「見つけ出すこと」がポイントです。
ー 理学療法士が透析クリニックに関わる意義はどの辺に感じますか?
松沢 僕は「見つけ出すこと」、つまりスクリーニングができるということが、透析クリニックで理学療法士が働く上での役割として大きいと思っています。
以前、務めていた透析クリニックは、多くの透析患者さんを抱えていたんですが、そこで糖尿病の重症化のため歩行すらままならない若い患者さんを担当することになりました。
その方は、糖尿病が重度で、特に末梢神経障害に至っては、音叉を当てて振動覚を取ろうにも、その音叉が当たってること自体が分からないレベルでした。
リハビリの内容としては、特に特殊な理学療法テクニックを使ったわけではありません。本当に誰もができる普通の理学療法をやっただけですが、そこからどんどんADLも上がっていって、最終的には日常生活が自立するレベルにまで改善しました。歩行できなかったのが、ADL全自立になったわけですから、かなりの変化と言っていいですよね。
しかし、もしそのクリニックに、理学療法士がいなかったらその方はどうなっていたでしょうか。低いADLレベルのまま生活を送らなければならなかったかもしれません。
何が重要だったかっていうと、大勢の方が通うクリニックの中で、その患者さんを「ピックアップして介入することができたこと」だと思っています。スクリーニングをかけて、ADL・身体機能を評価して、介入をするという地道で単純な当たり前な作業が重要なのだと改めて気づかされました。
離れていっても後追いはしない
ー 反対に「これは気をつけて介入した方がいい」といったことはありますか?
松沢 高望みをしないように気をつけています。やっぱり成果を出したいという気持ちになりすぎると、患者さんに頑張らせ過ぎてしまいそうになるんですよね。
そうすると患者さんは簡単に離れていってしまうんですよ。他疾患と比較すると透析患者さんは、運動に対するコンプライアンスとかアドヒアランスが高いわけではありません。そのため、効果が多少薄れても、患者さんがきついと感じるようなことはあまりせず、継続率を意識した介入を行うことが良いと思います。
もし、患者さんがリハビリの中止・休止を望んでいるような時には、無理に引き止めたり、深追いしないようにしています。患者さんはその後も透析室で変わらず、透析療法を受けているわけですから、また、リハビリが必要になったらいつでも介入を再開できる関係性を保つことが重要です。
我々、理学療法士は患者さんの最期まで関わることになります。患者さんとの関係性が悪くなるよりは「また必要があったらお声がけ下さい。定期的な身体機能検査にだけは必ず参加してくださいね」と声かけをしています。
自由に泳げる環境を与えてあげる
ー 今は教員として働いていますが、学生とか若手療法士を見ていて率直な意見をお願いします。
松沢 よく言う「最近の若い人は…」みたいなことは、全く感じていなくって、むしろ、「泳ぐ場所さえあれば、むちゃくちゃ泳ぐ」みたいな印象があります。若手療法士はどんどん進化してると思ってます。
臨床研究の分野で言えば、英語論文だって今は大学院生だって書くようになりましたし、書くだけじゃ飽き足らず、質の高い雑誌にどんどん通せるようになってきています。
先人達のおかげっていうのは当然ベースにありますし、実際、若手療法士もそのことを理解しています。が、レベルは圧倒的に上がっていると思いますよ。僕ら中堅は気を抜いていられません。
なので、一教員としては自由に泳げる環境を与えたいと思っています。また、泳ぐ手助けもできればと思っています。
ー 松沢先生にとってプロフェッショナルとは何ですか?
松沢 少しづつ形を変えながらも一つのことをやり続けることができる人だと思います。そうなれるよう、地道に頑張りたいと思います。