肩峰下インピンジメント症候群
Painful Arc Sign: 患者は肩を側方に挙げ、180度まで回転させます。痛みが90-120°の間で現れ、それを超えると痛みが減少する場合、肩峰下滑液包炎や肩峰下インピンジメント症候群の可能性があります。
Neer Test: 患者は肩を内旋させ、検査者が肘を伸ばしたまま肩を前方に挙げます。この動作で痛みが生じる場合、肩峰下インピンジメント症候群の可能性があります。
Hawkins Test: 患者の肩を90°の屈曲と前方挙上に保ち、肘を90°屈曲させます。その後、検査者が肩を内旋させます。この動作で痛みが生じる場合、肩峰下インピンジメント症候群の可能性があります。
Yocum’s Test: 患者は健側の肩に手を置き、病側の肩を内旋させて肘を屈曲します。その後、患者は肩を挙げます。この動作で痛みが生じる場合、肩関節の異常の可能性があります。
肩腱板断裂
棘上筋:Supraspinatus muscle(=SSP)
Drop Arm Sign: 患者に肩を側方に挙げ、ゆっくりと下げるように指示します。患者が肩を制御して下げることができない場合、回旋筋腱板の損傷の可能性があります。
Empty Can Test: 患者は肩を前方に90°挙げ、前腕を内旋させます("空き缶をこぼす"動作)。検査者が抵抗を与えながら、患者に肩を上方に押し上げるように指示します。この動作で痛みが生じる場合、棘上筋の異常の可能性があります。
Full Can Test: 患者は肩を前方に90°挙げ、前腕を外旋させます("満杯の缶を持つ"動作)。検査者が抵抗を与えながら、患者に肩を上方に押し上げるように指示します。この動作で痛みが生じる場合、棘上筋の異常の可能性があります。
棘上筋及び棘下筋:Infraspinatus muscle(=ISP)
External Rotation Lag Sign: 患者の肩を90°の屈曲と最大外旋に保ちます。患者が自力でこの位置を保つことができない場合、棘下筋または小円筋の損傷の可能性があります。
肩甲下筋:subscapularis muscle(=SbM)
Internal Rotation Lag Sign: 患者は背中に手を置き、肩を内旋させます。患者が自力でこの位置を保つことができない場合、肩甲下筋の損傷の可能性があります。
Lift-Off Test (Gerber’s Test): 患者は背中に手を置き、肩を内旋させます。その後、患者に手を背中から離すように指示します。患者がこれを行うことができない場合、肩甲下筋の損傷の可能性があります。
Belly Press Test: 患者は腹部に手を置き、肩を内旋させます。その後、患者に手を腹部から離すように指示します。患者がこれを行うことができない場合、肩甲下筋の損傷の可能性があります。
Belly-Off Test: これはBelly Press Testの変形で、患者が手を腹部から離すことができるかどうかを評価します。
Bear Hug Test: 患者は健側の肩に手を置き、病側の肩を内旋させて肘を屈曲します。その後、患者に手を胸から離すように指示します。患者がこれを行うことができない場合、肩甲下筋の損傷の可能性があります。
棘下筋
Infraspinatus Test: 患者の肩を90°の屈曲と内旋に保ちます。検査者が抵抗を与えながら、患者に肩を外旋させるように指示します。この動作で痛みが生じる場合、棘下筋の異常の可能性があります。
棘下筋及び小円筋:teres minor muscle(=tm)
Hornblower’s Sign: 患者の肩を90°の屈曲と最大外旋に保ちます。患者が自力でこの位置を保つことができない場合、棘下筋または小円筋の損傷の可能性があります。
非外傷性肩関節不安定症
Sulcus Sign: 患者の腕を垂直に下げ、検査者が肘を下に引きます。肩と上腕骨の間にくぼみ(sulcus)が現れる場合、肩関節の不安定性や下方亜脱臼の可能性があります。
前方不安感テスト(Anterior Apprehension Test): 患者は肩を90°の屈曲と外旋に保ちます。検査者が肩をさらに外旋させると、患者が不安感を示す場合、肩関節の前方不安定性の可能性があります。
後方不安定感テスト(Posterior Apprehension Test): 患者は肩を90°の屈曲と内旋に保ちます。検査者が肩をさらに内旋させ、軽く後方に圧力をかけると、患者が不安感を示す場合、肩関節の後方不安定性の可能性があります。
Load and Shift Test: 検査者は一方の手で患者の肩甲骨を安定させ、もう一方の手で患者の上腕骨を握ります。上腕骨を肩関節窩に「ロード」または圧迫し、その後、上腕骨を前方または後方に「シフト」または移動させます。過度の移動や痛みは肩関節の不安定性を示します。
Jobe's Relocation Test: 患者は肩を90°の屈曲と最大外旋に保ちます。検査者が肩を後方に圧迫します。痛みの減少は肩関節の前方不安定性を示します。
Posterior Drawer Test (Norwood Stress Test): 患者は肩を90°の屈曲と内旋に保ちます。検査者が肩を後方に圧迫します。過度の移動や痛みは肩関節の後方不安定性を示します。
上腕二頭筋長頭腱損傷
Yergason Test: 患者の肘を90°屈曲し、前腕を内旋させます。患者に前腕を外旋させるように指示しながら、検査者は抵抗を与えます。この動作で痛みが生じる場合、長頭二頭筋腱の異常の可能性があります。
Speed Test: 患者の肘を伸ばし、前腕を外旋させ、手を掌向きにします。検査者が抵抗を与えながら、患者に肩を前方に挙げるように指示します。この動作で痛みが生じる場合、長頭二頭筋腱の異常の可能性があります。
外傷性肩鎖関節脱臼
Piano Key Sign: 患者の両肩を後方から観察します。肩甲骨が鍵盤のように上下に動く場合、肩甲骨下神経麻痺や肩甲骨下筋の機能不全の可能性があります。
Paxino’s Test: 患者は肩を90°の屈曲と内旋に保ちます。検査者が肩を後方に圧迫します。痛みの増加は肩関節の後方不安定性を示します。
上方関節唇損傷(Superior Labrum Anterior and Posterior lesion:SLAP 損傷)
O’Brien Test: 患者の肩を前方に90°挙げ、肘を伸ばし、前腕を内旋させます。検査者が抵抗を与えながら、患者に肩を前方に押し下げるように指示します。この動作で痛みが生じる場合、肩関節の異常(特に肩峰下インピンジメント症候群や二頭筋腱の異常)の可能性があります。
Crank Test: 患者の肩を90°の屈曲に保ちます。検査者が肘を握り、肩を内旋と外旋に動かします。この動作で痛みやクリック音が生じる場合、肩関節の滑液包や軟骨の損傷の可能性があります。
Biceps Load I and Biceps Load II Tests: これらのテストは肩の前方不安定性を評価します。Biceps Load Iでは、患者の肩を90°の屈曲と最大外旋に保ちます。検査者が肘を屈曲させ、患者に抵抗を与えて肘を伸ばすように指示します。Biceps Load IIでは、患者の肩を120°の屈曲と最大外旋に保ち、同様の手順を行います。どちらのテストでも、痛みの増加は肩関節の前方不安定性を示します。
その他
SPADI(Shoulder Pain and Disability Index)
肩の痛みと機能障害を評価するための患者報告アウトカム測定ツールです。SPADIは、肩の痛みや障害の程度を評価するために設計されており、特に肩関節の疾患や障害を持つ患者の治療効果を追跡するのに役立ちます。以下はSPADIの主な特徴と内容についての概要です:
1,セクション: SPADIは2つのセクションから構成されています。
◯痛みセクション: 5つの質問が含まれており、特定の活動中の痛みの程度を評価します。
◯機能障害セクション: 8つの質問が含まれており、日常生活の活動における肩の機能障害の程度を評価します。
2,評価スケール: 各質問は0(無痛/障害なし)から10(最も痛い/最も機能が障害されている)のヴィジュアルアナログスケール(VAS)で評価されます。
3,スコアリング: SPADIの合計スコアは0から100の範囲で、高いスコアが高い痛みおよび/または機能障害を示します。各セクションのスコアは、回答された質問の平均として計算され、その後、全体の合計スコアを得るために合計されます。
4,利用目的: SPADIは、治療の前後での変化を評価するためや、異なる治療法や介入の効果を比較するための研究で使用されます。
5,利点: SPADIは簡単に使用でき、患者自身が自分の症状と機能の変化を評価するのに役立ちます。また、臨床的および研究の設定の両方での妥当性と信頼性が確立されています。
SPADIは、肩の痛みや障害の評価に関する情報を提供するための有用なツールとして、多くの臨床家や研究者によって使用されています。
DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand)
上肢の障害や機能制限を評価するための患者報告アウトカム測定ツールです。DASHは、上肢の疾患や障害に関連する症状や機能の変化を評価するために設計されています。
QuickDASHは、DASHの短縮版であり、上肢の障害を迅速に評価するためのツールです。
以下は、DASHとQuickDASHの主な特徴と内容についての概要です:
1,DASH:
◯項目数: 30の質問が含まれています。
◯内容: 上肢の物理的機能、症状、社会的機能、仕事、睡眠、自己像などの領域をカバーしています。
◯評価スケール: 各質問は5点スケールで評価され、1(最も軽度)から5(最も重度)までの範囲で答えられます。
2,QuickDASH:
◯項目数: 11の質問が含まれています。
◯内容: DASHの主要な領域をカバーしており、上肢の物理的機能と症状に関連する質問が中心となっています。
◯評価スケール: 同様に、各質問は5点スケールで評価されます。
3,スコアリング:
DASHおよびQuickDASHのスコアは、回答された質問の平均を取り、その結果をスケール化して100点満点のスコアに変換します。スコアが高いほど、障害や機能制限が重度であることを示します。
4,利用目的: DASHとQuickDASHは、治療の前後での変化を評価するため、異なる治療法や介入の効果を比較するための研究、または上肢の疾患や障害の影響を評価するために使用されます。
5,利点: DASHとQuickDASHは、上肢の疾患や障害に関する情報を提供するための有用なツールとして、多くの臨床家や研究者によって使用されています。特にQuickDASHは、迅速な評価が必要な場面での使用に適しています。
これらのツールは、上肢の疾患や障害の評価に関する情報を提供し、治療の効果や介入の成果を追跡するのに役立ちます。
【目次】
参考文献
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