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都市部地域住民を対象とした脳卒中発症の予測モデル(リスクスコア)の開発

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国立研究開発法人 国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)健診部の小久保 喜弘 特任部長らは、都市部地域住民を対象とした吹田研究(注1)を用いて、脳卒中の予測モデルを開発し、本研究成果は、国際誌「Cerebrovascular Diseases」に2021年11月30日に公開されました(注2)。

 

背景

脳卒中は、国民の死亡原因の第 4 位を占めており、要介護が必要となった主な原因は、認知症(17.6%)が第1位で、脳血管疾患(16.1%)が第2位です(注3)。65歳以上認知症患者の約3割は、脳血管性障害を基盤とする血管性認知症が占め、我が国の高齢化率が世界で最も高く、さらに増加し続けているため、脳卒中患者数のさらなる増加が予想されており、脳卒中予防が非常に重要です。近年、複数の脳卒中の予測モデルが出てきていますが(表1)、それらの結果は必ずしも一致しておりません。そこで、都市部地域住民を対象とした吹田研究を用いて、脳卒中の予測モデル(リスクスコア)を検討しました。

 

研究方法と成果

吹田研究参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器病の既往歴のない6,641名(男性3,065名、女性3,576名)を対象に、脳卒中の新規発症を追跡しました。

 

その結果、平均17.1年の追跡期間中に372名に脳卒中が新たに発症しました。リスクスコアモデルの構成因子として年齢(45~54歳、55~59歳、60~64歳、65~69歳、70~74歳、75~79歳)、喫煙、収縮期血圧(130~139mmHg、140~149mmHg、≥150mmHg) 、高血糖(100~125mg/dL、≥126mg/dL)、慢性腎臓病、心房細動が最終的に残り、それぞれのスコアを提示しました(表2)。それぞれのスコアの合計と10年間の間に新規発症する脳卒中の予測確率を求めました(表3)。例えば、66歳(9点)で、吸わない(0点)、収縮期血圧136mmHg(1点)、空腹時血糖112mmHg(1点)、慢性腎臓病(1点)、心房細動なし(0点)であれば、合計点が12点となり、10年以内に脳卒中を発症する予測確率が。

 

考察

今回の結果は、これまでの日本の脳卒中予測モデルとよく一致していました。 たとえば、年齢、喫煙、高血圧、糖尿病は、これまでの日本の脳卒中リスクモデル全てにも含まれており、心房細動はJALS研究にも含まれていました。腎機能ではクレアチニンや尿蛋白としては項目が出ていましたが、慢性腎障害としては今回初めてです。また、今回のリスクモデルでは、性別、過体重以上、降圧剤、HDLコレステロールは未調整による解析では有意でしたが、多変量調整では関連性がなくなりました。

今回のモデルで重要なことは、高血圧や糖尿病の診断を受けなくても、高値血圧と耐糖能障害が脳卒中発生の重要な危険因子であることを示しました。 吹田研究ではこれまでに高値血圧(120~139/80~89mmHg)でかつ耐糖能障害(空腹時血糖100~125mg/dL)を有する研究対象者が全体の1割に相当し、循環器病の危険度が約2倍であることを示しました(注4)。このような結果により、より早い段階で予防的に生活習慣の改善を開始することを奨励します。

 

今後の展望と課題

吹田研究ではこれまで、冠動脈疾患、心房細動、循環器病の発症予測ツールを開発してきました(注5)。今回、脳卒中の発症予測ツールを開発することで、主要な循環器病がそろった形になりました。

サンプル数が小さいため、脳卒中の病型別分類によるリスク予測モデルを提示することは出来ませんでした。脳梗塞や脳出血のリスク予測モデルを開発するためには、さらに大規模のコホート対象者を用いて検討する必要があります。また、今回のリスク予測モデルには、生活習慣の中でも食事要因や運動、睡眠などに関する要因を検討しておりませんので、今後さらなる研究が必要です。

 

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。

  • ・国立研究開発法人国立循環器病研究センター(循環器病委託研究費「20-4-9」)
  • ・研究成果展開事業 共創の場形成支援プログラム: 世界モデルとなる自律成長型人材・技術を育む総合健康産業都市拠点(JPMJPF2018; 分担研究者 小久保喜弘)
  • ・厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)「生涯にわたる循環器疾患の個人リスクおよび集団リスクの評価ツールの開発及び臨床応用のための研究(20FA1002;分担研究者 小久保喜弘)
  • ・明治安田生命と明治安田総合研究所

 

表1.脳卒中リスク予測モデルを開発した日本の研究の要約

[1] Nihon Koshu Eisei Zasshi. 2006;53:265–76; [2] Hypertens Res.2009;32:1119–22; [3] J Epidemiol. 2009;19:101–6; [4] Stroke.2013;44:1295–302; [5] Circ J. 2016;80: 1386–95; [6] Hypertens Res. 2019;42:567–79; [7] J Atheroscler Thromb. 2021 Jan 22. doi: 10.5551/jat.61960.

 

表2.脳卒中発症リスク因子とスコア

 

 

表3.スコアレベル別による10年間の脳卒中発症予測率

 

 

 

注釈

(注1)吹田研究 

国循が1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因等を解析する研究手法)で、大阪府吹田市民を性年代階層別に無作為に抽出した吹田市民を対象としています。全国民の約90%は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられています。

 

(注2)Arafa A, KokuboY, Sheerah H, Sakai Y, Watanabe E, Li J, Honda-Kohmo K, Teramoto M, Kashima R, Nakao Y, Koga M. Developing a Stroke Risk Prediction Model Using Cardiovascular Risk Factors: The Suita Study --Stroke Risk in Urban Population. Cerebrovascular Diseases. 2021.

 

(注3)令和元年国民生活基礎調査(厚生労働省)

 

(注4)Kokubo Y, et al. The combined impact of blood pressure category and glucose abnormality on the incidence of cardiovascular diseases in a Japanese urban cohort: the Suita Study. Hypertens Res. 2010;33:1238-43.

 

詳細▶︎https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_30721/

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

都市部地域住民を対象とした脳卒中発症の予測モデル(リスクスコア)の開発

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