単身留学
ー 奥谷さんは、シドニーにはいつから住んでるんですか?
奥谷:高校生のときからずっとです。もともとのきっかけは、父親がインドに駐在になって、私も日本からついて行ったのですが、それから私だけオーストラリアに留学してきました。
こちらではフィジオセラピストというと花形の職業です。今でも記憶に残っているのは、新聞の1枚目に写真でドカーンとフィジオがグラウンドで怪我している選手に駆け寄っていく写真です。ああいう写真が掲載されるくらいですし、日本よりも馴染みのある職業です。
ー 確か、西オーストラリア大学の修士課程にも進まれていますよね?
奥谷:はい。でもその前に、セント・ヴィンセント総合病院に5年間勤務していました。「ブラックジャックによろしく」のモデルになった南淵先生がいた病院です。
そこでは、心臓・肺移植のリハビリテーションや集中治療室での呼吸器及び運動機能リハビリテーション、脳神経科で神経リハビリテーションに主に従事していました。
オーストラリアのフィジオは、学生の実習で必ずICUのリハビリを経験しておかなければいけません。
また、急性期病棟に入院している患者さんは、全員フィジオの対象になります。その中で、どの人に集中して介入するかはフィジオが判断します。この人はフィジオが必要で、この人は必要ないという判断も医師ではなくフィジオが自主的に行っていきます。
修士課程に進もうと思ったのは、臨床の引き出しを増やそうと思ったからです。自分の診療所(以下、プライベートプラクティス)をopenした時に、マニュアルセラピーを学んでおくと役立つと思ったからです。
キャリアチェンジ
ー 急性期病棟で働いていて、マニュアルセラピーの領域となると、またガラッと領域を変えた感じですね。
奥谷:修士課程に進む前は、神経リハビリテーショのチーム長だったのですが、やっぱり人間の身体なのでその経験はプライベートプラクティスでも活きています。健常者でも基本は脳が指令を送って身体を動かしていますので、モーターユニットの使い方とかそういうことは理解していないといけませんので。
ー 奥谷さんのプライベートプラクティスのHPを拝見させていただいたのですが、頭痛や顎関節に対する理学療法を推していた印象を受けました。それを打ち出した理由は何かあるのですか?
奥谷:うちは、シドニーの中心にあるので、既存のフィジオがたくさんある中で特色を出さないと経営がもたないだろうなと思ったのが本音です。
あと個人的な話で、うちの妻が歯ぎしりがひどくて、睡眠が取れないくらいだったんです。「これは絶対何かできるだろう」と興味を持って、いくつか顎関節のコースを受講してきました。
ー オーストラリアで顎関節症をフィジオが診るのは一般的なんですか?
奥谷:いえ、ニッチな領域ですよ。
患者さんも、みんな分からないんですね、どこに行って良いか。まずは歯医者に行くのが一般的なのですが、歯医者に関節の知識は無いので、あまり良くならず、別の専門医に行ってと、その繰り返し。マウスピースや矯正をやっても結局良くならず苦しんでいる患者さんはたくさんいます。
米国の文献によると、程度の差こそあれ、8割の人は人生の中で一度はアゴに何かしらの不具合を感じるそうです。
歯医者での治療の後に問題が起こるケースも多い
ー 奥谷さんは、どのように顎関節症を診ているのですか?
奥谷:顎関節症の治療法は、未だ世界でも確立されていません。
関節は左右2カ所で頭蓋骨につながっており、どちらか一方に不具合があると、自覚症状がなくとも反対側にも負担がかかっています。よって、最も大切なことは左右のバランスをみながら治療を行なうことだと考えています。
靭帯や筋肉など、顎関節周辺の軟組織のこわばりがあると、大きく口を開けた際、顎関節の軟組織が伸びすぎ、細かく破損してしまうことがあります。
細胞は一度破損されると、修復される際には固いものになりますから、開口した際に破損されやすくなります。それを繰り返していくうちに、関節がどんどん硬くなり、大きく口を開けることができなくなります。
あまり知られていませんが、歯医者での治療の後に問題が起こるケースも多いです。治療の際に、通常可動域を超えて開かれるので、靭帯を損傷する可能性があります。
治療では軟組織の適度なストレッチが大切で、ご自宅でも回復段階に合わせストレッチやマッサージを行なってもらっています。
奥谷さんの顎関節症診療の実際の場面はこちら⬇︎
https://www.jams.tv/insurance/50033
次のページ>> 「三叉頸椎髄核」が感作して、多種多様な症状を引き起こす?