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脊髄損傷者の専門トレーニングジムJ-Workoutとは?【代表取締役社長|伊佐拓哲氏】

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脊損専門トレーニングジムを見学しに渡米

——— J-Workout創始者の渡辺淳さんに出会ったきっかけは?

伊佐先生:中学からの同級生だったんですよ。私が退院して1年後、アメリカのProject Walk(脊髄損傷者専門トレーニングジム)という施設を知り、当時サンディエゴに留学していた渡辺に通訳をたのみ、見学に行きました。Project Walkに出会ったきっかけは、私が退院し、大学に復学していた頃、アメリカから療法士の先生が来て、在宅で出来るメニューをレクチャーする会があり、参加しました。その話の中で、アメリカでは、脊損患者に急性期でもガンガントレーニングするという話を聞き、「これはいいな」と率直に思いました。その話の中に、民間でもトレーニングしている施設がカリフォルニアにあると聞いた場所がProject Walkでした。

 

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——— J-Workoutの立ち上げは渡辺さんと一緒にやられたんですか?

伊佐先生:アメリカの施設を見学した頃に、渡辺が「ここに入るわ」と決め、大学の学部も教育学部から体育学部に編入しました。卒後、Project Walkに就職希望をだし、翌年からアシスタントとして入りはじめていましたね。2005年頃だったと思います。私も、クライアントとして渡米しました。2006年に向こうでビザを出してくれるということでビザをとって1年間向こうに行き本格的に移住し、渡辺と一緒に生活しながら過ごしました。

 

渡辺は、普通よりも速いスピードでトレーナーまで昇進し、日本人特有の細やかな指導からアメリカ人の指名も取れるようになっていました。最終的に先輩から、「そろそろ日本に帰って立ち上げたら?」と声をかけられ、「一緒に帰ろうか」という流れになりました。それで、2007年に海外プロジェクト公認の店舗ということで、日本でJ−Workoutが立ち上がりました。

 

——— 代表の渡辺さんが亡くなった時の、お気持ちはどうでしたか?

伊佐先生:突然でしたからね。まずあまり「悲しい」と言っている余裕がなかったんです。クライアントさんがいますし、解散と言うわけにはいかないと、一緒にやっていたお医者さんを二代目の社長に据え、3年間活動しました。

 

当時は今ほど日本の医療系資格を持つスタッフがいなかったんですが、その間に、「医師がいるなら」ということで、理学療法士をはじめとしたコメディカルの方々が集まってきました。それまでにも、理学療法士は何人かいたのですが、なかなか定着していなかったのも事実です。こちらの教育システムも今のようには、構築できていなかったのも問題でしたね。医師を向かい入れ、トレーナーの層も厚くなってきたことで、徐々に今の教育システムが構築されていきました。

 

▶︎ 【2018年6月開催】異なるフィットネスジムで働く理学療法士3人による対談のお知らせ

 

日本とアメリカの運動に対する意識の違い

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——— 日本でアメリカと同じように運営するのは、難しかったと思いますが、もっとも苦労した点はなんですか?

伊佐先生:基本的に、アメリカ人は健康の知識ベースが高いです。障害のない人でもジムに行くのが当たり前だったり、マンションにジムが付いていたりと、モチベーションの部分で日本人とは違うということをよく話していましたね。

 

効果の面でも、脊損の場合すぐに成果が出るものでもないので「変わってないということが、素晴らしい」ということを理解してもらうのも、アメリカ人は「キープできていることでも効果がある」と理解していますが、日本人は「変わっていない」ことをマイナスに考えます。

 

そのあたりの捉え方が違うので、説明の一つ一つが苦労の連続でした。アメリカ人はそもそも運動が好きですし、意識が高く環境も整っています。トレーナーとしての社会的地位も高いので、アメリカでは十分食べていけます。

 

そういう意味では、運動に対する基本的な知識レベルが違うかなと思います。渡辺がよく言っていたのは、「骨格が違う」ということで、アジア人と欧米人とでは耐えられる強度も違います。ただ、逆にアジア人が強い部分もあるので、そこをうまく利用していますね。

 

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——— 実際、どういうステップでトレーニングが進んでいくのか教えて下さい。

伊佐先生:脊損のかたは、それぞれ症状が多様で、レベルも違いますから、まずは体験でトレーニングを受けていただいています。そこで状態を把握して、はじめてメニューが決定します。実際、最初はボロボロになるくらい疲れると思います。まずは、2時間のトレーニングに慣れるところからですね。

 

私も始めたときは、帰りの車が運転できないくらい疲れ、1時間寝てから帰るような状態でした。筋肉痛とかはないんですよ、感覚がないので。痛みの感覚は、わからないけど、身体は疲れを感じて何とも言えない倦怠感が押し寄せてきます。きつかったですね。

 

そんな状態を超えて、カラダがだんだん出来てきます。動くとこだけではなく、全身を使ってトレーニングしていくので、1番実感するのが、自分が麻痺している部位の境目がハッキリしてきます。まずは、それをカラダで分かって、麻痺している部分と麻痺していない部分を上手く使えるようになると、生活の中で応用できることが、たくさん増えてきます。

 

私も驚いたのですが、通常麻痺した筋肉は痩せていきます。私もProject Walkに出会うまでは、ストレッチしかしていなかったため、痩せていきました。でも、トレーニングをはじめると、目で見てもわかるくらいに戻りはじめるんですよ。これには驚きましたね。これだけでも、立つトレーニングや歩くトレーニングを取り入れる意味があると実感しています。

 

まず「自分の努力でなんとかする」という決意が必要

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——— 患者さんに何かメッセージをいただけますでしょうか?

伊佐先生:医療では、トレーニングできる時間がどんどん短くなっています。今後も、さらに短縮されることも考えられます。そんな限られた時間の中で、いかに効率良くトレーニングできるかをもっと考えてほしいと思います。制度に縛られるのではなく、「自分の努力でなんとかする」という決意が、まず必要です。最近の社会では、ハード面の整備は整ってきていることは事実です。

バスでも、電車でも、車椅子でも使いやすいような環境は確実に整ってきています。そんな、ハードを生かすも殺すも、自分たちの努力次第です。とにかく、制度に縛られるのではなく、自分の道を自分の足でしっかりと歩んでいきましょう。

 

患者さんの希望となれ

——— 医療従事者にメッセージをお願いします。

伊佐先生:まず、1つの可能性を潰さないで欲しいなと思います。当時は「歩くのは諦めなさい」と言われていましたが、今は再生医療もありますし、将来的には夢じゃないという希望を抱いていますが、「今は、どうしたらいいか、今何ができるかを考えてやりましょう」という流れになってきています。

 

そういった情報が、患者さんの希望となっています。もし、目の前に同じような思いで落ち込んでいる患者さんがいたら、「こんな情報もありますよ」と最新の医療情報も伝えてほしいのです。また、私たちのような場所があることも伝えてほしいです。

 

——— 今後の展望を教えて下さい。

伊佐先生:正直、スポーツ選手に対する分野は、あんまり得意分野ではありません。アスリートを育てるところは得意分野ではないので、2020年の東京パラリンピックに向けて、より力を入れていこうと考えています。

 

歩くという技術が、競技のパフォーマンスを上げることは関係性が強くあります。麻痺している部位の障害レベルが下がると、競技者としてのポテンシャルが一つ上がるくらい麻痺部の違いは大きく関与します。

 

パフォーマンスにこれだけ影響が出るのであれば、私たちの得意な部分で、チャレンジできるのではないかと思っています。ちょうど、去年くらいから挑戦しはじめています。J-Workoutは今年、10年目に入ります。

 

まだまだ成長中の会社で、名前も知らないかたは沢山いると思いますが、この分野にも医療の知識が高いかたにぜひ入っていただきたいと思っています。興味を持っていただけたら、ぜひ来ていただきたいなと思っていますので、よろしくお願いいたします。

 

▶︎ 【2018年6月開催】異なるフィットネスジムで働く理学療法士3人による対談のお知らせ

 

伊佐 拓哲氏

【経歴】

2012年12月 ジェイ・ワークアウト株式会社 取締役 就任

2014年7月 ジェイ・ワークアウト株式会社 代表取締役社長 就任

現在に至る。

【所属】

脊髄損傷者の専門トレーニングジム J-Workout
脊髄損傷者の専門トレーニングジムJ-Workoutとは?【代表取締役社長|伊佐拓哲氏】

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