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競泳スタート時に手足の関節に働く力のメカニズムを解明

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100分の1秒を争う競泳の短距離競技において、スタート局面は非常に重要です。競泳のスタートでは、後足の力が前に跳び出す速度に、前足が上に跳び出す速度に関わっていることが知られています。しかしながら、この力が、体のどのような動きによって獲得されているかは分かっておらず、効果的なスタートの練習方法なども確立されていません。そこで本研究では、両手両足が発揮する力を独立して計測できるスタート台と、3次元モーションキャプチャーシステムを併用して、選手が関節を曲げ伸ばしする力の大きさ(関節トルク)を算出し、スタート台から跳び出す際のバイオメカニクス的原理を解明しました。

その結果、後足の力には、股関節を伸ばす力が重要であり、次いで足関節、膝関節の順に貢献していることが明らかになりました。前足には台上動作の前半では股関節を伸ばそうとする力が非常に強く働きますが、スタート台から飛び出す直前には、膝関節と足関節を伸ばす力が大きくなることが分かりました。つまり、前足は、スタート動作の間に、重要となる関節が変化することになります。手でスタート台をつかむことで発揮していた力には肩関節が最も大きく関与しており、この力はスタート台を押すだけでなく、頭を下げた姿勢で水中に跳び込むための姿勢制御に利用されている可能性が示されました。

これらの結果を用いて、より高い跳び出し速度を獲得し、スタート台上から素早く跳び出すためのトレーニング方法を開発できる可能性があります。

 

研究代表者

筑波大学体育系

高木英樹 教授

東京女子体育大学体育学部体育学科

酒井紳 講師

 

研究の背景

競泳のスタート方法の一つであるキックスタートは、両手足でスタート台に対して力を発揮しており、先行研究によって、後足の水平方向の力発揮がスタート台から跳び出すときの水平速度に、前足の垂直方向の力発揮が垂直速度に貢献していることが明らかにされています。しかしながら、これらの力を発揮するために、水泳選手がどのように体(筋肉)を動かしているかは明らかになっておらず、スタート練習に活用できる情報は得られていませんでした。

 

研究内容と成果

そこで本研究では、右手足と前足、後足がスタート台に対して発揮する力をそれぞれ測定できるスタート台を作成し(図1左)、スタート動作を詳細に分析できるモーションキャプチャーシステム(図1右)と組み合わせて、選手の関節の動きから筋肉の動きを推定する関節トルクと呼ばれる数値を算出し、キックスタート時の両手足の動きを分析しました。

関節トルクは、関節を曲げ伸ばしする(屈曲・伸展)力を示す尺度です。下肢に関しては、関節を曲げようとする動きが屈曲、伸ばそうとする動きが伸展であり、一方、肩関節では脇を閉じようとする動きが伸展、広げようとする動きが屈曲となります(図2)。

関節トルクの数値から、後足には股関節を伸展させる力が影響しており、次いで足関節、膝関節の順に貢献していることが分かりました。前足ではスタートシグナル時点から大きな力が発揮されており、離台までの間に一度減少した後に、再び大きな力が発揮されています。前足には、台上動作の前半では股関節を伸ばそうとする力が非常に強く働きますが、スタート台から飛び出す直前にはその力は弱まり、膝関節と足関節を伸ばそうとする働きが大きくなります。つまり、前足に関しては、スタート動作の間に、重要な働きをする関節が変化しています。

また、手でスタート台をつかむことで発揮していた力は、ほとんどが肩関節の働きに由来していました。これは、スタート台を上方向に持ち上げる力ではなく、頭を下げた姿勢で水中に跳び込むための姿勢制御に利用されている可能性が示されました。

これらのことから、キックスタートの動作においては、まず前足の股関節を広げようとする大きな力が発揮され、その後、後足の力が強くなり、この力の増加には、後足の股関節>足関節>膝関節の順で貢献していることが分かりました。同時に、両手足の力も増大し、これには肩関節の働きが関わっています。スタート台からの離台に向け、再び前足の力が大きくなる際には、膝関節と足関節の働きが影響します。

このように、水泳選手はスタート台上で巧みに四肢関節の働きを利用しながら、効率よくスタート台に対して力を発揮していることが明らかとなりました。

 

今後の展開

今後さらに、下肢の股関節の働きや、スタート台から跳び出す直前の前足の膝関節や足関節の働きと跳び出し速度との関係を調査し、跳び出し速度の向上に関与する関節の動きを明らかにする予定です。また、スタートの姿勢やスタート方法による関節トルクの変化を調べることで、スタート方法ごとの特徴がより明確になる可能性があります。

 

参考図

図1本研究に用いた、両手両足が発揮する力を独立して計測できるスタート台(左)と、スタート台上の動作を3次元的に分析するためのモーションキャプチャーシステム(右)

 

図2スタートシグナル時の静止状態にあるときの各関節で発揮されるトルク

 

図3スタートシグナル時(0%)からスタート台離台(100%)までのスイマーの動作模式図と、両手両足が発揮する力ベクトル(緑:後足の力、赤:前足の力、⻘:右手の力、紫:左手の力)。線が⻑いほど大きな力を出していることを示す。

 

研究資金

本研究は、科学研究費基盤研究(A)「体工連携によるスポーツ科学イノベーション−革新的な用具・コーチング法の開発−」の助成を得て実施しました。

 

掲載論文

【題名】

Kinetics of four limb joints during kick-start motion in competitive swimming

(競泳のキックスタートにおける四肢の動力学的分析)

【著者名】

Shin Sakai, Sekiya Koike, Tsuyoshi Takeda, Yasuo Sengoku, Miwako Homma and Hideki Takagi

【掲載誌】

Sports Biomechanics

【掲載日】

2021年8月23日

【DOI】

10.1080/14763141.2021.1963465

 

詳細▶︎https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20210831140000.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

競泳スタート時に手足の関節に働く力のメカニズムを解明

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