予防分野に興味をもったキッカケは
―― まず、理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください。
秋山恵利子先生(秋山) 最初は母に看護師を進められたのですが、私には向いてなさそうだと思い、同じ医療系の職業を調べていたときに、理学療法士という職種を知り興味を持ちました。
―― はじめに就職したのは病院ですか?
秋山 そうですね、維持期の病院に2年ほど勤めました。
―― そこから今の活動(予防分野)にどのようにつながっていったのか教えてください。
秋山 病院に勤めているときに、「膝痛の患者さんは、体重をあと5キロ落としていたら全然違ったのではないか?」とか、「脳梗塞を繰り返している患者さんはなぜ血圧に気をつけていなかったのか?」と、よく疑問に思っていました。
そこで、実際にその患者さん方に聞いてみたんです。するとその方達から、「そうなの?知らなかった。」と言われました。
私たち療法士からしたら当たり前のことも、患者さんは知らないことが多いと気づきました。医療職が当然のように持っている知識は、一般の人からしたら当たり前じゃない。
一般の人がもっと身体のことを知れば、市販されている変な健康商品にも引っかかったりせず、健康な人が増えるんだろうなと思うようになりました。
―― 確かに、「◯◯先生監修」とか「芸能人の△△も使っている」と書いてあるけど、実際は効果が疑わしいものありますよね。
秋山 それで病院を辞めて、一般の人向けに健康を伝えるサロンを作ろうとしました。ただ、それがもう全然だめで(笑)力不足でしたね。経営の大変さとか、社会に出てから、病院の中で、色々な意味で守られていたということを痛感しました。
―― 臨床2,3年目での自費領域への挑戦ということで、不安はありませんでしたか?
秋山 それはあまりなかったですね。一緒にやってくれた方が、「大きな失敗にならないように」とアドバイスをくれていたのが大きかったです。
リスクをとらずに小さいことから始める。結局その活動は1年くらいでやめてしまったのですが、その経験は今でも大きな財産となっています。
―― 病院の外で活動したい若手療法士も多いと思うのですが、何かアドバイスいただけますか?
秋山 まず自分がやりたいことと、社会から求められていることは違うということを知っておかなければいけません。
あと、まだ若手で理学療法士としての知識が不十分の状態で、「やりたいからやる」という気持ちだけで外で活動を移すのはあまりお勧めしません。
予防分野では病院と同じやり方では通用しません。
理学療法士はマンツーマンで対応することがほとんどですが、集団を相手に何か教えたりすることは苦手な印象があります。そういうことがもうすこし上手くなりたくて、ヨガやピラティスの資格を取ったりしました。
また、療法士として外で活動するのであれば、「自分がプラスになるため」というより「自分の周りの人がプラスになるため」を第一に考えて欲しいと思っています。
お金儲けがしたいなら、別の仕事をした方がいいと思いますよ。
産業分野と歩育に関して
―― 秋山さんは、今、色々な活動されていますよね。まず、産業分野の活動を教えていただけますか?
秋山 まず一つは企業の中で腰痛予防の講座をさせていただいたりしています。
2015年からストレスチェック義務化されましたが、企業は以前から「健康経営」について言われているのですが、手をつけていない会社が多いのが現状でした。
従業員の自殺問題が社会的に大きく取り上げられるようになり、身体的なところだけでなくメンタル的な部分も含めて、真剣に考えていかなくてはいけないようになってきています。
心と体がつながっているということをヨガから学んで、メンタルケア的な面でも関われるということで、私は企業から依頼をいただくことができました。
産業分野は、知れば知るほど理学療法だけでは解決できないことも多く、理学療法のことだけ知っているような人は企業には求められません。
―― 子供さん向けの教室というのもされていますよね。
秋山 はい。0歳から最期まで、すべての方に予防は必要だと思っています。
例えば、最近は住宅のつくりが変わってきたので、赤ちゃんが”たかばい”をする前につかまり立ちを覚えたりします。”たかばい”をすると体幹や足趾が鍛えられるんですが、その期間を飛ばしてしまうと、歩くための骨格が十分に育ちません。
子供の頃は、まだ手や足が軟骨で、未発達の状態です。靴もその子にあったサイズ選びが重要になってきます。
あとは、ヨガやピラティス、ウォーキングの教室をやっています。
その教室では、まず30分は勉強をするんです。一年のカリキュラムで、体の作りや病気を予防する方法、自分の最期はどうしたいか?など色々なことを学びます。
健康なうちに身体のことを学ぶことが大事だと考えています。「知っていたらそんなことはしなかった」という声をできるだけ減らしたいと思っています。
理学療法士の宣伝部長になりたい
―― 今後の展望は??
秋山 必要だと思うことやニーズがあれば何でもやっていこうと思っています。最終的には日本の健康のレベルが上がったらいいなと思います。
小学校の保健の授業とかで、当たり前に予防のことを教える日本になっていればいいなと思っています。
職域はまだまだ拡大できると思っていますし、そのために私は理学療法士の宣伝部長としてやっていきたいです。
―― 女性の方は妊娠・出産というライフイベントがありますが、秋山先生のような働き方はいいのかもしれませんね。
秋山 そうですね。一回現場を離れた女性の理学療法士の方にも、ぜひ復帰していただきたいですね。特に女性ならではの、ウーマンズヘルスケアの分野での活躍も期待できると思います。これは男性では入りづらい分野だと思うので。
―― 秋山先生にとってのプロフェッショナルとは
秋山 覚悟と勉強し続けることですかね。医療業界は常に変化しているので、これが正解だって思っていることは変わってしまいます。”勉強しないでいい”なんてことは一生ないことだと思います。
秋山恵利子先生
2006年 理学療法士 取得
2008年… 病院・ディケア・訪問看護ステーションで働きながら、市の生涯学習センターでの講師や、一般向けに疾病予防講習会、小学校での姿勢講座などを開催。企業での腰痛講座や医療・介護職向けの勉強会なども実施。
2017年 日本疾病予防教育協会(JEDA)を設立。疾病予防の啓蒙活動に力をいれている。