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「 歯科による口腔管理が経口摂取の確立と在院日数短縮に関連 」 ― 高齢肺炎入院患者に対する歯科管理は有効である ―

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ポイント

  •  ・65 歳以上の肺炎入院患者において、歯科専門職による口腔管理の効果を調査しました。
  •  ・歯科による口腔管理は、退院時の経口摂取確立の有無に影響しました。
  •  ・さらに、肺炎の重症度や併存疾患に関わらず在院日数も短縮しました。
  •  ・医科歯科連携における歯科口腔管理の効果が明らかとなりました。

 

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、中川量晴助教、吉見佳那子特任助教の研究グループは、三重大学大学院医学系研究科リハビリテーション医学分野の百崎良教授と共同で、高齢肺炎入院患者に対する歯科口腔管理が経口摂取の確立と在院日数短縮に有効であることをつきとめました。この研究は一般社団法人 日本歯科医学会連合の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Journal of Nutrition, Health and Aging に、2021 年 7 月 26 日にオンライン版で発表されました。

 

研究の背景

肺炎入院患者は、治療により一時禁食状態となり、経鼻経管栄養※1 や胃ろう、点滴により栄養管理されることがあります。禁食中は口やのどを使わないために、口腔衛生状態が悪化したり、口腔・嚥下機能が低下しやすくなったります。患者の全身状態が改善すると少しずつ経口摂取を再開しますが、安全な経口摂取を行うためには、嚥下機能評価や摂食嚥下リハビリテーション※2 に加えて、口腔状態の評価や適切な口腔ケア、歯科治療が必要であるとされています。一般的に、歯科がない病院では主に看護師が口腔管理を行います。著しく口腔状態が悪い場合や義歯に不具合がある場合には、看護師だけでは管理が困難となるため、歯科との連携を模索する必要があります。そこでこれまで入院患者に対する医科歯科連携に関する研究がなされ、その有効性や連携の形態が実証されてきていました。しかしながら、肺炎で急性期病院に入院した患者に着目した研究は今回が初めてです。肺炎は嚥下機能が低下することによっても発症します。本研究では、急性期病院の肺炎入院患者を対象として、歯科医師、歯科衛生士が実施した歯科口腔管理の効果を、おもに経口摂取状況との関係に焦点をあてて明らかとすることを目的としました。 

 

研究成果の概要

本研究は、某大学病院に新たに歯科が開設された前後のデータを比較しました。対象者は、嚥下障害の疑いでリハビリテーション科に摂食嚥下リハビリテーションの依頼があった 65 歳以上の急性期肺炎患者です。診療録より、年齢、性別、肺炎重症度、併存疾患の数、入院時 BMI、入院時バーセルインデックス※3、入院時と退院時の経口摂取状況(FOIS: Functional Oral Intake Scale)※4、リハビリテーション科および歯科の介入までの日数と介入回数、在院日数を調査しました。経口摂取状況は、食事形態に関わらず、経管栄養を併用せずに食全て経口摂取できているものを「経口摂取確立」と定義しました。患者の口腔状態は、口腔アセスメントツール OHAT(Oral Health Assessment Tool)を用いて数値で評価しました。

 

歯科開設後は、歯科口腔管理が必要な患者はリハビリテーション科から歯科に紹介されました。歯科医師と歯科衛生士が患者の状態に応じて、口腔ケア、義歯の調整や修理、抜歯など必要な治療を実施しました。また、患者の歯や義歯の状態、口腔機能を考慮した食事形態※5 を歯科が提案しました。

 

データの解析は、歯科口腔管理を行なった患者 50 名に対して、歯科が開設される前の歯科管理を行なっていない患者 179 名を対照例としました。各群の対象者を入院順に並べ、OHAT スコアが同じものを 1 対 1 でマッチングさせ、歯科口腔管理あり群と歯科口腔管理なし群をそれぞれ 50 名としました。まず、経口摂取確立の有無を従属変数として多変量ロジスティック回帰分析を行い、歯科口腔管理が退院時における経口摂取の確立と独立して関連しているかどうかを調べました。さらに、退院時の経口摂取状況(FOIS スコア)と在院日数を従属変数として重回帰分析を行い、歯科口腔管理が独立して関連しているかどうかを調べました。なお、回帰分析には交絡因子の調整のため傾向スコアマッチング法を用いました。傾向スコアは、ベースラインの共変量、年齢、性別、肺炎重症度、併存疾患の数、入院時 BMI、入院時バーセルインデックス、入院時 FOIS スコアから算出しました。

 

解析の結果、①退院時における経口摂取の確立、②退院時の経口摂取状況(FOIS スコア)、③在院日数、いずれにおいても、患者の肺炎重症度や併存疾患によらず、歯科口腔管理が有意に関連していました。本研究の対象患者は、嚥下障害に対し言語聴覚士が摂食嚥下リハビリテーションを実施していました。ここに歯科が関わり、口腔衛生状態や口腔機能の適切な評価と管理を行うことで、リハビリテーションの効果を高め、患者の経口摂取確立に寄与できたと考えられます。さらに、入院中に経口摂取を確立できたことが、在院日数の短縮にも繋がったと推測されます。

 

研究成果の意義

これまでに報告されている入院患者における歯科関連の研究は、口腔ケアによる肺炎発症予防効果や、全身と口腔状態の関係性に注目したものが多数であり、高齢肺炎患者への歯科口腔管理自体の効果を検証した研究はありませんでした。本研究の対象患者の口腔の状態はさまざまであり、治療内容や診療頻度も患者の状態に応じて設定しました。本研究は、患者にどのような歯科治療をしたか、ということよりも、入院早期に歯科が介入し、口腔の評価と対応を行った、という点がポイントです。病院に歯科が開設されたことにより、チーム医療に歯科専門職が参加し、口腔や嚥下の状態を他職種と共有できたこと、さらに看護師に口腔ケア方法3の指導を行うなど、病院スタッフの口腔への関心を向上させることに繋がったと考えられます。

 

さらに、摂食嚥下リハビリテーションに歯科専門職が関わることの効果に注目したのも本研究が初めてです。「口から食べる」ためには、口腔内を清潔にして口腔衛生状態を良好にするだけでなく、食べ物を噛んだりまとめたりするために必要な口腔機能の評価、治療と管理が不可欠です。歯科専門職の関わりにより早期に経口摂取を確立し、在院日数が短縮することは、患者だけでなく医療者側にも大きなメリットがあると言えます。今後は、どのような歯科治療や管理の方法が適切であるかも含め、歯科口腔管理の効果を検証したいと思います。

 

【用語解説】

※1 経鼻経管栄養・・・・・・・・鼻から胃にチューブを通し、栄養剤を投与すること

※2 摂食嚥下リハビリテーション・・・・・・・・食事を噛んだり飲み込んだりするために必要な筋肉を鍛えたり、食事の姿勢の調整や、食べ方の指導を行うこと

※3 バーセルインデックス・・・・・・・・日常生活動作(ADL)を評価するスケール

※4 経口摂取状況(Functional Oral Intake Scale)・・・・・・・・Level.1「経口摂取なし」から Level.7「正常(制限なく通常の食事ができる状態)」の 7 段階での評価方法

※5 食事形態・・・・・・・・ムース食やペースト食、刻み食などの調整食の分類

 

【論文情報】

掲載誌:Journal of Nutrition, Health and Aging

論文タイトル:Effects of Oral Management on Elderly Patients with Pneumonia

DOI:https://doi.org/10.1007/s12603-021-1660-0

 

詳細▶︎https://www.tmd.ac.jp/press-release/20210818-1/

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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