第2章:半側空間無視の当事者になって【関 啓子先生】

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不幸中の幸い

 

ー 先生は2009年に心原性脳塞栓症を発症し、ご自身で半側空間無視を経験されたそうですね。

 

関 2002年に神戸大学医学教授に就任して、本務の他、研究科長補佐や大学評議員などの役職に就き、順風満帆だった時のことでした。

 

繁華街を歩いていた時、突然左下半身が動かなくなり救急車で運ばれました。意識障害はなく、右共同偏視があり、救急車の中で「右半球損傷だな」と実感し、半側空間無視などのこれから出現が予想される症状を予期していました。幸いすぐ近くの病院に運ばれ、t-PAを受けることができました。

 

ー 左半側空間無視を体験したそうですね。

 

 そうですね。専門に研究してきた分野ですし、BITの日本語版の開発にも携わってきた身ですから、頭では当然自分に無視症状が出現することが理解できていました。しかし、それでも左方への意識が不足しどうしても右方に注意が惹きつけられてしまうんですね。


 

その後、職場復帰を目指してリハビリに専念し、発症後10ヶ月で神戸大学に教授に現職復帰しました。

 

ー 高次脳機能障害があったにも関わらず、驚異の復帰スピードですね。

 

 それは、幸いにも半側空間無視をはじめとした高次脳機能障害の知識や病識、臨床経験が豊富にあったからだと思います。通常ですと、現れた症状がどのようなものなのか、どのように対応すればよいのかということが分かりません。

 

高次脳機能障害リハビリ難民を救え

 

ー 2013年に、ここ三鷹高次脳機能障害研究所を開設されていますが、その経緯を教えてください。


 

 現行の制度ですと、高次脳機能障害を持っている方でも半年経つと回復期リハビリテーション病院を出されてしまいます。外来リハビリや訪問リハビリに配属されているSTは圧倒的に足りていないため、地域に帰られた後に相談や訓練を受けられることの方が少ないのが現状です。当事者となった私はそのような方をたくさん見てきました。

 

一方で、失語症の回復予後を例にしても、3年以上の長期にわたっても回復することが論文で報告されています。今後、益々入院期間は制限されて、悔しさや失意をお持ちの失語症・高次脳機能障害者が増えることが予想されます。

 

当事者経験を持ち、35年の臨床経験を持つ私にしかできない、地域に帰られた後の当事者支援者を支えるこういう場所を設立できないものかと思いました。

                          

ー 自費で臨床もやられているのですか?

 

 いえ、開設当初は臨床活動をしようと思ったのですが、私が多忙になってきたものですから出来ていません。ただご連絡をいただく方の中には「自費でもいい」とご希望される方もたくさんいらっしゃいますので、そういった機関があってもいいかもしれません。あとは、当事者ネットワークも地域には必要です。仲間と繋がって主体的に社会参加することが一番のリハビリになります。

 

ー 地域に言語聴覚士が圧倒的に足りていませんね。

 

 ST協会によると、病院で働いている人が7割というデータがあります。ただ女性が多い職種でありますので、妊娠や出産、子育てなどで、実際は地域に出ている人はもっと少ないと思います。

 

ー 人数が多いPTがSTの代わりに、言語訓練を行うというのはいかがでしょうか?

 

 それはなかなか難しいと思っています。リハセラピストとしての基本的な教育という基盤は共通ですがSTは言語聴覚障害に関する専門職としての教育を受けています。理想的には、STが不足している場合はSTを確保する、それが難しければ身近なSTに相談してアドバイスをもらう、最後の手段として専門書などから言語聴覚領域の知識を得る、などが必要かと思います。

 

しかし、多様な評価法を学んでいないと少々難しいかと思います。STはまず評価によって対象者が用いている情報処理経路を推測して回復に至る適切な経路に関する仮説を立て、その経路を強化します。これを一定期間繰り返して再度評価し、それまでに行った介入の妥当性を検証するという手法をとります。このため、このような方法に慣れていない他職種が肩代わりをするのは難しいかもしれません。

 

ー最後に、プロフェッショナルとは何ですか?

 

関 「伴走者であれ」ということですね。対人援助職ですから、私は相手の状況を洞察し常に同じ目線になるということを心がけています。

 

【目次】

第1章:なぜSTの国家資格化は遅れたのか

第2章:半側空間無視の当事者になって

 

関 啓子先生おすすめ書籍

死ぬ瞬間―死とその過程について (中公文庫)
Posted with Amakuri at 2018.12.27
エリザベス キューブラー・ロス
中央公論新社
医者が心をひらくとき-A Piece of My Mind (上)
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ロクサーヌ・K.ヤング
医学書院

 

関 啓子先生プロフィール

 

1976年 国際基督教大学(ICU)教養学部語学科卒業。
1976年 東京銀行(当時)本店営業部輸出課。
1982年 国立障害者リハビリテーションセンター学院聴能言語専門職員養成課程卒業。1982年 東京都神経科学総合研究所(当時)リハビリテーション研究部門。1983年 中村記念病院(札幌市)言語室。
1989年 東京都神経科学総合研究所リハビリテーション研究部門。
1995年 東邦大学大学院医学研究科から医学博士号授与(主査:岩村吉晃教授)1999年 神戸大学医学部助教授。第1回言語聴覚士国家試験合格。
2002年 同大学医学部教授。
2008年 同大学大学院保健学研究科教授。
2009年7月 脳梗塞発症。
2010年5月 現職復帰。
2011年3月 同大退職。同大学客員教授。
2013年4月 「三鷹高次脳機能障害研究所」開設

 

主な著書

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