Buenas noches!terapeuta!(スペイン語でこんばんは療法士のみなさん)44マグナム世代の江原です。Oberテストって整形外科的テストの中でもやや異質な存在って感じがしませんか?
膝のMcMurray testや肩関節インピンジメントのHawkins-Kennedy手技とは異なり、器質的病変を推測する疼痛誘発テストではありません。Thomas testやEly testと同じ筋の長さテストにあたります。
なぜこのテストにこだわっているかというと整形クリニックに勤務していた新人時代に、「Oberテストって教科書に割かれている分量が明らかに少ないし判定もあいまい。なんか不遇な存在だな」と感じていたのです。
調べていくとOberテスト誕生に痛みが大きく関わっていたことを学び、その後の臨床に役立つ多くの情報を得た経緯があるからです。本日は自称Ober先生のパレハ(スペイン語で仲間)による「Oberテスト・慢性非特異的腰下肢痛編」です。
本日のコンテンツ
・「図書館とOber先生と私」
・大腿筋膜張筋と腸脛靭帯おさらい
・OberテストとOberテスト変法ご紹介
・非特異的腰下肢痛患者へのアプローチのコツ
「図書館とOberテストと私」
15年前の新人の頃は、現在のように理学療法の書籍や講習会もそれほど充実していませんでした。Oberテストのことが知りたいと思っていた私は、大学病院の図書館に探しにいくしかありませんでした。
ちなみに話題は逸れますが、整形クリニック勤務の運動器理学療法士さんで文献が手に入りにくい場合こういう方法もあります。
Check
大学の図書館は学外の者に利用開放されていることが多い。登録すれば、外部の者でも利用できる。
参考サイト:日本図書館協会 大学図書館
養成校の恩師は事あるごとに、「文献で調べるときは原著にたどりつくようにしよう」と言っていたので、Oberテストの発案者、Ober先生の心に触れたい一心で大学図書館で検索機を使いながら調べていました。
そしたら・・・なんということでしょう!図書館書庫の奥の奥、古文書のように眠っていたOber先生の文献に出会うことができたのです。
その文献を要約すると
・坐骨神経痛には、腸脛靭帯・大腿筋膜張筋のメカニカルコンディションが関係するかもしれないから議論しようよ
・大腿筋膜を切るだけの手術をしたら坐骨神経痛が治った例があるよね
という当時の私にとっては驚きの内容でした。
坐骨神経痛を訴える患者さんの手術をするために、筋を切って中を確認したところ何も問題がなかった。でも術後筋膜を切った患者さんの坐骨神経症状がなくなった。
今でこそ、「非特異的腰下肢痛」の概念が広まってきていますが、MRIすらまだ存在していなかった第二次世界大戦より前に非特異的・非器質的な痛みを示唆する臨床経験を提案されているOber先生。
慢性腰痛に対して「画像上何も問題ない。なのでうちでは何もやることがない」と医療者が言ってしまうことが、いかに何も考えていないのかがよくわかりました。
「坐骨神経痛は坐骨神経痛だけが原因じゃないのか!」
「大腿筋膜張筋・腸脛靭帯がメカニカルな痛みを作るかもしれない!」
のちの時代に開発されるOberテストには大腿筋膜張筋の長さを測るだけでなく、腰痛や坐骨神経痛の改善に役立つ可能性があるのではないかと感じた瞬間でした。
Ober Frank R:The role of the Iliotibial band and fascia lata as a factor in the causation of low back disabilities and sciatica.the journal of bone and joint surgery18(1),105-110,1936
大腿筋膜張筋と腸脛靭帯
ここで基本的な事項をおさらいします。
大腿筋膜張筋(tensor fasciae latae m.:TFL)
起始:上前腸骨棘・中殿筋膜 停止:腸脛靭帯(脛骨粗面・脛骨外側顆Gerdy結節)
作用:股関節内旋・屈曲・外転 膝関節伸展
支配神経:上殿神経(L4~S1)
腸脛靭帯(Iliotibial band:ITB)
人体で最も長い靭帯で、広範な結合組織の大腿筋膜の構成要素として発生し肥厚する。
発生学的に通常の靭帯とは異なるためか靭帯なのに「ligament」ではなく、「band」となっている。
大腿筋膜張筋から腸脛靭帯を介して膝外側支持機構(外側膝蓋支帯と関係)となり下腿筋膜に放散する。
臨床的に大事なポイントは、TFL-ITBの真の作用の理解にあると思います。腸脛靭帯が通常の靭帯と異なる筋膜に近い組成であり、大腿筋膜張筋が緊張をコントロールし大腿筋群の筋張力を増強させるトリガーとなるといわれています。
一方何らかの理由で、TFL-ITBに機能的な拘縮(短縮)が生じれば、股関節や膝関節のROM制限だけでなく下肢筋の機能不全、筋膜の機能不全による障害を引き起こすことが考えられます。
また腸脛靭帯の起始部である骨盤への影響も考えられ、腸骨稜の左右差や機能的側彎を引き起こします。結果として骨関節に問題がない、非特異的な腰痛や坐骨神経痛様の下肢症状に関与するのです。腰下肢痛だけでなく、OAやスポーツ障害など下肢痛全般に役立つテストであると言えます。
OberテストとOberテスト変法
次にOberテストについても確認します。本法と変法の共通事項として、患者は側臥位で肩と骨盤は垂直に保ちます。下肢を股関節膝関節90度位に屈曲し、腰椎がフラットになるような姿勢(下記図1左)にします。
Oberテスト本法:検者の一方の手を大転子に置き骨盤帯を固定します。上側の脚を膝90°屈曲位に保持し、下肢を大きく外転させ股関節回旋中間位から股関節伸展し下肢を落下(内転)させて検査します。
内転10°が正常です。
Oberテスト変法:Oberテストは理学療法士Kendallが
「下肢が内転内旋位になるとこのテストの正確性が無くなるんじゃないか?」と懸念したことによってOberテスト変法が提案されています。Kendallが改変する理由としては、膝屈曲位では大腿直筋の影響が入りやすいことや膝内側への負担を減らす狙いがありました。
Oberテスト変法は膝関節伸展位で行います。現在はこの方法が一般的です。動画の方がわかりやすいので、youtubeを引用したものをご覧ください。
参考文献
ケンダル,マクレアリー,プロバンス:筋:機能とテスト-姿勢と痛み-.p56-362,西村書店,東京,2006
「Oberテスト変法」とてもスムーズに行っているように見えますが、実際には理学療法士との体格差や、機能障害の程度により膝伸展位を保つことが難しい場合があります。
「Oberテスト変法陽性」動画開始時に注目してください。TFL-ITBの短縮がある場合、骨盤を固定し膝伸展位のまま下肢を脱力させると下肢が股関節内外転中間位から落下しません。
このようになテストで陽性となった場合、まずTFL-ITBに短縮があることが確認できます。主訴が下肢痛なのであれば痛みを起こす原因部位にTFL-ITBの関与が考えられます。
非特異的腰下肢痛患者へのアプローチのコツ
ここでは腰下肢痛(腰痛と右大腿外側痛)をモデルにお話しいたします。Oberテストを前述した方法でしっかり評価し短縮がある場合は、そのままの体勢で下肢を外旋・伸展へ誘導しながら内転方向へ伸張しTFL-ITBのストレッチを行います。
しかし何も誘因なくTFL-ITBが短縮することは考えにくく、身体機能面の何らかの原因を考察するべきと考えています。臨床では以下の2点に注意します。
Check
①骨盤の固定を含む、体幹・頭部の代償の有無
②陰性だった場合にも評価をやめず、運動療法⇒Oberテストの再評価を繰り返す
①については、Oberテスト開始時の体幹・頭部の構えに注目します。この時に下側の肩甲骨を十分に下制させた側臥位にします。図1の左のようになっていれば問題はありません。しかし、慢性非特異的腰痛症の患者さんの多くが真ん中や右のような姿勢を取りやすいです。
以前お話しした、脊柱モーターコントロール評価での異常を示していて、姿勢筋緊張の偏り(脊柱低緊張)が認められます。
図1 様々なOberテスト開始肢位
姿勢筋緊張の偏りがある場合、Oberテストを行うときにかなり強く骨盤を把持して行う必要があります。なぜなら、TFL-ITBの起始部である骨盤ごと動いていまい、見かけ上の下肢内転(実際は骨盤の前額面上の回旋)を評価するため陽性だったとしても陰性と判断してしまうからです。
また、しっかり骨盤を把持して施行し陰性だったとしても、②のように潜在的な脊柱モーターコントロール障害があると運動療法によって身体機能改善が進む中で突然陽性化することもあります。
そのような潜在的なTFL-ITBの異常(おそらく筋過緊張)をあぶりだすために、先行して脊柱のモーターコントロールにアプローチします。代表的なエクササイズは図2・3のようなものです。
図2 パピーエクササイズによる腹圧改善・下部体幹のモーターコントロール改善
両肘で支えて胸郭を持ち上げるような運動です。青い領域に先行して適切な姿勢の筋緊張が感じられます。
図3 サイドブリッジによる腹圧改善・下部体幹のモーターコントロール改善
肘と膝で支えて骨盤を持ち上げるような運動です。青い領域に先行して適切な姿勢の筋緊張が感じられます。
図2・3の運動ともに先行して腹部の内圧が高まるような感覚が得られます。
Oberテストで再評価をすると検者の骨盤把持のための努力量が減ったり、陰性だったTFL-ITBの筋長が変化し急激に短縮したように感じられる場合があります。
その後改めてTFL-ITBのストレッチを行うと、腰下肢痛の患者さんが安楽感や「すっとする」というような自覚的変化を訴えられることを経験します。
まとめ
非特異的腰痛はエビデンスが高く強く推奨される運動療法が提示されていますが、患者個々に異なる多様性ある機能障害に対応する必要があります。整形外科的テスト、特に筋長テストと運動療法を組み合わせてアセスメントすると、既存の評価や運動のバリエーションが格段に増えます。
皆さんも原因不明と決めずに、いろんな痛みの視覚化を行い、コツを増やしていくとよいと思います。それではまた来週!Adios!(スペイン語でさようなら)
痛み系理学療法士あるある。下肢痛が未だに坐骨神経痛といわれているが、はるか昔の1937年にオーバーテストで有名なFranz Ober医師が筋筋膜の可能性について言及してるのよ。
— Hiroyuki Ebara@痛フェス開催 (@lopeslopeslopes) 2014年3月6日
PTOTが学ぶ筋肉まとめ【イラスト付き】
上肢
下肢
頸部
体幹
【目次】
第3回:一次性慢性疼痛をコントロールせよ①~慢性骨盤内疼痛症例~
第4回:骨盤内の痛みは3ステップで見極める~一次性慢性疼痛をコントロールせよ②~
第5回:脊柱モーターコントロール評価と会陰部痛~一次性慢性疼痛③~