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犬のリハビリテーションに携わる獣医師|児玉綾香先生

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分かっていることが少なすぎる

 

児玉先生は2004年に北里大学獣医学獣医学科を卒業後、獣医師としてセントラル動物病院に勤務。

 

当時はペットブームの真っただ中で、動物病院にも多くの犬や猫を連れた家族の方が訪れていた。動物に対するリハビリテーションもちょうどその頃から必要だと言われ始め、児玉先生もそれを学ぼうとオーストラリアで行われていた動物理学療法セミナーを受講した。

 

そのコースに一緒に参加していた理学療法士の藤沢由紀子先生と話しているうちに、「日本で理学療法」の資格を取ろうと決めたそうだ。

 

「動物理学療法の分野は、今もなお発展途上ではあり、当時から人と比較して圧倒的に研究が不足しています。日本の論文はほとんどないに等しい現状です。分かっていることが少なすぎる、動物分野から学ぶよりも人間の理学療法の勉強をして、それをベースにして色んなものを応用した方がいいと思いました。」

 

実は、獣医学部では犬や猫のことはほとんど学ばない。

 

獣医学部は農林水産省管轄で、授業は産業動物としての牛、馬、豚、鶏などが中心。近年では犬・猫についてのカリキュラムも設置されているところが増えてきているが児玉先生が通っている際にはほとんどなかったそうだ。

 

前十字靱帯断裂は変性疾患?

 

取材に伺ったのは藤井寺動物病院。前十字靱帯断裂で手術をしたマルチーズのリハビリ見学をさせていただいた。

 

前十字靱帯は、人間だとサッカーやバスケットなどのスポーツ外傷として有名だが、犬は肥満や加齢、ホルモンの影響によって変性を起こし、方向転換時や通常の歩行でも断裂を起こすことがある。一種の退行変性疾患と言ってもいいかもしれない。また、その数も多く動物病院を訪れる20%近くが前十字靱帯とも言われている。

 

術式としてはTPL0(脛骨高平化骨切り術)が最もポピュラーで、膝関節を構成する脛骨近位を図のように三日月状に骨を切り、骨片をスライドさせて回転矯正しプレート固定するものだ。

 

藤井寺動物病院HPより

 

リハビリメニューとしては、関節可動域改善のためのストレッチと、荷重訓練、歩行訓練を行っていた。

 

「どの程度まで曲がればいいのか」、療法士なら疑問に思うかもしれないが、ラブラドールレトリバーを対象に行われた参考可動域が犬にもありそれを参考にしているそうだ。また、荷重訓練は、健側の方の脚を持ち上げることで患側に荷重をかけたり段差などを利用していた。

 

 

「歩行訓練の時に元気な子だと走ってしまったりして、患側に負担がかかり過ぎて痛みを出してしまうことがあるので、走ってしまったら注意をします。逆に歩き終わったらおやつをあげて褒めてあげたりしています。コミュニケーションが取れなくて苦労することもありますが、理学療法士の先生も小児や認知症の言葉が通じない方と意思疎通を取ることができたりするじゃないですか。一緒だと思うんですよね、人間と接するのと動物と接するのと。」

 

理学療法士免許を持っているだけではだめ

 

日本理学療法学会に「動物に対する理学療法部門」が新設されてから約3年が経った。いまだに獣医療の現場で働いている理学療法士は少数で、実際に動物のリハビリテーションを行っているのは獣医師や動物看護師がほとんどだ。

 

藤井寺動物病院に勤める獣医師で、理学療法士免許も持つ児玉先生は次のように話す。

 

「怪我した子(犬・猫)に対して理学療法やリハビリテーションをやってあげたくてもなかなか時間が取れないんですよね。獣医師は常にバタバタ働いているので。誰かやってくれる方がいたらいいんですけど。逆に言ったらそこに広がる余地があるのかもしれませんね。」

 

ただ、一方で理学療法士が動物分野に参入していくことに関して、慎重な意見もこぼす。

 

「獣医療にとって理学療法士が動物に関わることについて、いいとも悪いとも思っていないと思います。有益なことをきちんとやってくれるならいいよって感じですね。前に理学療法士の方が動物に関わりたいといってきた方に会ったこともありますが、その方はただ理学療法士免許を持っている”だけ”のような方で病院の印象は最悪でした。人の医療の知識がそのまま獣医療に応用できるわけではないんです。学術的なことはもちろんですが、獣医療そのものの背景をきちんと理解できていないと受け入れられるのは難しいですね。でも、それを含めて真面目に取り組む人であれば、逆に獣医師は協力的だと思います。」

 

犬のリハビリテーションを学ぶには

 

では、動物に対して関わりたいと思った理学療法士はどうやって学べばいいのか。児玉先生は、二つ方法を挙げた。

 

 

「一つは私みたいに、獣医師免許を持ってやる方法。理学療法士・作業療法士は法律上、医師の指示のもとの診療でないと、堂々と診療しているっていうのがなかなか難しいですよね。もう一つは、CCRP(Certified Canine Rehabilitation Practitioner)やCCRT(Certified Canine Rehabilitation Therapist)といった米国発祥の認定コースを受ける方法。CCRPは今は日本でも受けることができます。」

 

CCRPはテネシー大学公式認定の「犬の理学リハビリテーションセミナー」で、獣医師(または獣医師を目指す学生)や、理学療法士およ動物看護師のためのカリキュラムとなっている。

オンラインのコースを含めた全5コースを受講後、ケーススタディを提出し、認定試験(筆記試験及び口頭試験)に合格すればCCRP認定を受けられる。

▶︎ https://www.vmn.ne.jp/mn/seminar/ccrp/#courseinfo

 

また、CCRTはコロラド州立大学と提携している犬のリハビリテーション協会CRI(Canine Rehabilitation Institune)による認定資格で、米国で3回の講習及びインターン実習を受講し認定試験を合格するとCCRT認定が受けられる。

▶︎ https://www.caninerehabinstitute.com/CCRT.html

 

「私みたいに獣医師でリハビリテーションをやりたいっていう人は、かなりマニアックです(笑)現実的には理学療法士が動物の勉強をして入って来るのが、みんなhappyなのかなって思います。海外では既にそういう動きがありますよ。」

 

海外の動物理学療法事情

最後に、諸外国の動物理学療法事情についてお伝えする。

 

始まりはイギリスで、1987年にthe Chartered Society of Physiotherapyとthe Royal College of Veterinary Surgeonsの2つの認可を受けて「公認動物理学療法士」という名称を用いて理学療法士が動物に対して実施できるようになった。

 

次いで1989年にオランダがMinisterie van EL&I beschermd beroep(経済・農業・イノベーション省)の認可を受け、「動物理学療法士」として理学療法士が関われることになった。現在では理学療法士が動物に対して実施できる国は、上記2つの他、フィンランド、スイス、ドイツ、スウェーデン、アイルランド、アメリカ(一部の州)、南アフリカで、各々の国で、「動物理学療法士」「公認動物理学療法士」「理学療法士」の決まった名称を用いて実施している。

 

世界理学療法連盟(WCPT)では、2011年にサブグループのひとつとして動物に対する理学療法部門(IAPTAP; International Assosciation of Physical Therapists in animal practice)が設置され、10カ国が加盟している。世界をみていくと、理学療法士が動物に対して実施する流れがある。日本理学療法士協会の動物に対する理学療法部門でもこのサブグループへの加盟にむけて動き始めている。

 

一方で、教育システムや業務規定など様々な問題が混沌とした状態である国も多い。今後、動物理学療法について国際的な基準が確立されることが望まれている。

 

児玉綾香先生プロフィール

2004年 北里大学獣医学部獣医学科 卒業

2004年 セントラル動物病院 勤務

2005年 獣医教育・先端技術研究所 腹部超音波研修 修了

2006年 獣医教育・先端技術研究所 心エコー研修 終了

2009年 埼玉動物医療センター 非常勤勤務

2013年 北里大学卒業 医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻 卒業

2013年 セントラル動物病院 勤務

2015年 藤井寺動物病院 動物人工関節センター/動物リハビリテーションセンター、奈良動物医療センター、おざき動物病院、セントラル動物病院で動物リハビリの専門診療に従事

犬のリハビリテーションに携わる獣医師|児玉綾香先生

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