教員生活24年。そこからなぜ政治家を目指すのか?
ー 理学療法士になったきっかけを教えていただけますでしょうか。
田中氏:実家が自営業をしていたので、家業を継ぐという選択肢もあったのですが、高校生の頃は、ちょうど大手の量販店が増えてきていた頃で、町の小さな商店は生きていくことができないと思い、他の仕事も考えていました。
その時、たまたま知り合いの息子さんが理学療法士として働き始めたということを聞いて見学に行き、困っている方に喜んでいただける仕事だということで、理学療法士になろうと進学したわけです。
相手のニーズに応えるということは、どの業界でも変わりません。小さい頃から店の手伝いをしていて、来店された方が何をお求めになるために来たのかということは、子どもながらに考えていました。
8年間は急性期病院で臨床に従事していましたが、北海道千歳リハビリテーション学院を開設するということで声がかかり、せっかくのチャンスだと思い教員になりました。平成7年のことです。そこから教員生活を24年、1900名以上の理学療法士・作業療法士が巣立っていきました。
ー なぜ政治家になろうと思いましたか。
田中氏:教員を始めてから、だいたい12、13年たった頃でしょうか。学校には病院・施設から多くの求人票が届くわけですが、昇給額も少なく、このまま経験を重ねても年齢に見合う十分な年収は得られないということが気になっていました。
リハ専門職は社会的なニーズがある仕事ですので、当然しかるべき待遇・報酬・社会的地位があるものだと思っていたわけですが、現実はそうではなく、社会的評価も十分ではないことを懸念していました。
社会保障費の伸びは抑制されていくなか、診療報酬が下がり、介入できる単位数も制限されていけば、身分や待遇の向上は難しいでしょう。
また、新卒のリハ専門職と経験とともに知識やスキルを向上した理学療法士の診療報酬や介護報酬が同じなのですから、昇給額が抑えられることにつながります。研修や経験が評価される仕組みも必要ではないでしょうか。
今の若手がモチベーションを高く持って働いていただくためには、報酬をしっかり維持し、研修を受けやすい仕組み、知識やスキルの向上が評価される仕組みを作っていかなければならないと思います。自ら研修に出向き、スキルを向上して高い専門性を継続的に維持し提供し続けるには、生活の安定・安心なくしては困難であると思います。そのためには政治活動が必要だと考えました。
関係する団体・機関、何よりも国民に対して「理学療法士、なるほど」と理解していただけるようにしっかりと訴えていかなければなりません。業務内容、職域、身分、報酬などを決定づけるのは、身分法、養成指定規則、報酬制度であり、全て政治の場で決定されます。政治的なプレゼンスがなければ、根幹になるところが維持できなくなってしまいますので、しっかり取り組んでいきたいですね。
リハ専門職の社会的評価を高めていくために必要なこととは?
ー 具体的にどのような手段を考えていますか?
田中氏:まず、リハ専門職が行う業務の付加価値を高めること。社会的に評価されるということが一番大切です。ADLの効果的かつ早期の改善や在院日数の短縮、要介護予防や重度化防止、他職種連携の推進、地域支援事業でのマネジメント、住民相談への対応による生活安心度への寄与など、数多くあります。
また、社会と国民の方々に認めていただけるようにするために、広報活動も必要ですし、地域の貢献活動も必要です。
基本的に診療・介護報酬というのは公費ですから、障害や生活能力の改善や健康寿命の延伸、自立生活の推進などに効果があり、また全国で広く提供できるものでなくてはなりません。
ですから、職域団体が研修制度を設定して、知識・スキルを有するリハ専門職を多数養成して、全国に普及させる必要があります。地域や在宅医療が拡大することを考えると、大多数を占める施設勤務のリハ専門職には、このことを理解して積極的に研修に取り組んでもらいたいですね。
そして短期間で効果を上げやすい理学療法・作業療法・言語聴覚療法を開発・実証していくためにも、すでに取り組みは増えていますが、ADLや要介護度など社会的に求められているファクターに対しての効果検証、研究を推進していくべきだと思います。
― 政治的にそれを推進するとすれば、例えば研究費を充てるとか、そういった制度になるのでしょうか。
田中氏:それも当然あります。理学療法士の研究活動は一部で研究費の助成があるにしても、ほとんどが個人努力で成り立っているのではないでしょうか。所属施設から出張費・研修費等が支給されにくくなっている状況もよく聞きます。基本的な技能・知識の向上、研究のベースになるような部分について、過疎化する地域での専門性の質を保ち、地域住民の生活を守るためにも、公費等による支援があってもよいのではないかと考えています。
ー 理学療法・作業療法・言語聴覚療法に係る財源の今後についてはどのようにお考えですか?公費だけでは難しく、今は自費のサービスも増えてきていますが。
田中氏:発症日からの経過日数、医療保険から介護保険への移行など、適応期間や提供内容が決められています。医療や介護は安全・安心な生活を守るためのものですから、最大限、公費で保障されるべきであると思います。ただし、漫然とした治療とならないよう、目的・目標、効果検証を専門家として確実に行わなければなりませんね。一方、今後は公費と自費を併用する混合医療・混合介護が拡大していくことでしょうし、すでに一部で取り組みが始まっています。ユーザーニーズに応えるサービスは、まず公費での対応と考えるべきですが、自費でのサービス拡大も許容して生活やQOLの向上にあたるべきであると考えています。
【目次】
第一回:役割、身分や待遇を向上してリハ専門職がさらに評価される社会へ
第三回:社会的地位を得るために
田中まさし先生経歴
【社会活動】
日本理学療法士協会 理事
日本理学療法士連盟 顧問(前会長)
自由民主党東京都参議院比例区第三十六支部 支部長
社会福祉法人千歳いずみ学園評議員
社会福祉法人晃裕会評議員
学校法人淳心学園評議員
北海道理学療法士連盟会長
日本理学療法士協会代議員
日本理学療法士協会政治参加特別委員会委員
【来歴】
昭和40年10月11日 北海道札幌市生まれ
昭和62年~ 清恵会第二医療専門学院卒業後 河内総合病院・上山病院・札幌東徳洲会病院
平成7年~ 北海道千歳リハビリテーション学院 (副学院長、理学療法学科長)
平成22年〜 北翔大学大学院人間福祉学研究科人間福祉学専攻修了(修士)