若くしてリーダーに。それがきっかけで出会ったコーチング。
ー 理学療法士になったきっかけは?
鯨岡先生 きっかけは、父親が病院に勤めていたことがきっかけだったと思います。当時、地元の進学校に通っていたんですが、周りは大抵大学に進学します。その時の自分の偏差値ですと、並の大学にしか行けませんでしたし、「何か人とは違うことをしたい」という天邪鬼的な部分も相まって、医療関係の仕事を調べていました。
その中に“理学療法士”という仕事を見つけ、必要とされているけど人数が足りないという部分を目にし、「なら俺がやってやろうか」と思い立ち、受験しました。
結果、群馬大学付属医療技術短期大学に推薦で入学したのですが、なんとかギリギリ学校を卒業できたという感じです。あまり皆んなとも馴染めず、結構1人でいたので、「キャンパスライフをエンジョイした」という感じではありませんでした。
当時、学科長で遠藤文雄先生(初代の日本理学療法士協会会長)がいらして、ずっと印象に残っているのが「60点理学療法士にだけはなるな」という言葉です。可もなく不可もない存在ってことですよね。
「このオッサン何言っているんだろう?」と、思ってましたが(笑)、結果自分がまさに60点理学療法士の道を地でいくようになる訳です。何かパッとせず、羽ばたきたいんだけど羽ばたけない、そんな感じでした。
当時、ハードロックに深く傾倒していて、(PT学科にいるのに)ロック雑誌とかでCDのレビューを書く人になりたいと思い、出版社に送ったりもしていましたね。別に文章が上手いわけではないんだけど物書き的なものに、当時から憧れていました。
ー 就職後のキャリアはどのように歩まれたのですか?
鯨岡先生 卒業後地元に戻っても、地元の病院に就職したい病院が見当たらず、当時できたばかりの老健施設に入職しました。当時はその選択肢も「鯨岡は何考えてんの?」という感じでした。ひとり職場でしたし、新卒が就職する場所でもありませんから、足を踏み外した、ではないですが、そういうとこから自分のキャリアが始まりました。
早いうちから維持期の分野に飛び込んだことによって、後々考えてみると、この分野での仕事が今に繋がっているのかなと思います。ただ、当時は、自分の中で皆んなと同じような学びをしていない、というコンプレックスがすごくありました。
一箇所目の老健に1年半ほど勤務し、そのあとデイケアの立ち上げで1年、そこからさらに新しい老健ができるということで転職しました。最初からいて、私しかスタッフがいなかったものですから、部門長に名目上なっていました。
その後、スタッフが一人二人と増えていき、数年後10人近くなってきた頃ですかね、運営がうまくいかなくなったんです。名目上は部下ですが、年上の方や優秀な人も入ってきて、人間関係がうまくいかなくなっていました。すごく悩んで、まさに部署崩壊ですね(苦笑)
もがき苦しみながらも、「良い手立てがないか」と思い、リーダーシップ論や心理学、コミュニケーション、自己啓発本を読み漁っていたとき「コーチング」というキーワードに出会いました。ちょうどその時期は、コーチングはビジネスシーンで話題になっている頃で「なんだこれは?!」と思って調べ始めました。
たまたま時を同じくして、ある先生のコーチングのワークショップが地元で開催されることを知り、参加してみたところ「これは面白いな」と思い、本格的に学ぼうと、専門機関の門をたたきました。
コーチングを学びはじめ、徐々に変化が現れるようになってきました。当時を思い出すと自分自身が老健でのリハビリがマンネリ化してきていて、すごく仕事が退屈に感じていたんです。正直、早くこういう仕事から抜け出したいと思っていました。どちらかというと管理運営業務をしたいなと。と同時に、コーチングという目新しいものに出会って、リハビリテーション・介護の分野に広めていったらどうかなって思いました。
若くしてリハ職の主任や科長になるセラピストに向けて
ー鯨岡先生のように若くして役職につく人が増えてきましたね。
鯨岡先生 すごく難しいですよね。(人としての)土台がまだできていない上に、役目を与えられる訳です。人にはそれぞれセルフイメージという「自分はどういう人間なのか」という役割づけみたいなものがあります。人によっては、リーダー職、スーパーバイザーというものを「自分が偉くなった」と、間違って認識している人がいると思うんです。
「私が上で、お前が下」みたいに。そういう人としての根底がコミュニケーションとか関わりの仕方に現れてきてしまうんですよ。あくまで役は役であって、偉いわけでもなんでもないんです。「今は一応自分がこういう役をやっているけれども、お互い様」と、一緒に学びあっていこうという「共に」というスタンスを持つことが重要です。
「お前これやってこい」と言ってしまうとか、「何様なの?」っていう(笑)。そういう人に結構出会ってきましたね。でも「共に」というのを持っていると、言葉の掛け方・労い方が変わってくるんじゃないかなと思います。(リーダーとしての)役割を演じなければいけない、というところもあるし、肩に力が入ってしまい、自分の立ち振る舞いが、ちぐはぐになってしまったりするのはあるでしょうね。
本当は数年かけて、ようやく先輩の背中を見ながら体得していくものだと思うのですが、いきなり「臨床3年目で主任です」とかなになってしまうと、おかしな立ち居振る舞いになるのかもしれないですね。
【目次】
第一回:部署の崩壊
第二回:主体的に働く動機付け
鯨岡栄一郎先生オススメの書籍
鯨岡栄一郎先生のプロフィール
株式会社メディケアソリューション 代表取締役
理学療法士,日本コーチ協会認定メディカルコーチ,国際コーチ連盟正会員
群馬大学医療技術短期大学部 理学療法士学科卒
訪問リハで現場実践する傍ら、老健の施設長だった経験を生かし、施設・事業所に対する組織活性化コンサルや研修講演事業、管理職向けの個人コーチングセッションを展開している。「心の放火魔」の異名をもち、これまで数多くの療法士のブレイクスルーをサポートしてきた、医療介護業界におけるコーチングの第一人者。
著書「医療・福祉の現場で使える『コミュニケーション術』実践講座」(運動と医学の出版社)は教科書としても採用されている。
2018年初頭に新刊出版予定
[著作物・論文等]
・作業療法ジャーナル(2011年1~6月号) 「OTのための教養講座:コーチング」
・書籍 「医療・福祉の現場で使える『コミュニケーション術』実践講座」(運動と医学の出版社) 2012年
・理学療法ジャーナル(2014年4月号) 「理学療法における患者の動機づけを向上させる技術」
・通所介護&リハ(2015年9・10月号)「相手を伸ばす!レベル別・キャリア別 ほめ方・叱り方と育成のポイント」
・月刊介護保険 「介護の現場を活性化するコミュニケーション術」(2017年7月号~)
他多数。
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