ブラックジャックに憧れて
インタビュアー:理学療法士の学校に行こうと思ったきっかけは?
井ノ原先生:もともとスポーツに関わりたかったんです。もっと遡ると、ブラックジャックの影響で外科医になりたかったんですが、正直届きませんでした(笑)。
高校三年生の時に医療短大を目指しているクラスメイトがいて、その時、医療短大というものを初めて知り、理学療法士という職業を知りました。理学療法士なら自分のやりたいことへの近道かも知れないと直感的に感じました。
なぜスポーツに関わりたかったかと言うと、神戸製鋼のラグビー選手の多くと、家族同然の付き合いがあったからなんです。
家族のような、それも極めて優秀な選手たちが、怪我をして1、2シーズン棒に振るのをごく身近で目の当たりにしてきたので、その選手たちを自分の手でグランドに返したい!という気持ちが最大の原動力でした。
乳がん術後ケア用品取り扱い事業として起業
インタビュアー:先生は、理学療法士の資格を取得してからすぐに臨床に出なかったとお聞きしましたが?
井ノ原先生:はい、実家の会社で十年余り仕事をしていました。致し方なくですけどね。
卒後の十年ほどで資格取得者が激増し、たとえパートであろうと臨床経験がないと、いわゆる「ペーパーPT」ではつぶしがきかなくなるな、と次第に思い始めました。
そこで、とにかく臨床経験を積むために職探しをしよう!としたタイミングで妊娠がわかり…ということが二度続いたため、結局臨床に出ることは断念しました。
その後、昔から親しい付き合いのあったネットショップの下着屋さんが、乳がん術後ケア用品の扱いを始めたんですね。
最初に目にした時はユーザー感覚でしかなかったのですが、後日もう一度見た時に、身体の仕組みを熟知した理学療法士が扱えば、お客さんも安心できるのでは?と考えました。
最初は実家の会社の一部門で立ち上げようと思ったのですが、将来のことを考え、起業することにしました。一年間くらいは実家の会社の仕事の引き継ぎなどもしながら、二足の草鞋という形で過ごしました。
乳がん術後ケア用品取り扱い事業としてHer’sを起業してすぐ、リンパ浮腫に出会いました。初めて乳がんの患者会に出展させていただいた際のテーマが、ちょうど「リンパ浮腫」だったんです。
それでリンパ浮腫について調べてみたところ、なかなかに深刻な問題だと感じて。その当時は認知度も低いせいか参考書も数えるほどしかなく、先輩や恩師など周囲の理学療法士の面々にも問合せてみたのですが、期待した情報を得ることは全くできませんでした。
以来、独学で勉強し始めましたが、書籍を読んだだけでは手技などが十分理解できなくて、これではイカンなと講習会を探し、「NPO法人 日本医療リンパドレナージ協会」主催のリンパセラピスト育成講習を見つけて受講しました。
最もスタンダードなリンパ浮腫治療は「複合的理学療法」(現在は生活指導も加えた「複合的治療」)と呼ばれているのですが、理学療法という言葉が入っているにもかかわらず、当時は理学療法士のほとんどが知らなかったんですね。これは、ちょっと衝撃でした。
私が受講した講習会では参加者はほぼ看護師さんで、残りの数人が理学療法士と鍼灸・マッサージ師でした。
だったら、私がやろう!そう決めたんです。
【第1回】ブラックジャックに憧れて
【第2回】保険適応外のケア
【第3回】リンパ浮腫、診療をしないと…?
【第4回】自費診療と病院との違い
【第5回】産後1ヶ月の職場復帰
【第6回】開業について、私はこう考える!
井ノ原裕紀子先生経歴
1993年3月 神戸大学医療技術短期大学部 理学療法学科卒業同 4月 ㈱塩野興産入社
2005年 11月 【Her's】創業
2006年12月 ㈱塩野興産退社
2007年3月 Her's・ケア部門立ち上げ
2008年4月 第3子(次女)出産
2013年1月 第1回リンパ浮腫療法士認定
2013年9月 一般社団法人WiTHs設立(代表理事)
2015年1月 一般社団法人WiTHs退社
2015年3月 がんリハビリテーション インテンシブコース修了
2015年11月 EPochアカデミック事業部部長就任
【ようこそ!Her’sへ】
http://hers.ko-co.jp/