研究の概要
兵庫県立はりま姫路総合医療センター(はり姫)と兵庫県立大学先端医療工学研究所との共同研究グループは、待機心臓手術を施行した 65 歳以上の高齢者のうち、術前にフレイル評価を行った方において、フレイル注1およびプレフレイル(フレイルの前段階)が、心臓手術後のリハビリ経過を遅らせ自宅への退院を減少させること、術後3年間の死亡や合併症を増加させることを明らかにしました。この結果から、心臓手術を要するフレイル症例の予後改善策として、術前リハビリテーションが期待されます。
研究の背景
わが国ではフレイルを有する高齢者が年々増加しており、2020 年のフレイル有病率は 8.7%と報告されています。近年、手術手技やデバイスの改良および周術期管理の進歩により,以前には対象とならなかった高齢者のハイリスク症例に対する心臓手術の適応が拡大しています。2010 年代に入り、フレイルは心臓手術の術前リスク評価における重要な予後予測因子として注目され、さらに主要脳心血管イベント(major adverse cardiac and cerebrovascular events: MACCE)との間に強い正の相関を認めたと報告されています。しかしながら、フレイルと比較して、プレフレイルが心臓手術後のリハビリ経過や中期予後に及ぼす影響を調査した研究報告は少なく、十分に検討されていないのが現状で、プレフレイルについてほとんど知見がありませんでした。
研究成果の内容
待機心臓手術を受けた 261 名(年齢中央値 73 歳、女性 30%) の患者様を対象にデータ分析しました。日本版フレイル基準注 2により、フレイル群 86 名、プレフレイル群 131 名、健常群 44 名に分類し、手術後のリハビリ経過や中期予後との関連を解析しました。その結果、歩行能力の回復、退院時の転帰、中期(3 年間)の生存率および MACCE と強く関連していました。海外の研究結果から術前のリハビリテーションが心臓手術後のリハビリ経過や中期予後を改善すると報告されていますが、国内ではまだ実施されていません。
今後の展望
本研究は、フレイルとプレフレイルが心臓手術後のリハビリ経過や中期予後に及ぼす影響を解明した研究であり、次の段階として、術前リハビリテーションの実施が有用であるか解明することが必要です。現在、術前リハビリテーションは保険適応外ですが、本研究プロジェクトでは、フレイルが心臓手術にもたらす影響について国内のエビデンスを蓄積することを目的として、2024 年度から 7 年間の術前リハビリを導入した前向き介入研究を計画しています。
研究成果の公表
本研究の成果は、2024 年 3 月 4 日に国際学術雑誌「Surgery Today」にオンライン(open access)掲載されました。
DOI: 10.1007/s00595-024-02807-z
タイトル: Impact of frailty and prefrailty on the mid-term outcomes and rehabilitation course after cardiac surgery
著者: Tasuku Honda, Hirohisa Murakami, Hiroshi Tanaka, Yoshikatsu Nomura,
Toshihito Sakamoto & Naomi Yagi
本多 祐*1,2, 村上 博久*2, 田中 裕史*2, 野村 佳克*2, 坂本 敏仁*2, 八木 直美*3
*1兵庫県立はりま姫路総合医療センターリハビリテーション科
*2兵庫県立はりま姫路総合医療センター心臓血管外科
*3兵庫県立大学先端医療工学研究所
用語説明
注 1 フレイル:加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態を表す frailty の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語であり、要介護状態に至る前段階として位置づけられる
注2 日本版フレイル基準:Fried らが提唱した Cardiovascular Health Study 基準(CHS 基準)を日本人の高齢者に合った指標に修正したフレイルの評価基準
詳細︎▶︎https://www.u-hyogo.ac.jp/news/pressrelease/fe701c13d1bf4c607cb2e3bb628bd2352cc76993.html
注）プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。
