PT・OTのための歩行に繋がる靴選びと臨床応用

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インソールの作成において、セラピストは関節可動域や筋力、神経学的所見、歩行分析などの評価に意識が向きがちです。しかし、患者さんや利用者さんが地面と接する「靴」の適合を軽視しては、いかにいいインソールを作成できてもその効果を十分に発揮できません。当然、徒手療法や運動療法を行っても「靴」が最適化されていなければ、歩行などの動作で十分な効果を発揮できません。

本記事では、足部バイオメカニクスに基づいた「理学療法士・作業療法士が知っておくべき靴選び」について解説します。

1. はじめに:なぜセラピストが靴をみるべきか

歩行における立脚期は、踵接地(Initial Contact)から離地(Pre-Swing)まで、わずか0.6秒足らずの現象です。この短時間に、足部は衝撃吸収のための「柔軟な構造」から、推進力を得るための「強固な構造」へと、動的にその剛性を変化させます。これをウィンドラス機構、トラス機構と呼ぶことは馴染みがあるかと思います。

不適切な靴は、この足部本来の機能を阻害し、外反母趾、足底筋膜炎、さらには膝OAや腰痛といった上行性運動連鎖の歪みを引き起こします。セラピストが靴の構造を理解することは、歩行の改善や競技パフォーマンスの向上のためには必須のスキルと言えます。

2. 靴選びの「5つの鉄則」

① ヒールカウンター(踵部芯材)の剛性と足部アライメント

まず最も重視すべきは、ヒールカウンターの剛性です。

足部疾患や膝OA患者の多くは、立脚初期に距骨下関節の過回内を呈します。強固なヒールカウンターは、距骨下関節の過回内を抑制し、踵骨の垂直性を保持する役割を果たします。

またBartonら(2009)の系統的レビューでは、靴の構造的特徴(特に後足部のコントロール性)が足底筋膜炎や内側脛骨ストレス症候群の運動連鎖に影響を与えることが示唆されています。

つまりヒールカウンターを指で押して簡単に潰れるような靴は、踵接地(以下、IC)から内側縦アーチの崩れを許容してしまい、各関節や筋への負担が増大する可能性が高くなります。

② 留め具(紐・ベルト・ワイヤー)の重要性

「脱ぎ履きのしやすさ」を優先したスリッポン形式の靴や留め具がない靴は「前滑りしやすい靴」です。靴の中で足部が前方へ滑ると、足趾が屈曲して踏ん張る「ハンマートゥ」様の代償動作が生じ、効率的な蹴り出しが阻害されます。また足趾の変形を助長したり、皮膚トラブルの原因にもなります。

2012年のHagenらの研究では、靴の紐を締める強さが足底圧分布に有意な影響を与えることが示されており、適切に締められた靴は、足部と靴の一体感を高め、推進効率を向上させます。

最適な留め具は調整の幅が効きやすい「紐」になります。この紐の選び方や通し方、さらには履く時の紐の締め方で対応の幅が広がります。今後の記事やセミナーで詳しく解説していきます。

また片麻痺患者様や高齢者において、「脱ぎ履きしやすく、足部安定性を確保できる靴」を選択する際に、BOAシステムワイヤーやベルト、紐とチャックの併用している靴を選ぶことも検討が必要です。

③ MP関節(中足趾節関節)での屈曲性

靴の屈曲ポイントは、MP関節と一致しなければなりません。靴を曲げた際、MP関節相当部でスムーズに屈曲するかを確認してください。MP関節より前または、曲がりにくい場合は、蹴り出しが十分に行えず次の項目とも関連があります。

④ シャンク(芯材)による安定性の確保

靴の底(ソール)の土踏まず部分には「シャンク」と呼ばれる芯材が必要です。

シャンクは靴の「背骨」です。これにより、歩行時の捻じれを防止し、中足部の剛性を担保します。シャンクが不十分な靴は、立脚中期にアーチが落ち込みやすく、後脛骨筋などの内側支持機構に過度な牽引ストレスを与えます。またシャンクがない靴では、MP関節で曲がらない靴も多いため注意が必要です。代表例として子どもの上履きやスリッパ用の室内履きです。よく入院患者の方や在宅で目にすることは多いのではないでしょうか?上記画像のようにMP関節で曲がる靴であればシャンクが入っています。

⑤ 適切な捨て寸(1~1.5cm)

最後に「捨て寸」の適合は、最もエラーが起きやすいポイントです。

靴の表記のサイズが実際の靴の内寸と同じと勘違いしていませんか?実際には25.0cmの靴は中敷を外して測ってみると1〜1.5cmの余裕(捨て寸)があり、26〜26.5cmあります。ウォーキングシューズやスニーカーでは1〜1.5cmの捨て寸が基本となります。

ですが陸上のスパイクなどでは捨て寸がほとんどないものがあり、他のスポーツシューズでは1cm未満であることが多いです。これはできるだけ靴の中で足部が動かない様にするためです。以上のことから中敷(インソール)を外せる靴を必ず選択しましょう。

合わせ方としては下の画像のように中敷の上に踵を合わせて立たち、つま先に人差し指の横幅一本分程度の余りがあるかを目視で確認するのが、最も簡易的なスクリーニング法です。

3. まとめ:セラピストが「靴」という環境を変える

私たちは「機能改善(筋力・可動域)」に固執しがちですが、物理的な環境である「靴」を整えることは、それ自体が立派な理学療法・作業療法です。

明日からの臨床で、まずは患者様の靴を手に取ってみてください。

踵は硬いか?

MP関節で曲がるか?

留め具の種類は?

捨て寸は適切か?

その一歩が、患者様の歩行を変えるきっかけになるはずです。

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<参考文献>

  • Barton, C. J., Bonanno, D., & Menz, H. B. (2009). The efficacy of foot orthoses in the treatment of plantar fasciitis: a systematic review. Sports Medicine, 39(11), 943-958. (後足部のコントロールと足底筋膜炎の関連性に関する系統的レビュー)
  • Hagen, M., Hennig, E. M., & Stieg, C. (2012). Lower leg muscle activity and foot motion in lacing-tightness-dependent running. Gait & Posture, 35(4), 532-536. (靴紐の締結強度が足部動態および筋活動に与える影響についての研究)
  • Kirby, K. A. (2000). Biomechanical Foot Therapy with In-Shoe Orthoses. Clinics in Podiatric Medicine and Surgery, 17(3), 445-460. (インソールおよび靴の構造が足部バイオメカニクスに与える力学的機序)
  • McPoil, T. G., & Vicenzino, B. (2005). Foot orthoses in physical therapy management: a structured paradigm. Physical Therapy in Sport, 6(3), 132-144. (理学療法における足底挿板・靴処方のパラダイム)
  • Windle, S. A., et al. (1999). The effect of footwear on the gait of the elderly. Journal of the American Podiatric Medical Association. (高齢者の歩行における靴の影響と安定性に関する研究)
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