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“幻”の制度 訪問リハビリステーションの行方──構想から約25年

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目次

はじめに

訪問リハビリテーションの普及と質の向上を目的として、「訪問リハビリステーション(構想当時は訪問リハビリテーションステーションと呼ばれていた)」の制度化が検討されてきたことをご存じだろうか。この構想は約25年前に遡り、PTOTST協会の3団体によって一貫して提言されてきた。しかし、現在に至るまで全国的な制度としては実現していない。本稿では、その背景と経緯、そして制度化が見送られた要因について、関係資料と制度改定の流れから検証する。

歴史的経緯

 
 

2000年頃:構想の始まり

2000(平成12)年度の介護保険法施行を前に、日本作業療法士協会はリハビリ関連職種の立場から、地域リハビリテーション支援センターや訪問リハビリテーションステーションの創設を提案していた[1]。この時期は、作業療法士が介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格取得に積極的に取り組んでいた時期とも重なり、地域包括ケアシステムにおける専門職の役割拡大を見据えた動きだった。

 
 
 

2006年:三団体による制度化要望

2006(平成18)年度の診療報酬・介護報酬同時改定に際し、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会の3団体は共同で訪問リハビリステーションの制度化を要望した[2]。この提案は、病院や施設に属さない独立した事業所形態での訪問リハビリテーション提供を認めることで、より柔軟で多様なサービス提供体制の構築を目指すものだった。

 
 
 

2012年度改定:実現への最後の本格的要望

2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定においても、3団体による要望活動は継続された。日本理学療法士協会の広報誌No.14 特集「訪問リハビリステーション」には、「創設の可能性を感じていましたが、残念ながら実現には至りませんでした」と記載されており[3]、これ以降、公の文書において「訪問リハステーション制度化」に関する明確な要望や方針表明はほぼ見られなくなる。

 

三団体による共同要望書

共同利用型訪問リハビリステーションの設置について(要望)

2011年8月、厚生労働大臣宛てに提出された「共同利用型訪問リハビリステーションの設置について(要望)」。三団体の会長名で連名署名されている。

 

復興特区での限定的実現

一方で、2011年の東日本大震災を受けて制定された「復興特別区域法(復興特区法)」に基づき、被災地においては例外的に「訪問リハビリテーションステーション」の設置が認められた[4]。この特例措置により、2012年5月に岩手県陸前高田市、同年11月に福島県南相馬市、2013年4月に岩手県宮古市に拠点を置く3施設が開設された。これらは一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団(理事長:半田一登)によって運営されている。

厚生労働省の調査では、2015年時点で特例による施設は10か所存在(その多くは小規模なサテライト事業所等も含む数字)したとされるが、現在まで継続的に活動しているのは3施設程度とみられる。これらの特例措置は「2020年3月まで宮古市・山田町、気仙沼市において、また2021年3月まで南相馬市において期限延長が認められている」とされており[5]、現在の運営状況については一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団に確認中である。

*一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団:2012年10月に当時の公益社団法人日本理学療法士協会、一般社団法人日本作業療法士協会、一般社団法人日本言語聴覚士協会の共同出資により設立。

診療報酬改定と代替施策の展開

制度化の議論が表立って行われなくなる一方で、2024年度の診療報酬改定では、訪問看護ステーションが算定できる訪問看護Ⅰ5(リハ)が見直され、実質的な減算となった[6]。この改定によって、訪問リハビリテーションの質や量が低下する懸念が一部の専門家から指摘されている。

同時に、2024年6月1日から施行された「みなし訪問リハビリテーション」制度も注目を集めている。これは、介護老人保健施設(老健)や介護医療院に開設許可が出た場合に、訪問リハビリテーション事業所の指定があったものとみなされる制度で、以下の特徴がある。

 ●通常必要な指定申請を行わずにサービス提供が可能

 ●すでに指定を受けている事業所は、有効期限の翌日から自動的に「指定されたもの」とみなされる

 ●介護保険法に基づく「みなし指定」の制度として運用される

これらの制度変更は、結果として訪問リハビリテーションの提供体制に新たな選択肢をもたらしており、独立型の訪問リハビリテーションステーション制度とは異なる方向性での支援体制整備が進んでいることがうかがえる。

今後の展望

過去に繰り返し提案されながら全国的な制度化に至らなかった訪問リハステーション。特例的に被災地で導入されたこのモデルが今後全国展開される可能性は残されているのか。特区運用下の施設の実績評価と、代替的に進められている制度改革の成果が、この問いに対する答えを示すことになるだろう。

まとめ

2000年から約25年にわたり提唱されてきた訪問リハステーションの制度化構想。全国的な実現には至らず、特例措置による限定的な実施と代替制度の整備という形で現在に至っている。地域包括ケアシステムの深化が進む中、訪問リハビリテーションの提供体制のあり方は今後も重要な政策課題であり続けるだろう。

“幻”の制度 訪問リハビリステーションの行方──構想から約25年

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