大腿骨頸部骨折の発生原因として骨に関連しない危険因子の中でも最も発生頻度が高い転倒という報告があります。日本整形外科学会関連病院における大腿骨頸部骨折患者の集計によると、1998年から2000年までの3年間で35歳以上の新たな大腿骨頸部骨折で合計110,747件発生したと報告しています。その74%の原因が転倒でした1)。また、その転倒の要因を原因と結果に分けると以下のようになります。
転倒予防のための管理
転倒の管理は複雑になる場合があります。たとえば、投薬の見直し、運動プログラム、ビタミンDの補給、自宅での評価などの介入を組み合わせることが推奨されます。臨床診療ガイドライン (CPG) では、すべての高齢者が少なくとも年に 1 回、転倒リスクの検査を受ける必要があると明確に定められています。バランス障害、歩行および可動性の制限のスクリーニングは、転倒リスクのスクリーニングに不可欠な部分です。転倒リスクのスクリーニングは、多因子リスク評価を促す場合があり、その一部は理学療法士が他の医療提供者と相談して実施します2)。
転倒予防のための身体機能検査
The Balance Outcome Measure for Elder Rehabilitation(=BOOMER)3)
高齢者のバランスと機能的な動作を評価するための測定ツールです。このアセスメントツールは、理学療法や作業療法の中でよく用いられ、高齢者がリハビリテーションの結果をどれくらいよく達成しているかを評価するのに役立ちます。BOOMERは以下の4つのテストから構成されています。
☑︎Timed Up & Go Test(TUG):患者が3メートルを歩くのにかかる時間を計測します。これは歩行速度と機能的な動作能力を評価するのに役立ちます。
☑︎ステップテスト:患片足を7.5cmの段差の上に乗せて地面に戻す動作を繰り返します。
☑︎立位テスト:患者が両足をそろえて閉眼し、どれくらいの時間立つことができるかを計測します。
☑︎フンクショナル・リーチ・テスト(FRT):患者が前方にどれくらい遠くに手を伸ばせるかを計測します。
これらのテストは、一緒に使用されて全体的なバランスと機能的な動作能力を評価します。そして、それぞれのテスト結果は加算され、総合的なスコアを形成します。このスコアは、高齢者がリハビリテーションプログラムにどれだけ効果的に反応しているかを評価するのに使用されます。
採点
・スコアの範囲は0~16
・各アイテム (4 アイテム) は0~4のスコアを獲得できます。
・総合スコアは、各項目のスコアを合計して作成されます。
・スケールの範囲は 0 (テストを実行できない) から 4 (優れた) で、最大スコアは16です。
☑︎TUG(秒):不可能/0点、30秒以上/1点、29〜20秒/2点、19〜10秒/3点、<10秒/4点
☑︎ステップテスト(平均歩数):0/0点、0〜5歩/1点、5〜8歩/2点、8〜12歩/3点、>12歩/4点
☑︎立位テスト(秒):不可能/0点、0〜30秒/1点、30〜60秒/2点、60〜<90秒/3点、90秒/4点
☑︎FRT(cm):0/0点、1〜15cm/1点、16〜20cm/2点、21〜30cm/3点、>30cm/4点
有効性と妥当性
FIMおよびElderly Mobility Scaleとの相関があります。これは、高齢者リハビリテーション施設(n=134)の入院時(ρ=.91; P <.01)および退院時(ρ=.68; P <.01)の両方で、 Berg Balance Scale(BBS)と高い相関関係を示しています。4)
転倒予防に有効な手段
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3 版)においてクリニカルクエスチョン1で「在宅医療における運動療法が転倒・骨折予防に有効か否か」の調査が掲載され「エビデンスの強さB(効果の推定値に中程度の確信がある)」とされています。その中で紹介されている介入研究では「falls management exercise programme(1日15分程度の運動プログラム)」において転倒を抑制していました(RR0.74(95%CI0.55〜0.99))。
Sherringtonによるシステマチックレビュー5)では、
・バランストレーニングは非常に挑戦的である必要があり、個人に合わせて段階的に行う必要があります。
・運動は少なくとも週に2回、最低6か月間続ける必要があります。
・ウォーキングは、高強度/高用量プログラムに加えてのみ処方されるべきです
・亜急性期病院の入院環境にいる人々、特に姿勢の不安定さが原因で転倒した場合、転倒のリスクが高い人々は多要素介入から恩恵を受ける可能性があります。滞在期間中、少なくとも週に3回、45分間のグループエクササイズセッションに参加できる必要がありました。
参考文献
1)Anonymous: Nationwide survey of hip fractures in Japan. J Orthop Sci, 2004, 9: 1-5.
2)Avin KG, Hanke TA, Kirk-Sanchez N, McDonough CM, Shubert TE, Hardage J, Hartley G. Management of falls in community-dwelling older adults: clinical guidance statement from the Academy of Geriatric Physical Therapy of the American Physical Therapy Association. Physical therapy. 2015 Jun 1;95(6):815-
3)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18047876/
4)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21187212/
5)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19093923/
大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3 版▶︎https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001251/4/femoral_necktrochanteric_fracture.pdf
THA術後の理学療法3つの課題
前回TKA術後理学療法の講習会は大人気となり、アンケートでも特に要望の多かったTHA術後理学療法についてお話しいただきます。宮嶋先生は、全国的にみても非常に多くのTHAを行っている病院に勤務した経験があり、これまで400例以上のTHA術後患者さんを診てきました。THA術後の理学療法で重要となってくるのが、
(1)脱臼に対する対応
(2)脱臼させずに屈曲可動域を向上させる事
(3)跛行に対する治療
だと思います。今回は、その3つについて徹底的に深く且つわかりやすく解説したいと思います。今回のセミナーに参加して頂くと、
・脱臼についての不安が軽減し、自信を持ってADL指導が出来る
・脱臼におびえずに屈曲可動域を向上させられる
・しっかりとプロトコール通りに退院させることができ、医師や上司に信頼される
・「歩き方が綺麗になった」と患者さんに喜んでもらえる
といったことが出来るとようになります。
*1週間限定のアーカイブ配信あり。
プログラム
(1)THAの脱臼について徹底解説
・THAはそもそも何故脱臼するのか?
・脱臼しやすいTHAの条件(侵入方法、カップの前開き、外開き、骨頭径)
・知らないと危ない骨盤と大腿骨前捻角の影響
・脱臼予防方法について
(2)THA後屈曲可動域の改善方法
・脱臼しない股関節屈曲可動域訓練
・股関節屈曲の3大制限因子
・人工関節特有の曲げ方とは?
(3)THA後に多い跛行への評価・治療
・反り腰歩行への評価・治療
・デュシェンヌ歩行への評価・治療
・疼痛への恐怖が強い人への対応
講師:
Confidence代表
宮嶋 佑(理学療法士)
概要
【日時】 7月30日(日) AM10:00~12:00
【参加費】3,300円
【定員】50名
【参加方法】ZOOM(オンライン会議室)にて行います。お申し込みの方へ、後日専用の視聴ページをご案内致します。