腸腰筋(腸骨筋)の評価(トーマステスト)と筋トレ、ストレッチ

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Contents

1.腸骨筋はこんな筋肉

2.腸腰筋の筋膜

3.腸骨筋の主な作用のまとめ

4.腸骨筋の臨床的意義

5.腸骨筋の評価(トーマステスト)

6.腸骨筋のストレッチ

7.腸骨筋の筋トレ

8.腸骨筋のトリガーポイント

9.文献

1,腸骨筋はこんな筋肉

まずは基本的な知識(起始・停止、支配神経、栄養血管、髄節、作用)から学んでいきましょう。

起始

腸骨窩

停止

大腿骨小転子

支配神経

大腿神経

髄節

L2ー4

作用

股関節屈曲・外旋

大腿骨固定の場合:骨盤前傾

英語

Iliacus muscle(略:IL)

 腸骨筋は、三角形の形状で腸骨窩にぴったりとフィットしています。大腰筋とともに腸腰筋とも呼ばれています。この筋肉の一部は、腸骨窩の上から3分の2の位置に付着しています。

 

腸骨筋は腸骨の内側に付着しています。そこから大腰筋に合流して鼠径靭帯の下(筋裂孔)を通過し、大腰筋と共同腱になって大腿骨小転子に付着します。

この筋肉の他の線維は、腸腰靭帯と前仙骨靭帯と上前腸骨棘にまで及びます。

ここで大腰筋、腸骨筋を合わせて走行を確認しよう!!

走行を見ると付着部が一体どの辺なのかイメージもつきますし、走行から作用や特徴まで見えてきます。言葉で起始停止を覚えるだけでなく、走行まで覚えておくと頭に入りやすいです。

 

2,腸腰筋の筋膜

 腸骨筋腱膜ユニットは、それを取り囲む筋膜系を通じて多くの解剖学的関係を持っています。上部では腸腰筋筋膜が胸部筋膜(胸腔内筋膜)と合流して、後方では横隔膜の弓状靭帯と合流しています。

 

さらに腸腰筋筋膜は、前方で腎臓、膵臓、下行大動脈、下大静脈、結腸(上行・下行)、十二指腸、盲腸を覆う筋膜と合流しています1)。 後方では、大腿部の外側筋膜および骨盤底筋膜と合流し、後者との融合により、大腿筋膜と腹筋の筋膜系を接続しています。後者との融合は、大腿四頭筋の筋膜と腹筋の筋膜系をつないでいます。

 

3,腸骨筋の主な作用のまとめ

・腸骨筋は股関節屈曲と外旋の作用がある。
・骨盤前傾による腰椎前弯を保持する、姿勢維持に役立つ重要な筋肉である。
・大腰筋と組み合わせると、この2つの筋肉は、身体の中で最も強力な股関節の屈筋であり体幹と下肢をつなぐ唯一の筋肉。
・腸骨筋は歩行中も継続的に活動していますが、大腰筋が活動するのは(歩行中の)直前と初期のみ。
・腸骨筋は体幹の側屈を偏心的にコントロールしている。

4,腸骨筋の臨床的意義

 腸骨筋の付着から考えると、デスクワークによる筋短縮は予想できます。これによって血流障害やトリガーポイントによる関連痛を伴う障害を臨床では経験します。

 

股関節の伸展可動域制限における歩行への影響や腸骨筋単体が引き起こす腰痛など、その問題は多岐に渡りますが、臨床においては腸骨筋のみが悪いという状況はほとんどありません。

 

腸骨筋の評価においては、以下より解説するトーマステストは、腸骨筋の問題を明らかにする評価として重要な評価となります。腸骨筋の外傷性損傷は非常に稀であり、大腿神経障害を伴う血腫を生じることもあります(腸骨コンパートメント症候群)。

 

腸骨コンパートメント症候群は、腸骨筋内の出血により血腫が形成され、大腿神経に圧迫されることで引き起こされる稀な後腹膜コンパートメント神経障害であり、感覚および運動障害の両方を引き起こします。しかし、非手術的管理で良好な回復が得られたという報告もある。放射線学的検査で大腿神経を圧迫する控えめな血腫の存在が明確に確認されない場合には、症状の進行が増加しない限り、非外科的介入が推奨される。

Mwipatayi BP, Daneshmand A, Bangash HK, Wong J. Delayed iliacus compartment syndrome following femoral artery puncture: case report and literature review. Journal of surgical case reports. 2016 Jun 1;2016(6).

 

5,腸骨筋の評価

トーマステスト

 トーマステストと一言にいっても、方法は多数存在します。まずは、通常のトーマステスト(TT)からご紹介しましょう。

1,ベッド上に仰向けとなります。

2,もう片方の膝を抱えます。(黄色い矢印)*こちら側は検査側ではありません。

3,抱えた膝を胸に近ずけていきます。

→この時、伸ばした足が曲がってくる(黄色い矢印)場合、トーマステスト陽性となり腸腰筋の短縮が疑われます。

→この検査で判別できる筋肉の障害は4種類(大腿直筋、腸腰筋、縫工筋、大腿筋膜張筋があります)

*その他、modified Thomas test、simple modified Thomas testがあります。手順に違いがあり、両膝を抱えた状態から検査側下肢を伸ばす方法です。

大腿直筋の短縮と判別する方法

 上記トーマステストの結果、ベッド端体している下肢の膝関節が伸展してきても、大腿直筋が疑われますが、下図の方法でも検査可能です。検査手順としては、

1,トーマステストの状態から、検査下肢膝関節を他動的に屈曲する。

→80°以上屈曲可能であれば、大腿直筋の長さは正常となります。

*その他、エリーテストも大腿直筋の判別には必要なテストとなります。

大腿筋膜張筋の短縮と判別する方法

 トーマステスト陽性の場合、検査側下肢の動き方によっても、短縮筋肉のポイントを絞ることができます。大腿筋膜張筋の場合、股関節の屈曲、外転、内旋作用があるため、この筋肉の短縮では股関節の外転偏位がみられます。

 

しかし、これだけで大腿筋膜張筋の短縮とはいえず、必ずオーバーテスト(=Ober's test)も一緒に行う必要があります。

 

この逆に、トーマステストの姿勢から股関節の外転制限がある場合には、長内転筋の短縮も疑われます。

縫工筋の短縮と判別する方法

 続いて縫工筋短縮も、トーマステストの結果から観察されることがあります。縫工筋の作用は、股関節の屈曲外転外旋と大腿筋膜張筋との違いは内・外旋で違いがあります。

 

つまり、縫工筋の短縮が疑われる場合には、股関節の外旋偏位がみられます。もちろん、これも大腿筋膜張筋同様トーマステストだけで短縮を決定するのではなく、エリーテストによって股関節屈曲、外転、外旋の偏位がみられると縫工筋の可能性がより疑われることとなります。

 

6,腸骨筋のストレッチ

 腸骨筋のストレッチは、トーマステストを応用すれば可能です。ただし、代償動作として腰椎の前弯が出現します。これを抑えるためにも、対側下肢の抱え込みは重要です。膝が胸に着くように、膝を抱え込むことで骨盤が後傾し、腰椎の前弯を防ぐことができます。

 

腸骨筋のストレッチは、1分5セットほどの負荷にて行うと良いと思います2)

その他、セルフストレッチの方法としてもっとも一般的な方法は、下図のストレッチのように、片膝をついた状態から股関節を伸展するストレッチです。この状態から股関節を伸展させた側の膝を曲げるように、つま先を引っ張ることで大腿直筋のストレッチにもなります。

7,腸骨筋の筋トレ

 ここでは、腸骨筋のトレーニング方法をお伝えします。筋トレもストレッチも筋肉の起始・停止がわかれば、難しくはありません。起始・停止が近づけばトレーニングとなり、離れればストレッチとなります。

 

ただし、トレーニングにおいては筋肉の収縮形態(=筋収縮を生理学的に理解しよう)を頭に入れなければいけません。上記で説明した収縮は、求心性収縮になりますが、動作やトレーニングにおける負荷を考えると遠心性収縮も有用です。

 

さらに、腸骨筋は左右に存在するため同時にトレーニングすることも可能です。例えば、下図のようにチューブでトレーニングを行えば、股関節を曲げている側は求心性収縮のトレーニングとなり、伸ばしている側は遠心性収縮のトレーニングとなります。

上記他、筋トレで考えなければいけないのは、筋肉のリバースアクションです。筋肉の起始・停止の定義を思い出してもらえればわかりますが、起始は固定側であり、停止は運動が起こる付着部になります。

 

上記方法では、起始に対して停止側が近づいているため、通常の運動になりますが運動を行う上で、例えば腹筋運動において腸骨筋を考えてみると、停止に対して起始が近づいています。これを筋のリバースアクションと呼んでおり、腹筋における腸骨筋の働きが、それに当たります。

 

またその他、下図のように鉄棒を使ったハンギングレッグレイズ(膝屈曲)では、OKC(=オープンキネティックチェーン)でのトレーニングになるなど、筋収縮の形態や起始・停止によってバリエーションは様々になります。

 

その目的や、患者さんの状態に合わせてトレーニング方法を考える際に、上記のポイントを抑えながらトレーニングを行うと良いと思います。

8,腸骨筋のトリガーポイント

 トリガーポイント、定義としては「過敏化した侵害受容器」とされ、それを含む問題を総称して筋膜性疼痛症候群と呼ばれています。最近では、エコーの進化によって生理食塩水を注入する医師や筋膜リリースと称した方法でトリガーポイントを使ってアプローチすることがあります。

 

これには、筋肉それぞれに関連痛を放散する部位が大まかに決まっており、以下は腸骨筋含む腸腰筋のトリガーポイントを図に表しました。見てわかる通り、股関節の前面ほか背部にもその痛みは放散していることがわかります。

 

理由は様々仮説がありますが、どれもはっきりと結論ずけられたものはありません。

 

トリガーポイント触診(trigger point palpation) 推奨グレード B トリガーポイントを診断する検査方法の信頼性は確立されておらず,触診によるトリ ガーポイント識別の再現性には,研究の質を改善する必要がある。

引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン

 

9,参考文献

1)Cronin CG, Lohan DG, Meehan CP, Delappe E, McLoughlin R, O'Sullivan GJ, McCarthy P. Anatomy, pathology, imaging and intervention of the iliopsoas muscle revisited. Emerg Radiol. 2008 Sep;15(5):295-310.

2)Shusuke Nojiri,Masahide Yagi,Yu Mizukami,Noriaki Ichihashi.Static stretching time required to reduce iliacus muscle stiffness.Sports Biomech. 2019 Jun 24;1-10.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24814597/

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK531508/

https://www.pulsus.com/scholarly-articles/anatomic-variation-of-the-iliacus-and-psoas-major-muscles.html

腸腰筋(腸骨筋)の評価(トーマステスト)と筋トレ、ストレッチ

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