Contents
1.大腰筋の起始は2種類ある
2.腸腰筋と大腰筋違いは?
3.大腰筋は安定に働く筋の走行をしている
4.大腰筋はこんな走行で脱臼しないの?
5,大腰筋は働き者
6,大腰筋の筋トレ
7,大腰筋のストレッチ
8,参考文献
大腰筋の起始は2種類ある
起始 |
浅頭:Th12ーL4椎体及び肋骨突起 深頭:全腰椎の肋骨突起 |
停止 | 小転子 |
支配神経 | 腰神経叢及び大腿神経 |
髄節 | L2ーL4 |
作用 |
股関節屈曲0°:骨頭を求心位にする 股関節屈曲〜45°:脊柱の前弯(直立) 股関節45°〜:股関節屈曲の求心性収縮 |
まずは大腰筋の全体像を図で理解していきましょう。上の図のように大腰筋は、体幹部と下肢をつなぐ唯一の筋肉です。
この図をもう少し詳しく見ていくと下の図のように、深頭と浅頭の2種類の起始があることがわかります。
深頭の場合、肋骨突起と呼ばれる部位に付着しています。ちなみに、この肋骨突起、横突起と間違われやすいのですが、実は別物です。腰椎の横突起は、上関節突起の外側に小さく盛り上がっている部分で、乳頭突起と呼ばれています。
浅頭の場合、Th12〜L4の椎体に付着しているのが特長です。2種類の起始の違いは、運動に現れ矢状面の動きを浅頭、水平面・前額面の動きを深頭が行っていることが予測されます。この二つを合わせてみると下記の図のようになります。
今度は、大腰筋の走行に詳しくなりましょう。
腸腰筋と大腰筋違いは?
大腰筋。読み方は“だいようきん”と読みます。これと混同されるのが、腸腰筋(ちょうようきん)や腸骨筋(ちょうこつきん)、小腰筋と言った筋肉だと思います。腸腰筋は、腸骨筋と大腰筋の2つを合わせた総称のことで、ここに小腰筋を混ぜる場合もあります。
用語の使い分けとしては、各細かい機能の説明を行いたい場合には腸腰筋ではなく大腰筋、腸骨筋、小腰筋と分けて使い、大まかのものの説明には腸腰筋で良いと思います。
また、腸骨筋と大腰筋の大きな違いは、寛骨を大腿骨に繋ぐのか腰椎を大腿骨をつなぐのかという点です。大腰筋が唯一、人体の中で脊椎と下肢を直接連結している筋肉として有名ですが、実際にはどのような活用が行われているのか、この後詳しく解説してみたいと思います。
大腰筋は安定に働く筋の走行をしている
先ほど、大腰筋に関して、「体幹と下肢をつなぐ唯一の筋である」とお伝えしました。つまり、非常に長い筋肉となります。よーくみてみると、恥骨結節のあたりで、少し走行が変わっているのがわかります。
注目して欲しいのが、この部分、滑車のような機能になっているということです。大腰筋は、その筋の長さゆえ、筋が収縮する距離が他の筋よりも長いです。(※脊柱起立筋などは、細かい筋線維が多数集まって長く見えている)筋の特性上、筋収縮の距離が長いほど筋の発揮は弱くなる傾向にあります。
そこで、重要になるのが恥骨結節での滑車機能です。滑車の利点は、小さな力で、大きな力を物体に伝えができる原理ですから、大腰筋のように長い筋肉には重要になるわけです。
テコの原理の観点から考えても、大腰筋は、非常に面白い筋であることがわかります。この滑車機能は、テコでいう「第1の原理」にあたります。テコに関する説明は、下の図を見てください。
ちなみに、「第1の原理」は安定性にとんだ機能であるため、姿勢保持筋である大腰筋にとっては、もってこいの構造ですね。
大腰筋はこんな走行で脱臼しないの?
結論から言えばしません。上の写真を見ていると、恥骨結節だけで引っかかっているため、股関節を屈曲したら筋がたわみ、外れてしまいそうですよね?でも大丈夫!人間の身体は、そんなやわじゃありません。
上の図を見てみてください。大腰筋の前に細長い線維が靭帯が走っています。鼠蹊靭帯ですね。この鼠蹊靭帯があることで、前方への脱臼を抑制しています。また、大腿神経、動脈も同じように鼠蹊靭帯の下を通過しています。ちなみに、心臓からでた大きな血管、胸大動脈は、横隔膜を貫くと「腹大動脈」に名前を変え、骨盤の前方で「左右の総腸骨動脈」に名前を変え、そこから「外腸骨動脈」になります。そして、鼠蹊靭帯を越えると「大腿動脈」に名前が変わります。
これが解剖学の面白いところです。全く同じ神経でも、走行場所が変わると名前が変わります。これをセットで覚えておくと、臨床で役に立ちますよ。
大腰筋は働き者
さてここで問題です。一番初めに出した、大腰筋の表で筋の作用が書かれていました。その特徴的な作用は3つあります。答えよ。
わかりましたか?
不意を突かれたでしょ!?
さて答え合わせです。
まず、股関節屈曲0°〜15°くらいまでは、大腿骨頭を臼蓋に押し付ける作用があります。これを「求心位に保つ」と言ったりします。前回解説されてた梨状筋にも同じような作用がありましたね。(梨状筋の作用を図で覚えよう)
つまりここでの収縮は、遠心性収縮です。(筋収縮に関しては、こちらをご覧ください)次に、下の図を見てください。
次は、股関節屈曲15°〜45°くらいまで、徐々に腰椎が前弯してきます。これにより、腰椎の安定化がはかれることがわかります。腰椎が前弯することで、横隔膜の張力は増し、骨盤も前傾方向に運動(後傾位からの場合)してくるため骨盤底筋が働きやすくなります。つまり、体幹の安定構造を作り出す動きですね。やはりここでもまだ、遠心性収縮です。
いよいよここから、大腰筋の求心性収縮が始まります。股関節屈曲45°以上になるとようやく、求心性収縮での股関節屈曲に大腰筋が作用してきます。つまり、股関節の求心性収縮を強化したい場合、股関節屈曲45°以上に設定してからでないと鍛えられないということです。
ただし、例えば歩いている中で股関節屈曲45°を超えることは、ほぼないと思います。ということは、大腰筋を強化する上で、臨床的に必要な運動療法の選択は、股関節伸展運動を伴った、大腰筋の遠心性収縮のトレーニングではないかと考えられますね。
大腰筋の筋トレ
大腰筋の鍛え方CKCトレーニング
上の図を見てください。いきなり抗重力位で行うのは難易度が高いので、背臥位で行います。足の裏のポイントをセラピストが抑えます。(脛骨の真下)患者には、真下に蹴ってもらうよう指示します。この時、つま先で押さないように気をつけてください。最初は、押すのが難しいので、セラピストが、足裏を頭側に押して荷重感覚を入れてあげましょう。
大腰筋の鍛え方OKCトレーニング
次は難易度アップ。うつ伏せになり、股関節を伸展してもらいます。この時、ハムストリングスの収縮が入ったのち、大臀筋の収縮が入るようにしてください。膝関節は伸展位です。少し難しいですが、脊柱起立筋が収縮してしますと、大腰筋が抑制されやすくなりますので、気をつけます。あまり大きく足を上げる必要はありません。
大腰筋のストレッチ
大腰筋(腸腰筋)へのストレッチには一般的に股関節伸展を使用します。その中で一般的なものは静的ストレッチ。一定の時間、筋肉が伸びる姿勢をキープするものです。今回は、基本的なストレッチ他、ヨガの動きを交えたストレッチをお伝えしたいと思います。
ランジストレッチ
下絵の通り、一歩前に出しゆっくりと踏み出した足に体重を乗せていく方法です。このとき伸びているのは、後ろの足の大腰筋です。単純に、筋肉のこわばりを軽減ずるのであれば1分間伸ばすのを5回行いましょう。これを維持するためには週3回程度行うと毎日行ったのと同等の効果が得られます。
注意点として、ヨガでは後ろ足の膝を曲げて行うアーサナがあります。しかし、これでは大腰筋よりも大腿四頭筋の方が主にストレッチされるので目的を考えたストレッチを行いましょう。
また、大腰筋をより立体的にストレッチする場合、サイドベンドを加えます。下絵通り左足の大腰筋をストレッチする場合、さらに左手を天井に向かって伸ばす事で、サイドベンドが加わります。
このとき、バランスを保つためにも右手は何かに触って支えておくとバランスを崩さずストレッチができます。
ウォーリア(ヨガ)ストレッチ
ヨガでは英雄のポーズ(ヴィーラバッドラーサナI)と呼ばれるものです。先ほどの、ランジストレッチよりも比較的に動きとしては楽にできるかと思います。負荷量は、腰の位置の高さで加減してもらい、太ももの前が疲れない事を確認してください。
①ランジのように一歩前へ踏み出します。
②踏み出した前のお足の膝をゆっくり曲げ、つま先よりも膝が前に出ない位置で止めます。
③後ろ足のつま先は斜め45°を向き、かかとはついたままにします。
④この姿勢から合掌し、息を吸いながら指先をまっすぐ天井へ向けます。
⑤吸いきったら息を吐いて、また吸う息でさらに伸びていきましょう。
⑥3回吸って吐いてを繰り返したら反対足も同様に行いましょう。
*腰をさらないように、指先は常に天井をまっすぐ指差しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?解剖学をきちんと学ぶと、いろいろなことがわかってきます。まずは、解剖の教科書を引っ張り出して、名前を覚えるのではなく、よく観察しましょう!
[参考文献]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7787047/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23915688/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31232167/