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家庭でもめげずに続けられる言葉かけを【言語聴覚士 石上志保】

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小児分野で言語聴覚士として働かれる石上志保さん。石上さんは、病院などで勤務される傍ら、お家でも親子で楽しく取り組める「オノマトペカード」を考案された。きっかけの1つに、ダウン症を持つお子さんを子育てされる経験を通して、家庭でのコミュニケーションを改めて考えたからだと言う。今回は、石上さんのキャリアや人生のお話を通して、言語療育で大切なことを見直してみたい。

キャリアについて

ーこれまでのキャリアを教えてください。

石上:大学院を卒業後、知的障害児の通園施設や地域の福祉センターで成人期のコミュニケーション支援を行っていました。その後、2年ほどイギリスに住むことになり、帰国してからは、地域の福祉センターや病院、クリニックで小児期のコミュニケーション支援に従事しています。全体のキャリアとしては、少し小児が長いくらいになりました。

 

ー成人分野でのご経験は現在のお仕事に影響はありますか?

石上:一つは、どんな発達的背景をもつお子さんに対しても認知神経心理学的な視点で言語処理をみるようになった点です。

 

今でこそ、特に読み書き障害などで認知神経心理学的な言語処理について考えますが、読み書き障害についての知見が今ほど得られるようになる前は、小児分野ではそのような考え方はあまり一般的ではなかったように思います。

 

例えば、知的障害があるとか、認知機能が未熟だからということが、話せない理由だと説明されていたり。保護者としては、日常生活で色々なことを身につけることができたり、大人の言っていることは分かっているようなのに、どうしてお喋りができないかを知りたいんですよね。

 

それは、言語処理過程のどの部分の発達が未熟なのかを考えないと説明はできないはずなのに、暗に知的障害だからしゃべらない、と説明されてしまうような場合があるようで残念に思っています。

 

もう一つ、失語症会話パートナーの養成に関わらせていただいたことも、とても勉強になりました。今、コミュニケーションの取り方を保護者に説明するときにかなり役立っています。

 

ー小児分野では、その他の職種も言葉の発達に関連した支援をしますが、S Tがみる言葉の発達の強みはなんですか?

石上:やっぱり言語処理過程に注目して関わりができるかどうか、その観点で親御さんにご説明できるかは、STならではかもしれませんね。赤ちゃんの時から、どうやって聞く力や喃語が発達するか、音声の模倣がどうして重要なのか、そういうところから説明することで、お子さんについて、より理解が深まるように思います。

 

お家での言葉かけの重要性

ー先生は療育の中で、意識的に取り組まれていることはありますか?

石上:STのところに週1回や月1回通ったところで、それだけでは十分ではないですよね。お家でどんな風に声かけをするか、どんなタイミングで言葉を聞かせるとお子さんが音や大人に注目しやすいか、ということを、お子さんそれぞれのご様子に応じて保護者に丁寧に説明しなければいけないと思っています。

 

私のところにきて、次にいらっしゃるまでの間、親御さんがくじけずに、ゆっくりはっきり話し続けることができるだけの根拠を示すのが、私の仕事だと思うので。

 

ーゆっくりはっきり伝えた方が良い根拠は、どう示していくんですか?

石上:実際に、これくらいゆっくり、間をあけて話すとお子さんが大人の発話を真似する、注目する、というのを見て実感して帰ってもらえるようにしています。STが対応している間、お子さんがそんなに注目してなかったりすると、親御さん達もゆっくりはっきり伝えるモチベーションが持てないですよね。

 

ー親御さんは先生の実演を見て、実際どう感じられていることが多いようですか?

石上:「こんなにゆっくり話すんですね!」とびっくりされることが多いですね(笑)。ただ、日常でいつもゆっくり話し続けるのは難しいとと思うので、普通に話した後で「少し早かったかな?」と振り返って、単語だけでもゆっくり言い直したり、お子さんの発話を待つ時間をとったりすることが日常になったら良いなと思います。

 

うちの子はダウン症なんですけど、講演などでは、息子に早口で話しかけたときと、ゆっくり話しかけたときの反応の違いを実際の音声で聞いてもらったりしています。

 

皆さんそうなんですが、ご両親は常に言葉かけは意識されているつもりだと思うんです。それでも効果を感じられないから、療育にいらしゃって、そこで効果を得ようとする。なので、実際に話しかけ方による子どもの反応の違いを見ていただくか、聞いていただくことで実感してもらえたらな、と思います。

 

子育てを通して

ー息子さんの言語発達に向き合う中で、何か感じたことはありますか?

石上:こどもの言葉の発達上、日常の関わりがものすごく影響すると、改めて感じるようになりました。だから、療育での1時間がお子さんたちの日常にどれだけ影響を与えられるか、というのをかなり考えるようになりましたね。

 

言葉って、赤ちゃんのころから、ずっと聞いたり話したりして発達させていくものですよね。私たちは、聞き取れるし、把持できるし、処理できるからどんどん発達させてこれましたけど、そうはいかない子どもたちもたくさんいます。

 

処理できない“スピード、声の大きさ、言葉の長さ”でいくら聞かされていても、言語処理的にそんなに良い影響はないだろうなと思います。日常でどれだけ効果的に聴かせられるかが大切だと実感しています。

 

ー日常で意識し続けるのは難しさもありますよね。

石上:言語発達は何年もかかるので、毎日、話しかけ方に気をつけ続けるのは大変ですよね。だから親御さんたちも途中で挫けそうになるんだと思います。

 

お子さんの発達に変化がある時は頑張ったりできるんですけど、おしゃべりし始めたり、日常的な指示理解が良くなってくると、また意識するのを忘れちゃうことは良くあります。発達の先が長すぎて見通しが持てないんでしょうね。そこをどんな風に支え続けられるかは、子どもが生まれてからより意識するようになりましたね。

 

だから、今の言葉の発達の現状と次の次の段階くらいまでは時期も含めてお伝えしようと思っているのと、親御さんに、できるだけ挫けずに効果的な関わりを続けてもらえるようにと思っています。

 

オノマトペカードについて

ーオノマトペカードってなんですか?

石上:療育の中で音声模倣が出やすいようにオノマトペでの言葉かけを意識していたんですけど、おうちでも音声模倣が自然と出てくるきっかけとして使ってもらえたら良いなと思って作ったのがオノマトペのイラストカードです。

 

もともと、私が手作りしたカードデータを無料で配布していたんですけど、たまたま以前担当していたお子さんのお母さんが編集のお仕事をされていて、「良かったらうちで作りませんか。」と言って下さったんです。

ーオノマトペに特化したのはどうしてですか?

石上:おしゃべりだけがコミュニケーションの手段ではないですが、可能なら、音声を使えると楽だと思うんですよ。いろんな音を真似するという経験なくして、自由にお話するようになるのは難しいだろうから、まずはいろんな声を真似するところからトライして欲しいなと思います。そのためには、音の繰り返しが多くて、意味もイメージしやすいオノマトペが最適だと。

あと、「ゴシゴシ、ごくごく」など日常で皆さんがよく使っているもの以外はなかなか意識して使い始めるのは難しいかもしれないので、そのアイディアになればという思いもあります。

オノマトペカードに限らず、実際、生活の中で息子とやってみて、これは無理なく取り入れられそうと思ったものを、皆さんにご紹介したりしています。

 

ー息子さんの反応はどうですか?

石上:日常の話しかけ方を意識するだけでも変化は感じますね。それから、小学3年生くらいからは、毎日10分程度、復唱やクイズなど「聞く・話す」トレーニングを続けています。伝えられる内容が広がったり、返事が速くなったり、おしゃべりの成長は感じるので、トレーニング的に言語処理を繰り返すうちに処理スピードが早くなってくるんだなぁと実感します。復唱する力がついたので、外から新しい言葉を吸収してくる頻度も高くなりました。

 

最後に

ー後輩STへ何かキャリアについてアドバイスがあればお願いします

石上:アドバイスというか、私が心がけているのは、お会いする度に、保護者が疑問に思っていることを確認して、その場で説明すること、そして、わからないことは、わかりませんと言うことです。

 

親御さんから質問されたから答えなきゃと思うあまり、根拠のないことをもっともらしく言うのは不誠実だし、危険ですよね。もちろん、お子さんのことを心配してご相談にいらっしゃっているのに、なんでもかんでも「わかりません」では困るので、普段から勉強し続けることは大切だし、多くのお子さんから自分が学び続ける姿勢は忘れてはいけないと思っています。

 

もし、どう答えていいかわからなければ、きちんと調べて返すとか、自分よりもよく知っているS Tに相談したり紹介したりすることも大切ですね。1人職場の人も多いし、なかなか難しいと思いますが、親御さんたちはなんとかしなきゃと思って通われているので、誠実に対応していきたいですね。

 

インタビュアー:三輪桃子(言語聴覚士)

家庭でもめげずに続けられる言葉かけを【言語聴覚士 石上志保】

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