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「 嚥下関連筋(舌、オトガイ舌骨筋)の加齢変化に、新知見 」 ― 嚥下関連筋の質も、加齢で低下する ―

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ポイント

  • ・嚥下関連筋の質も加齢で低下する可能性を示しました。 
  • ・嚥下関連筋の質の指標である筋内脂肪組織の関連因子を示しました。 
  • ・嚥下関連筋の筋内脂肪組織と口腔機能の関連を明らかにするために更なる研究が必要です。   

 

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授と山口浩平特任助教の研究グループは、嚥下関連筋において、筋肉の質の指標である筋内脂肪組織の加齢変化と、その関連因子を示しました。その研究成果は、国際科学誌 Experimental Gerontologyに、2021年 8月1日にオンライン版で発表されました。 

 

研究の背景

摂食嚥下障害は、噛んだり飲んだりする機能の障害で、誤嚥や窒息が主な症状です。重症になると誤嚥性肺炎、あるいは経口摂取自体が困難となり、胃瘻などの経管栄養を要するようになります。加齢や疾患など様々な要因で嚥下障害は起こりますが、舌やオトガイ舌骨筋という嚥下関連筋※1の衰えもその一因と考えられています。手足など四肢筋では、その量や質が身体機能低下や死亡など有害な事象と関連することがすでに明らかになっていますが、嚥下関連筋においてはその加齢変化も十分に検討されていませんでした。研究グループは以前、嚥下関連筋量の加齢変化と関連因子について報告しましたが、筋質に関しての報告はありませんでした。筋肉の質は筋内の脂肪組織で表され、超音波診断装置※2で評価可能です。そのため、本研究は嚥下障害でない健常成人を対象に、舌、オトガイ舌骨筋の筋内脂肪組織※3に着目し、その加齢変化と関連因子を明らかにすることを目的としました。 

 

研究成果の概要

本研究の対象者は、20-87歳の男女89名でした。超音波診断装置を用いて、舌、オトガイ舌骨筋の断面積、筋輝度を評価しました(図 1)。筋輝度※4は筋内の脂肪組織を示し、筋質の指標で、数字が小さいほど筋内脂肪組織が少ないことを示します(図 2)。筋内の脂肪組織は非収縮組織※5なので、その量が少ない方が筋肉の質は良いことになります。本研究では、65 歳未満の成人群と 65 歳以上の高齢者群で嚥下関連筋筋輝度を比較しました。また、嚥下関連筋筋輝度と口腔機能、体組成の相関関係、その関連因子を統計的に解析しました。口腔機能は舌圧、開口力、オーラルディアドコキネシス※6、体組成は体格指数、徐脂肪体重、体脂肪率、四肢骨格筋量指数(SMI)、体幹筋量指数(TMI)を計測しました。舌圧、開口力は舌、オトガイ舌骨筋の筋力であり、専用の測定器で測ります。オーラルディアドコキネシスは舌の器用さの指標で、5 秒間でできる限り早く「タ」、「カ」を発声してもらい 1 秒あたりの回数を算出して計測値とします。体組成は、生体電気インピーダンス法という簡易で精密な手法で計測しました。SMI は四肢骨格筋量を、TMIは体幹筋量を身長の二乗で除して算出しました。まず、舌、オトガイ舌骨筋いずれも高齢者群は成人群よりも筋輝度が高い、すなわち筋内脂肪組織が多いことがわかりました(図 3)。舌、オトガイ舌骨筋筋輝度と口腔機能、体組成間にはいずれも有意な相関関係は認めませんでした。さらに、より詳細な統計手法である多変量解析で、嚥下関連筋筋輝度の関連因子を検討した結果、舌、オトガイ舌骨筋いずれも筋輝度は年齢、当該筋断面積との関連が認められ、体組成と関連はありませんでした。

 

図1. 超音波診断装置による嚥下関連筋評価

 

図2. 超音波画像における筋輝度の違い

 


図3.  嚥下関連筋輝度の高齢者群と成人群の違い


 

研究成果の意義

本研究成果の意義は、下記の通りです。

①舌、オトガイ舌骨筋いずれも高齢者は若年者に比べて筋質が低下していた 本研究では、舌、オトガイ舌骨筋いずれも高齢者群が成人群よりも筋輝度が高値で、筋内脂肪組織が多い、すなわち筋質の低下を示しました。しかしながら、嚥下関連筋筋輝度は口腔機能と有意な相関関係にありませんでした。嚥下関連筋の質の低下がどのような障害と深く関連しうるかは今後の更なる研究が必要です。 

 

②舌、オトガイ舌骨筋筋輝度の関連因子はいずれも年齢と当該筋断面積であった 本研究では、嚥下関連筋筋輝度は年齢、当該筋断面積と関連しました。年齢が高いほど、また筋断面積が小さいほど、筋内に占める脂肪量の割合が高い傾向がわかりました。基本的に筋肉は加齢で萎縮するので、嚥下関連筋においても、筋萎縮は筋質の低下にもつながるのかもしれません。一方で、嚥下関連筋筋輝度と全身の骨格筋量や栄養状態の関連は認めませんでした。 

 

 

ちょっとしたむせの増加などといった変化は、嚥下関連筋の衰えも関係しているかもしれません。四肢の筋肉の機能を保つためには、食事や運動など日々の生活習慣が重要です。嚥下関連筋も加齢で衰えるので、生活習慣指導など早期の介入が軽微な嚥下機能低下を防ぐ上でも有用かもしれません。今後、更なる検討を進めたいと思います。 

 

【用語解説】 

  1. 嚥下関連筋・・・・・・・・舌やオトガイ舌骨筋など嚥下時に機能する筋肉の総称 
  2. 超音波診断装置・・・・・・・・超音波を用いた検査機器で、筋肉の評価に優れている 
  3. 筋内脂肪組織・・・・・・・・筋肉内の脂肪組織 
  4. 筋輝度・・・・・・・・超音波画像内の筋肉の明るさで、質の指標 
  5. 非収縮組織・・・・・・・・脂肪など機能時にも収縮しない組織 
  6. オーラルディアドコキネシス・・・・・・・・口腔機能の一つで、舌の動きの器用さの指標 

 

【論文情報】

 掲載誌:Experimental Gerontology 

 論文タイトル:Age-related changes in swallowing muscle intramuscular adipose tissue deposition and related factors

 

 【研究者プロフィール】 

 山口  浩平  (ヤマグチ  コウヘイ)Yamaguchi Kohei 

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 

 摂食嚥下リハビリテーション学分野  特任助教 

 ・研究領域 

 摂食嚥下リハビリテーション、口腔周囲筋と全身の関わり 

 

戸原  玄  (トハラ  ハルカ)Tohara Haruka 

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 

摂食嚥下リハビリテーション学分野  教授 

・研究領域 

摂食嚥下リハビリテーション、口腔周囲筋と全身の関わり

 

詳細▶︎https://www.tmd.ac.jp/press-release/20210817-3/

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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