訪問リハで1355万円を不正請求か 岐阜・下呂市が理学療法士を停職6か月

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岐阜県下呂市が、訪問リハの医師の指示書を捏造していた理学療法士を停職6か月に。自主調査で1355万円の不正請求とみられます。ただし訪問リハに「指示書」という法定様式はありません。何が算定の要件なのかを制度から整理します。

岐阜県下呂市は8月21日、市の訪問リハビリテーション事業で医師の指示書がないままサービスを提供し、過去の指示書を複写して捏造していたとして、小坂診療所の理学療法士の男性職員を停職6か月の懲戒処分にしたと公表しました。市は、これらの行為の結果、期間中の利用者32人のうち30人分の介護報酬と利用者自己負担分が不正な請求だったと考えられるとしています。自主調査による総額は1355万2322円で、現在も指導監査中です。

 

ここで気をつけたいのは、訪問リハビリテーションには、訪問看護のような「指示を文書で受ける」義務規定がないという点です。介護保険でも医療保険でも同じです。それでも算定できなくなるのはなぜか。制度の建て付けから整理します。

令和3年10月から令和8年6月まで、32人中30人分が不正請求とみられる

下呂市が公表したのは、地方公務員法第29条に基づく懲戒処分です。処分を受けたのは健康医療部小坂診療所の主任技術主査(理学療法士)の57歳男性で、発令は8月20日付。処分事由として市は「法令違反、不適正処理事務、事務処理懈怠、公文書偽造」を挙げています。処分者は同じ20日付で退職しました。

市の公表資料によると、この職員は令和3年10月から令和8年6月までの間、小坂介護医療院で実施した訪問リハビリテーション事業において、サービスの実施の際に必要な医師の指示書がないままリハビリサービスを提供していました。指導権限を有する岐阜県が行う運営指導での指摘を免れる目的で、過去に医師が作成したリハビリ指示書を複写し、指示書の捏造を行っていたとしています。訪問リハビリサービスを行うために必要な契約書やリハビリテーション計画などの各種書類も、不備のまま放置されていました。

この結果、期間中に訪問リハを利用した全対象者32人のうち30人に関する介護報酬および利用者自己負担分が不正な請求であったと考えられる、というのが市の説明です。金額は自主調査による総額で1355万2322円。公表資料は「現在指導監査中」としており、監査の主体は明記されていません。市は、その結果を踏まえて介護報酬などに加え、不正請求にかかる加算分も返還する見込みだとしています。

管理監督責任も問われました。健康医療部長1名、小坂診療所の診療所長1名、同管理課長1名、過年度の管理課長2名の計5名について、指導監督不適正として訓告を措置しています。訓告は、地方公務員法第29条が定める懲戒処分(戒告・減給・停職・免職)には含まれない監督上の措置です。

なお市の公表資料は、令和3年10月からの全期間を「小坂介護医療院で実施した訪問リハビリテーション事業」と記載しています。小坂介護医療院は、小坂診療所が持つ19床のうち療養病床14床が国の制度改正に伴って転換し、令和6年4月1日に開設された施設です。それ以前の実施主体について、公表資料に説明はありません。

訪問リハビリテーションに「指示書」という法定様式はない

市の公表資料は一貫して「指示書」という語を使っています。ただし介護保険の訪問リハビリテーションについて、医師の指示を文書で受けることを義務づけた規定は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)にはありません。同省令の条文を通して「指示書」という語が現れる箇所もありません。

医師の指示について省令が定めているのは、第80条第1号の次の一文です。

「指定訪問リハビリテーションの提供に当たっては、医師の指示及び次条第一項に規定する訪問リハビリテーション計画に基づき、利用者の心身機能の維持回復を図り、日常生活の自立に資するよう、妥当適切に行う」

求められているのは「医師の指示」であって、その指示を記した特定の書式ではありません。計画の作成についても、第81条第1項が「当該医師の診療に基づき」と定めており、事業所の医師の診療が前提に置かれています。

報酬算定の取扱いを示した留意事項通知(老企第36号)は、これをもう一段具体化しています。訪問リハビリテーション費の算定の基準として、まず「計画的な医学的管理を行っている当該指定訪問リハビリテーション事業所の医師の指示の下で実施するとともに、当該医師の診療の日から3月以内に行われた場合に算定する」と定めます。

続けて、事業所の医師は理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に対し、リハビリテーションの目的に加えて、開始前または実施中の留意事項、やむを得ず中止する際の基準、利用者に対する負荷等のうち、いずれか1つ以上の指示を行うこと。そして、指示を行った医師または指示を受けた療法士が、その指示に基づき行った内容を明確に記録すること。この2点が並んでいます。

つまり訪問リハの原則ルートで、医師の指示に関して求められているのは、(1)事業所の医師による診療、(2)その医師からの具体的な指示、(3)指示に基づき行った内容の記録、という中身です。記録の書式は指定されていません。実務上「訪問リハビリテーション指示書」という様式を用いる事業所もありますが、それは中身を満たしていることを示すための手段であって、様式そのものが法令で義務づけられているわけではないのです。

※訪問リハビリテーション計画については、老企第36号や関連通知で厚生労働省の様式例が示されており、診療記録や実施記録とあわせて保存の対象になります。「指示書」という独立した法定様式がない、という趣旨です。

「文書で受けなければならない」のは訪問看護

混同されやすいのが訪問看護です。同じ省令の第69条第2項は、指定訪問看護事業者について「指定訪問看護の提供の開始に際し、主治の医師による指示を文書で受けなければならない」と明記しています。これが、介護保険の訪問看護で指示書が交わされる根拠です。同条第4項では、事業所が指定訪問看護を担当する医療機関である場合に限り、この文書による指示を診療録その他の診療に関する記録への記載で代えることができる、と例外を置いています。

一方の訪問リハビリテーションは、事業所そのものが病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院のいずれかであり(同省令第77条第1項)、指示を出すのは同じ事業所の医師です。

例外も用意されています。別の医療機関の医師による計画的な医学的管理を受けている利用者について、事業所の医師がやむを得ず診療できない場合には、別の医療機関の医師から情報提供を受け、その情報をもとに事業所の医師と療法士が訪問リハビリテーション計画を作成し、事業所の医師の指示に基づいて実施することができます。この場合は基本報酬から50単位が減算されます(診療未実施減算)。ただしこの経路でも、指示を出すのは当該事業所の医師です。外部の医師から指示文書の交付を受ける、という建て付けにはなっていません。

※診療未実施減算を用いる場合、事業所の従業者は別の医療機関の医師の「適切な研修の修了等」について確認のうえ、リハビリテーション計画書に記載する必要があります。事業所の医師から当該医師へ、少なくとも3か月に1回は訪問リハビリテーション計画等を情報提供することも求められます。医療機関に入院してリハビリテーションの提供を受け、その医療機関から情報提供が行われている利用者については、退院後1か月以内に提供される訪問リハビリテーションに限り、この減算は適用されません。研修要件の中身は令和8年7月に一部修正されています(訪問リハ減算の医師研修要件を修正 対象を令和5〜8年度分に入替)。

介護医療院が訪問リハの事業所になれるのは、介護保険法第72条第1項のみなし指定によるものです。ただしこのみなし指定の対象に訪問リハビリテーションが加わったのは、介護保険法施行規則第128条の改正による令和6年6月1日から。それ以前、老健・介護医療院のみなし指定の対象は通所リハビリテーションだけでした。小坂介護医療院の開設は同年4月1日で、下呂市の施設案内は同院の指定機関等として訪問リハビリテーションを挙げていますが、期間を通じた訪問リハの実施主体と指定の経路は、市の公表資料からは確認できません。

医療保険の訪問リハも構造は同じ

ここまでは介護保険の話ですが、医療保険でも建て付けは変わりません。

医療保険で在宅のリハビリを評価するのは、在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料(C006)です。令和8年度診療報酬改定の算定方法通知は、この管理料を「医師の診療に基づき、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士を訪問させて」行うものと定め、「訪問診療を実施する保険医療機関において医師の診療のあった日から1月以内に行われた場合に算定する」としています。介護保険が「3月以内」としているところが、医療保険では「1月以内」です。

指示の残し方についても具体的に書かれています。「医師は、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士に対して行った指示内容の要点を診療録に記載する」。そして「理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士は、医師の指示に基づき行った指導の内容の要点及び指導に要した時間を記録すること」。求められているのは診療録への記載と実施の記録であって、指示書の交付ではありません。

同じ通知で次に置かれている区分が、訪問看護指示料(C007)です。こちらは「別紙様式16を参考に作成した訪問看護指示書に有効期間(6月以内に限る。)を記載して、当該患者が選定する訪問看護ステーション等に対して交付した場合に算定する」と、様式と交付までが要件として書き込まれています。医療保険でも介護保険でも、文書の指示書が制度に組み込まれているのは訪問看護の側です。

分かれ目は「どのサービスとして訪問するか」

ややこしいのは、理学療法士らが訪問看護として利用者宅を訪ねる経路があることです。指定訪問看護ステーションには、看護職員に加えて理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を実情に応じた人数置くことができます(基準省令第60条第1号ロ)。この場合の訪問は制度上あくまで訪問看護であり、事業者は主治医の指示を文書で受けなければなりません。

同じ理学療法士が同じ利用者の家を訪問しても、訪問リハビリテーションとして行くなら文書の指示書は法令上の要件ではなく、訪問看護ステーションから行くなら主治医の文書指示が要る。「訪問リハには指示書が必要」という言い方が通用してしまう背景には、この2つの経路が併存していることがあります。制度上は別のサービスです。

公表資料から読み取れること、読み取れないこと

ここまでを踏まえると、下呂市の事案で問われたのは「指示書という紙がなかったこと」そのものではありません。算定の前提である医師の指示を裏づける記録が残らないままサービスが提供され、報酬が請求されていたことです。市は処分事由として「法令違反」「不適正処理事務」「事務処理懈怠」「公文書偽造」の4点を挙げていますが、それぞれがどの行為に対応するかまでは公表していません。

ただし公表資料から確定的に読み取れるのは、指示を記録した書類が存在しなかったこと、そして過去の書類の複写による捏造が行われたことまでです。医師の診療や指示そのものが口頭を含めて一切なかったのか、あったが記録が残されていなかったのかは、公表された範囲では区別できません。刑事告訴の有無についても、市の公表資料に記載はありません。

不正請求と認定されれば、返還額に40%の加算金が科されうる

金銭面の帰結も押さえておきます。介護保険法第22条第3項は、指定居宅サービス事業者等が偽りその他不正の行為により支払を受けたときについて、市町村は「その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に百分の四十を乗じて得た額を徴収することができる」と定めています。自動的に上乗せされるものではなく、保険者である市町村の判断で徴収できる、という規定です。

下呂市の公表資料は「介護報酬等に加え、不正請求にかかる加算分も返還する見込み」としていますが、その根拠となる条文は示していません。介護保険法で不正請求に伴う上乗せ徴収を定めているのは、この第22条第3項です。

自主調査による1355万2322円は現時点の数字で、しかも介護報酬と利用者自己負担分を合わせた額です。加算金の算定基礎となるのは法定代理受領によって市町村が事業者に支払った介護給付費であり、利用者の自己負担分は含まれません。返還額と加算金の最終的な規模は、指導監査の結果を待つことになります。

現場が確認しておきたいこと

訪問リハに従事する療法士にとって、この事案から持ち帰る点は明確です。手元に「指示書」という書式があるかどうかではなく、医師の診療が算定の期限内にあるか(介護保険なら事業所の医師の診療日から3か月以内。診療未実施減算の経路をとる場合は、情報提供の基礎となった別の医療機関の医師の診療日から3か月以内。医療保険のC006なら医師の診療日から1か月以内)、その医師から目的・留意事項・中止基準・負荷のいずれかについて具体的な指示を受けているか、そして受けた指示と実施内容が記録として残っているか。医師の指示に関して、報酬を算定する前提として押さえるべきなのはこの3点です。厚生労働省の運営指導マニュアルは、加算等の算定・請求状況の確認を「報酬請求指導」として整理しています。

市は今回、運営指導での指摘を免れる目的で過去の書類が複写・捏造されたと認定しました。ただ、書類を複写しても、医師の診療と具体的な指示、その指示に基づく実施の記録という算定の中身が満たされたことにはなりません。様式は手段であって要件そのものではない、という原則を確認しておく必要があります。

訪問リハビリテーションを含む令和8年度の報酬改定の全体像は、POSTの特集ページ「令和8年度診療報酬改定 ― リハビリテーション領域の全体像」にまとめています。介護報酬の期中改定(令和8年6月施行)で訪問リハビリテーションが介護職員等処遇改善加算の対象に加わった経緯は、同ページのCHAPTER 4で扱っています。

参考資料

1. 下呂市「市職員の懲戒処分について(令和8年8月20日付)」(令和8年8月21日発表)

2. 下呂市「小坂介護医療院について」下呂市「令和6年4月から小坂介護医療院が開設します。」

3. 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号) 第60条、第69条、第77条、第80条、第81条

4. 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(平成12年3月1日老企第36号) 第二の5
改正内容は厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する省令・告示・通知等の発出について」(介護保険最新情報Vol.1213)

5. 介護保険法(平成9年法律第123号) 第22条第3項、第72条第1項

6. 介護保険法施行規則(平成11年厚生省令第36号) 第128条

7. 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(令和8年3月5日保医発0305第6号) C006 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料、C007 訪問看護指示料

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