する時にセラピストが用いる指標としてQアングルがある。(図3)正常値は男性で13°、女性で18°と言われ(ポジションによりやや異なる)、それ以上になると膝蓋骨が外側に偏位しやすいことになる。女性の方が膝蓋大腿関節症や膝蓋骨外側脱臼が多いのはQアングルが大きいためである。そのため治療として膝蓋骨を内側へ引っ張る内側広筋斜頭の筋力強化が推奨されている。では外側広筋斜頭はどうだろうか。外側広筋斜頭は膝蓋骨を上外側に引く作用がある。よって外側広筋斜頭が発達している場合や短縮している場合に膝蓋骨は上外側に偏位しやすくなることが予想できる。実際は膝蓋骨の動きは、骨、筋、支帯、靭帯などを含んだ多数のバリエーションによって影響を受ける。ただ筋以外は先天的なものであり、セラピストが特化すべきは筋の柔軟性、筋力の強弱や筋出力の調整である。よって内側広筋斜頭だけでなく外側広筋斜頭も意識して臨床の中で患者さんを担当してみていただきたい。

また臨床の中でよく経験する症例に大腿の前面から外側面にかけて筋膜が張っており、触察すると非常に硬くなっている患者さんを担当することも多いのではないだろうか。そのような症例に対しては、これまで大腿筋膜や腸脛靱帯に付着する大腿筋膜張筋と大殿筋が注目されてきた。しかし外側広筋斜頭の起始も大腿外側筋間中隔と腸脛靱帯であることから、外側広筋斜頭が柔軟性の低下を呈した場合も同様に大腿の前面から外側面の硬さにつながる可能性が推測される。

外側広筋斜頭を実際に解剖してみると筋線維の方向や起始、停止の付着の仕方など興味深い所見が散見される。そのため私自身も外側広筋斜頭を含め、大腿四頭筋の研究を行っているが、将来的には内側広筋斜頭と同じように臨床解剖の研究が進むことを期待している。

最後にセラピストが特化しておくべきことは、外側広筋斜頭を体表上で観察できること、体表上から触察できることである。そのため体表上ではどこに位置しており、どのように触察するかについては、セミナーの際に実技でお伝えしているので、関心がある時には参考にしていただきたい。

 

参考文献

1)Hallisey MJ, Doherty N, Bennet WF, Fulkerson JP (1987) Anatomy of the junction of the vastus lateralis tendon and patella. J. Bone Joint Surg. Am. 69-A, 545-549.

2)Lieb FJ, Perry J (1968) Quadriceps function. An anatomic and mechanical study using amputated limbs. J. Bone Joint Surg. Am. 50-A, 1535-1548.

3)Becker, I, Baxter, G. D, Woodley, S. J.(2010)The vastus lateralis muscle: an anatomical investigation. Clin Anat. 23, 575-585

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